第28話 我に解決の秘策あり!!

 この戦闘を回避する打開策は何かないのか!? そう思い藁をも掴む思いで、隣にいる静音さんに声をかけることにした。


「静音さん、天音はどうしても戦わないといけないのか!? 聞けばあのおっさん、元は前の勇者パーティだって言うじゃないか! そんな仲間同士で戦うみたいなこと……」

「アナタ様お忘れですか? これはまだ『チュートリアル』なのですよ。ですからこの戦闘は避けては通れません」


「っ!?」

(そうだ! そうだった!! あまりにも長くて、オレはこれが『チュートリアル』だった事をすっぱり忘れていた。なんだかもう5万文字くらいチュートってる感じがするのだが……それは気のせいだよな?)


「ですが……1つだけアナタ様にもできることがございます!」

「えっ? マジで!? オレは何をすればいいの!?」


 ここに来て『一緒に応援しましょう♪』とか抜かしやがったらオレは本気で殴るかもしれない。例えそれがヒロイン相手だったとしても……。


「敵は二体で天音お嬢様はお一人。つまり今は2対1の状況なのです。これを1対1の状況にするだけでも、天音お嬢様を手助けすることになります。ですからアナタ様はアルフレッドの相手は無理だとしても、クマBの相手をすれば良いわけです!」

「確かにそうだ! 敵が2体なんだから天音一人で戦うのは無謀だもんな! よーし、このオレが………ってクマBtoトゥー?」


 オレは動揺から『と』が『toトゥー』とローマ字表記で表現させてしまうほど、混乱していた。


「うぇ゛っ!? お、オレも戦うの!?」

「そうです」


 静音さんはそう短く返事をした。ここで静音さんが変なことを言えば、オレが突っ込んで戦闘参戦この雰囲気をアヤフヤにできるのだが、生憎としかも真面目に短めの言葉を発し、オレにツッコミ&アヤフヤにさせるその隙を与えてくれなかった。


「お、オレに何ができるっていうんだよ一体……」

「別にワタシは『アナタ様に戦え』とは言ってません。少しでもクマの気を惹き付けるだけでも、天音お嬢様の役には立てます。アナタ様……この意味・・はわかりますよね?」


 オレは戦闘未経験の立場から弱音を吐いてしまう。つまりはクマBとは戦わずに回避・防御に努めろと……静音さんはそう言いたいわけか?


「でもさ、仮にも相手クマなんだよ。パンダの仲間お友達なんだよ?」

(そもそもクマと対峙どころか、まだこの世界の雑魚のモンスターザコモンにすらお目にかかってない。それでいきなりクマと対峙し、気を惹き付けろ! ってさ、これは完全無理ゲーもいいところだよな)


「そうですね。一見クマはあの重そうな身なりからして動きが遅いように思われがちですが、基本的に100mを6秒で走れるくらい足も速いわけですしね」

「……はやっ!? もしクマが人間世界でデビューできたら世界新も軽いよな!?」


 もはやそれは回避に徹するどころか、1撃死だって十二分にありえる自体だった。


「(お手手ぶんぶん)」

「(こんなにものんびりとしているのに……可愛い顔してなんとやらだな!)」


 クマBは自分の事を言われてるのにも関らず、頭に『?』マークが浮かんでいた。そして動物園のエサを強請る飼育クマっぽく、オレと静音さんに向け手を振ってきた。


「……ですが、このワタシに秘策があるのです!」

「えっそうなの!? だったらその秘策とやらを早く言ってくれよ!」

(秘策かぁ……なんだろう???)


 オレは期待しつつ、静音さんの次の言葉を待った。


「ズバリですね……それは『ガンジースタイル』なのですよ、アナタ様!!」

「そうだったのか!? クマにはあの有名な『ガンジースタイル』が有効なのか……んんっ!? な、何それ??? ガンジーってあの眼鏡かけ平和を唱えたおっさんだよな?」


「それはさ……つまり『完全無抵抗主義』ってことなのか?」

「まさにそのとおりです! まずはクマBの目の前にアナタ様が現われ注意を惹き、そして地面と一体化するようにお友達になるようにうつ伏せになり、静かにしていればやり過ごせます!(ドヤ)」


 またもや静音さんは「良いこと言ったワタシ♪」と言いたげにドヤ顔で決めていた。


「でもさ、それって……いわゆる『死んだふり』だよね?」

「まぁ日本語で言うならそうなりますね!」


 いやいや、日本語でしか言わんがな! ……英語では言わないよね?


