第6話 俺と箱の中身

 まず最初に唯一の金物である手乗りサイズの羅針盤から。


 こいつは羅針盤のようなもののくせに壊れたように針がくるくる回転しつづけている。間違いなく新品のはずだし、宝箱からこんなガラクタらしいガラクタが出てくるわけないので、何か意味があるんだろう。全く検討つかない……なんだこれ。


 よくわかんないモノは置いておいて、次。丸めてあり、赤い紐でまとめられている羊皮紙だ。紐を解いて広げてみると、一般的な小さめの地図と同じサイズになった。 


 しかし表面にも裏面にもなにも書かれていない。完全なる白紙。いや、まさか本当にこの箱はガラクタ入れだったのか?



「あ、それ!」

「なに、知ってるのか」

「うん。ちょっと貸して」



 何か知っていそうなロナに白紙を渡すと、彼女はそれを両手でしっかりと持ったままジッと睨み始めた。そうすると、なんとその表面から徐々に地図のようなものが浮かんできたではないか。映し出されているのはおそらくこの近辺だ。


 なるほど、魔力を込めることで発動するタイプのものだったか。表記されている大量で色とりどりのバツ印が気になる。



「やっぱりそうだ! これすごいモノだよ!」

「どれくらい?」

「ものすっごく! ……いつだったかな、親戚のSランクの冒険者が自慢しながら同じモノ見せてきたから知ってるの。これ『ダンジョンの地図』って言う宝具なんだって」

「ダンジョンの地図?」

「うん、私もちゃんとは覚えてないんだけど……」



 ロナ曰く、この地図に映し出されているバツ印は全部ダンジョンがある場所のようだ。その色や大きさによって、ダンジョンの深さや、誰かが入った形跡があるかなどの情報がわかるらしい。図の右上のすみっこの方に各色がなにを表しているか小さな文字で説明書きがされている。


 また、魔力を注入したあと一時間しかこの地図の内容を保てない代わりに、前の内容が消えてから別の場所で使うと、しっかりとその場所に合わせて反映されるようだ。



「本当にものすごいんだなぁ。ダンジョンを簡単に見つけられるということは、人によってはほぼ無限に金が稼げるということだろ? ……下手すればこれ、億単位の金で売れるか……?」

「お、億……!」

「まぁ、慌てるのは早い。最後の一つも見なくっちゃな」



 最後は短冊状に裁断された羊皮紙に、びっしりと紋様というか文字というか、魔術的なものが描かれている代物だ。そしてどうやらロナはまた、この紙がどういったものか知っているようだった。



「それはね、能力の札っていう宝具だよ」

「能力の札?」

「うん! 額にかざして使うんだけど、その紙一枚につき一つ能力が宿っていて、その能力を自分のものにできるらしいの。でもどんな能力かはかざして見てみるまでわからないみたい」

「さすがは竜族。こう言ったものには詳しいな」

「えへへ、まあね!」

「……で、習得してみるか? これ。俺が強い能力持っていても仕方ないし」

「それはザンの物だよ? 少なくともザンが能力を確かめて、いらなかったらそのあとどうすればいいか決めようよ」

「それもそうだな」



 俺はこの能力の札をおでこに貼り付けてみた。その途端、まるで能力や称号を取得したときのように、頭の中にホワホワと文字が浮かび上がってくる。



<能力の札・・・『強制互角』>


-----

『強制互角』


 自分と相手のステータスを同じものにする。生き物としてまるで違う存在に対してもこの効果は適応される。基本的に無効化することはできない。


 一定の範囲内にいる相手が自身に敵意を持つか、自身が相手に敵意を持つことによって発動できる。範囲内の対象になりうる存在はすべて対象になる。


 この効果が適応される時間は二十四時間である。二十四時間経つと相手のステータスは元に戻る。また、使用者の意思で解除することもできる。加えて魔力を消費することで効果範囲を広げたり、効果の対象を自由に選択できたり、合わせるステータスの内容を選べるようになる。

-----


<この能力を習得しますか?>



 つまりだ、この能力は俺と敵のステータスを同じにするんだろう? 無効化は基本的にできないと書いてあるから、誰に使っても、どうあがいても相手が俺と同じになるわけだ……な? な?



「すぅーーー………はぁー………」

「ど、どしたの?」

「いや、ちょっと深呼吸しただけだ」



 ああまて。それで……俺は? 今日の事故のせいですっかり雑魚なのだ。よわよわだ。全世界中最弱と言っても過言ではない存在。全数値が初期値で魔法も術技も使えないのだから。


 で、例えばSランクと指定されている超強い魔物が敵意を持って俺を殺そうとしたとしよう。そうするとそいつは俺と同じステータスにしてしまうことができるわけだ。魔法も術技も使えない存在に成り下がる。つまり。ああ、つまりだ……!


 おっと、ロナが俺を見て心配と困惑が混じったような顔をしているな。詳しく話す必要があるだろう。



「ロナ、今からこの能力がどんなものだったか教えよう」

「そ、そんなもったいぶる必要があるものなの?」

「あるよ」



 ロナに事細かにこの『強制互角』の効果を説明した。彼女はちょっと考え込むと、眉をひそめる。



「うん、効果は分かったけど、あんまりだね……。だって、対象によってはむしろ相手を強化させちゃうんでしょ? 格上にはいいかもしれないけど、格下のことも考えると……。残念だけど、宝具としてはハズレの……」

「確かにそうかもな。だが俺はこの世に、ステータスだけなら格上しか存在しないぜ?」

「それはステータス見たから知ってるよ。本当に辛いだろうに……ん?」



 どうやらロナも気がついたようだ。ちょっと遅いような気もするが。驚きのあまり、彼女は目を見開き、口を大きく開け、今にも大声で叫びそうになる。その口を俺は慌てて抑えてやった。



「あっ! ふごごごごごご!」

「しーっ。この宿に泊まっているのは俺たちだけじゃないぜ」

「はっ……ごへんなはい!」



 ロナの口から手を離す。吐息が温かい……はっ! 俺は紳士だ、美少女の吐息を手に受けて喜ぶんじゃあない! 落ち着け。もう一度よく落ち着くんだ。この二重の興奮を抑えろ。



「ふぅ……ふぅ……はぁ。どうやら運は俺のことを見捨ていなかったようだ」

「そ、そうだね……!」



 本当は、呪いをもう受けない体になったことを生かして、パンドラの箱を開ける専門の人になって稼ごうだとか、それを元手に商人としての素質を使って商売を始めようだとか考えていたけれど、もうその必要もない。もっともっと稼げる力が、今この俺に、授けられたのだから!



「……地図を売るのはやめだ」

「えっ?」

「明日は無一文になるが心配はない。ロナ、もし良ければ、協力してほしいことがある」

「わ、わかった! 私がザンにできることだったらなんでも言って! 本当になんでも、なんでもするから……。今日もらった恩はしっかり返すから!」

「ああ、よろしく頼む」



 とりあえず今日は色々ありすぎたから頭を休ませたい。動くのならば明日だ。明日、俺とロナは大量の金を得ることになる……! ふはは、ふははははははは! はーっははははははは!



「……は! うっ! ゲホッゴホッ」

「大丈夫⁉︎」

「だ、大丈夫」



 あんまりうるさくならないよう、声を抑えて笑ったらむせてしまった……。










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