「ほんっっっっーーーとに、それで大丈夫なの?」


 オレは疑り深くも、また念を押すかのように静音さんに尋ねた。


「もちろんでございますよ! 何せクマに『死んだふり』をして生還できる確率は……」

「ご、ごくりっ……確率は?」


 オレは息を飲み、静音さんの次の言葉を待った。


「な、な、な、なんと『生還率100%』なのですよ!」

「えっ? ……本気マジで??? すっげぇ~んだな『死んだふり』ってさ!! オレはてっきり『生還率50%』とかそんなもんだと思ってのだが、まさかまさかの『生還率100%』とは……なかなかやるな『死んだふり』のヤツも」


「ちなみになのですが、これはちゃんと科学的統計に基づいた事柄なんですよ♪ だから『死んだふり』の前ではクマはも出せません! 草葉の影から、ただじーっと見つめ謝罪するのみなのです!!」

「そうなんだ……分かったよ静音さん! オレちょっと頑張ってみるからねっ!! そこで見守ってくれよ!!」


 そうしてオレは意気揚々とクマ公がいる天音達の所へと向かった。だがこの時、オレの背後で悪魔が「ニヤニヤ♪」と笑いかけていたことを知る由もなかった。


「天音! オレも助太刀するぜ!!」

「静音の差し金か……余計なことを」


 オレは武器である無線自称ワイヤレスコントローラーを持ちながら、チュートリアルの戦場へと乱入した。そうゆう天音の反応はやや冷たかったが、その表情は少しだけ笑い仲間が来たことでどこか安心したようにも見えた。


「お前にばっか良い格好をさせられないからな! 天音クマ公はオレに任せてくれ!」

「本当に良いのか? あのクマもこっちの農夫とまではいかないが、決して弱くはないのだぞ。私にはキミに相手が務まるとは、とても思えないのだが……」


 天音はそう不安な言葉を漏らす。だがオレには静音さんから『秘策』を伝授されてしまい、無駄に相当な自信があったのだ。


「大丈夫なんだ天音。実はさっき静音さんからクマ公攻略の『秘策』を教えてもらったからな。だからオレは負けないぜ!」

「静音に、か? そうか……ならばクマBの相手は任せたからな!」


 天音はクマBをオレに任せアルフレッドのおっさんだけに集中するように、対峙していた。


『あなたの目の前に『野生のクマB』が現われました。入力コマ……』

「『死んだふり』を選択だぜ!!」


 オレはまだ選択肢が表示される前にフライング感覚で選択肢を選んだ。そしてすぐさま行動へと移すことにした。

 まずはクマ公のいる目の前で地面にうつ伏せお友達になりながら『気をつけ!』のポーズよろしく、手をふとももの横にぴしゃりと添え、完全無防備状態をさらしたのだ。


「(ふふふっ、いくら凶悪なクマ公とはいえども、この完全無抵抗主義『ガンジースタイル》』の前ではも出せま……ぐほっ!?)」


 心の中で言葉を言い終える前に、オレは背中に強い衝撃を受けてしまった。


「(な、何だ??? 一体何があったんだ!? テロか? テロルなのか!?)」


 ダメージで目の前が星だらけの表示になっているが状況を確認する為に右目だけを開け、その衝撃の原因を探ることにした。すると……


「(……なんかさ、オレの背中・・に、木で出来たリヤカーみたいなのが乗ってるんですけど……これはどゆこと?)」


 きっとそれはアルフレッドのおっさんの家の横に停めてあった、農作業用の木で出来たリヤカーなのだろう。クマ公が器用にも後ろ足2本で立ちながら前足を使い、手押し車の要領でオレをき殺そうとしてたのだ!


「やりましたねアナタ様! 見事クマBの注意をくことが出来ましたよ♪ でもまさか『手』も『足』も出せないからと、代わりに台車を使いアナタ様を轢き殺そうとするとは……このクマBもなかなかやりますよね♪」

「(静音さん果たしてその漢字どもの表記は合ってるのか? それよりも敵であるクマ公を褒めてないでオレを助けろよこのクソメイドが! 一体誰のせいでこうなったと思ってやがんだ!?)」


「はぁ……キミは一体何をしているのだ? 戦闘は遊びじゃないのだぞ! 迷惑だから邪魔するならもう帰ってくれっ!!(怒)」

「おめえ、あんまり調子に乗ってるんじゃねんぞ! クマB遠慮せずってもいいからな!!」


 天音には本気で怒られ、アルフレッドのおっさんには殺る許可証さえ与えてしまった。


「ま、こうなりますよね~♪」

「し、静音さん! これじゃ話が違うよ!? 死んだふりをすれば『生還率100%』だって言ったじゃないか!!」


 そうクソメイドが楽しげに悪魔の微笑みデビル・スマイルをしていたのだ。オレはリヤカーの下敷きになりながらも、その悪魔へと抗議をする。

 リヤカーに轢かれながらに文句を言うなんて人生初だった。果たしてそんな主人公が未だかつていたであろうか? いいや、いるわけがない!! (反義語)


「ええ、そうですよ。死んだふりは成功=生還率100%です。つまり死んだふりを失敗した場合には、その人が死ぬわけですよね? ならば失敗し、死んでしまったその人が『死んだふり』をしたかどうかも我々にはどだい判りませんよね? ですから死んだふりが成功し、生き残れた場合のみ・・・・・・・・・がカウントされるわけなので、よって死んだふりは『生還率100%』となるわけですよ♪」

「…………」


 何か静音さんがまたややこしいことを言って、オレを煙に巻こうとしているぞ。つ、つまり失敗し死んだらその人が死んだふりをしたかどうか判らず、成功すれば生還できる。よって死んだふり=生還率が100%になるわけ、という超第一級方程式詐欺行為が成立するらしい。

※よいこはクマと遭遇してもオレの真似だけはするなよ! フリじゃなく絶対だぞ!


「けたけたけた」


 クマ公は「俺様相手に死んだふりとか……コイツあったまおかしいんじゃねぇの?(笑) 超腹いてぇ~♪ でもさすがに完全無抵抗主義ガンジースタイル出された時は内心俺様も焦っちまったぜ! パンダの友達である俺様でも、さすがにガンスタの前ではも出せなかったよ。でもそこは発想の転換っていうか、代わりにそこらにあったリヤカー出しちゃった♪ よっしゃアルフさんから殺る許可もろうたし、もう1回轢き殺しますか♪」と言わんばかりにリヤカーの下敷きになってるオレをけたけたっと嘲笑い、もう一度轢き殺そうと少しだけ後ろに下がった。


「(今だ!)」


 オレはクマ公が後ろに引いたチャンスを生かし、地面を転げながらリヤカーの車線から外れるように横に転がりながら逃げた。


「……ちっ」


 そんな芋虫の生還オレを見て静音さんが舌打ちをしていた。


「(……もうさ、おっさんやクマ公よりも最大の『敵』は静音さんなんじゃないのか?)」


 そんなことを思っていると、静音さんが転がってる地面とお友達になっているオレの元へ急ぎ駆け寄ってきた。


「あ、アナタ様! 大丈夫ですか!! 一体何があったというのですか!? (クッソ~、クマのヤツめ。ちゃんと役割を殺ればいいものを……この役立たずが!)」


 などと、戦後最大級にわざとらしくもオレを心配しながら肩を貸し立たせてくれた。何か小声で言ってたのは気のせいだよな? 悲しいかな、オレの耳にはちゃんとそれが聞こえていたが、そこはあえて聞こえてないふりをした。

 オレはリヤカーに轢かれた事と地面を盛大に転げたせいで、戦闘する前に既にボロボロになっていた。誰のせいでこうなったのか……オレは隣にいるクソメイドに怒りの抗議してやろうと言葉を発する事にした。


「あのさ、静音さん! 今回ばかりはオレも怒っ……」

「アナタ様見て下さい! 天音お嬢様の様子が……様子がおかしいのですが!!」

「ええいっ天音ヤツめ! オレの邪魔をしやがるな……って、え゛っ!?!?」


 見ると天音の周りの空気があまりにもおかしい。先程までは『雷』や『炎』が渦巻いていたのに、今は黒い闇のようなものが天音の体全体を覆っていたのだ。それは聖剣フラガラッハの剣自体から発生しているようにも見える。


「こ、これは一体……???」


 いきなりの急展開でオレは抗議するのを忘れ、静音さんに事の詳細を聞いてしまう。


「恐れていた事が現実になったようです。どうやらこれは……」


 静音さんは言葉を続けなかった。何せ黒い闇なのだ。そんなモノが良いわけがない。オレは心配になり、天音に近づこうとする


「お、おい天音……大丈夫なのか?」

「アナタ様いけません!!!! 今の天音お嬢様に不用意に近づいては!?」


 オレは静音さんの叫ぶその言葉に反応し「えっ?」と天音対して背を向け、静音さんの方へ振り返ろうとしたそのとき、


「はぁぁぁぁぁ!!」

「えっ? えっ? えぇっ!?」

(天音がどうしてオレの方へ来るんだ? しかも剣を掲げながら走って???)


 何を思ったか背後で、天音がオレに向かって剣を掲げながらオレを殺さんばかりに走ってきた。いきなりの出来事で思考が追いつかず、天音それに対応できなかった。


「右に避けてください!!」


 そんな叫び声が耳に届き、ほぼ反射的に右に避けた!


 ヒューン……ドカン! 見るとオレがいた場所には、鎖付きの鉄球モーニングスターが深々と地面に刺さっている。


「(へっ? これは静音さんの武器だよな? ……っ!?)あ、あ、あっ、ぶねぇーなクソメイド! オレを殺す気か!!」


 ついに本性を現しやがったなクソメイドがっ! 前々からオレのことを殺そうと画策してたのは何度も知っ……


「…………」

「ふえっ?」


 怒鳴るオレに対し、静音さんはただ黙って天音の方を指していた。その尋常ならぬ静音さんの沈黙に、オレは振り返り天音を見ると、


「ううっ、ううっ……ううっ!!」


 天音は黒い闇を纏いながら苦しむように唸っている。目もオレと静音さんの方を見ているのだが、瞳には意思が宿っていないように色がないように見える。


「こ、これは一体???」

「どうやら最悪の事態になりました。魔神が……魔神が起きてしまったようですね」

「ま、魔神!? は、はい? 起きた? 寝ていた?」


 オレは意味がまったく理解できず、ただただ混乱してしまう。


「静音さんもっと詳しく説明を! 全然意味がわかんないんだけどさ!!」

「聖剣フラガラッハの中には……実はある魔神が封印されていたんです。その魔神の『力』を利用することで、敵を一撃で切り捨てる程の攻撃力火力を得ていたのですが……。呪いがあるのもそれ・・が原因なのです。もしかして天音お嬢様が言っていた剣の『声』が聞こえたというのも、おそらくはその魔神だったのかもしれませんね……」


 そう重々しくも静音さんは説明をしてくれた。


「じ、じゃあ今の天音は……」

「はい。魔神によって完全に意思を乗っ取られた状態にあるはずです」

「天音の意思が乗っ取られたぁ!? あ、天音大丈夫か! 天音っ!!」

「…………」


 オレは天音の名前を叫ぶが、一切の反応がなかった。


「天音! あま……」

「あまね、あまね、とさっきからうるさいわ小童こわっぱが!」


 それは天音のから発せられた言葉だった。だが、普段の天音とは違い口調も、声の重さも全然違っていたのだ。


わらわの名は『サタナキア』である。大魔導書グリモワールに記載されし魔神ナリ!!」

「ま、魔神ん~~~っ!?!?」


 オレは次々起こりうる展開に目を白黒させるだけで精一杯であった……。



 パンダのごとく目を白黒させつつ、お話は「第29話 ヒト成らざるモノ」へつづく。

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