第7話 同胞

「ゴウキおじさん、明日は俺の誕生日なんだ! おじさん、俺の誕生パーティーに来てくれる?」

「アキラ、その日にはお前の友達だって当然来るだろ? 俺みたいな奴がいたら、迷惑にしかならねぇんじゃねぇか?」


 洗脳されたアキラとの戦いから数日後の早朝、アキラが退院した俺のアパート部屋を訪れてきた。アキラは俺の言葉に顔をわずかに曇らせたが、すぐに振り払うと笑ってみせる。


「前にも言ったけど、俺は学校ではいじめられてたんだ。だから、今はおじさん以外に友達はいないんだよ。でも、おじさんは言ってくれたよね。俺をいじめる奴らに気後れすることはないって。だからさ、もういじめられても泣いたりしないよ! 難しいかもしれないけど、今からでも自分を信じて前を向いてみるよ!!」

「ああ、その意気だ!!」


 そうだ、何も気後れする事なんかねぇ。俺がしたのは、ただそれを気づかせただけなんだからな。それでこそ、俺が憧れるお前だ!!

 俺は大きくうなづき、光の肩に手を置く。こんな事くらいしかできねぇが、俺なりに励ましているつもりだ。

 アキラ、お前は俺の心を救ってくれた。俺の方も、少しはお前の力になれたか? 

 わからねぇ。それに、俺が何をしたとしても、最後に自分を変えられるかどうかはアキラ次第だ。だが、アキラは必ずいじめられるだけじゃ終わらねぇ奴だ。その強さが、アキラにはあるんだからな!!


「それでおじさん、来てくれる俺の誕生パーティー? やっぱり、獣人達との戦いがあるから無理かな?」


 アキラは不安そうに俺の顔を見上げてくる。そんな光に対し、俺はニッと笑うと断言する。答えは、決まっている!


「迷惑でないなら、ぜひ行かせてもらう!!」

「良かった!! じゃあ、その日俺のアパートの部屋に来てね!!」


 嬉しそうな顔をしたアキラが、自分のアパート部屋に駆け足で戻っていく。そんなアキラを見送る俺は、嬉しさと同時に戸惑いを感じていた。半獣人ゆえに孤独の日々を過ごしていた俺は、アキラ同様友達ができたのも、その友達の誕生パーティーに呼ばれる事も初めてだったからな。

 誕生日か。誕生日プレゼントってのは何を用意すりゃいいんだろうな?


 「むぅ……」

 

 腕を組み、俺は友達の誕生日プレゼントに1人悩む。獣人達の前では鬼のような怒りの形相をしているであろう俺だ。たった1人の友、しかもガキの誕生日プレゼントに悩んでいる姿だと知られたら、さぞ驚かれるんだろうな。

 内心苦笑しつつ、俺はしばらくその場で思い悩んでいた。


***


 夕方、俺は鍵の力を使い大都市のおもちゃ屋に来ていた。俺の住む街のおもちゃ屋は、獣人達の攻撃で無くなっちまったからな……。店の中は入った途端騒々しかったが、同時に楽しげな雰囲気で満ちている。俺と同様、誕生日プレゼントを買いに来ているのだろう人間の親子が何人もいる。

 いつも通り街の人間達は、俺を恐れて遠巻きに避けて通る。だが、今は街の人間達が向ける畏怖の視線も全く気にならない。俺の関心はアキラの誕生日プレゼントの事だけだった。実は、それほどに心が浮かれていた。どうしても、誕生パーティーへのワクワクを抑えきれない。

 何を贈るべきだ? アキラは喜んでくれるだろうか? 贈った瞬間、笑顔になってくれるだろうか?

 実際には日々を生活していくだけでやっとなんだからな。予算は無いも同然なのに、プレゼントを選ぶこの時間だけで楽しくてたまらない。

 アキラは俺をヒーローだと言っていたな。つまりあいつは、ヒーローが好きだということか? 棚に並んでいるいかにもヒーローらしい昆虫を模したような外見の人形、これがこの世界のガキにとってはヒーローなのか? 他にも赤と銀の色をした人型の人形もあるし、様々な色をしてはいるが基本的な外見は一緒の人形もあるな。

俺は腕を組みながら棚の人形を凝視していたが、ふとある物に目が留まる。さっき見た昆虫のようなヒーローが腰にしていたベルトのおもちゃだ。他のおもちゃよりいかにも金がかかりそうな、だが妙にかっこよさを感じる外見のベルトだった。

 買えるはずがねぇ。そうは思ったが、一応値段を確認する。……17000円か。アルバイトのジキュウが1300円だから、大体13時間分か。やはり、バイト料だけでは手が出せる値段ではなかった。

 そのベルトには、二ホン語で「変身ベルト」と書いてある。こいつで、あのヒーローは変身するのか。俺も握り拳だけで変身する事ならできるんだがな。昆虫ヒーローに対する負け惜しみを心の中で言った後、俺はおもちゃ屋を退散する。他の人間達に迷惑をかけないように、イヤホンとかいう物を耳にしながら聞いていた携帯ラジオ。それの無視できない放送が聞こえたからだ。

 そんなかっこいいもんじゃないかもしれねぇが、俺だってヒーローなんだぜ!!

 再度、俺は心の中であのヒーローへの負け惜しみを言っていた。だが、俺の心にあったのは敗者の気持ちじゃねぇ。あのヒーローも感じているかもしれねぇ、人間を守護する事への誇りだけだった。


***


 誕生パーティー当日の午後、俺は日本のある街でビーストウォリアーズの獣人、キツネ獣人と戦っていた。キツネ野郎は狐火を用いた俺と同じ炎使いだったが、何より脅威だったのはその動きの速さ、俊敏さだった。

 攻撃力は大したことはねぇが、奴の俊敏さは下手をすると脅威だ。気を抜けば、不意を突かれて致命傷を受けるかもしれねぇ。俺は急いでいる気持ちを抑えながら、全方向バリヤーで奴の俊敏さを活かした斬撃を防ぎつつ慎重にキツネ野郎と対峙する。

 キツネ野郎はそれまで、鋭利な爪や右腕を変形させた剣で慎重に攻撃を加えていた。だが、全ての攻撃を俺のバリヤーに防がれて痺れを切らしたのか、攻撃を止め距離を取ると口元に炎の力を溜める。


「死ね半端者!! フォックスファイヤー!!!」

「誰が死ぬか、このキツネ野郎!! フレイムドラゴン!!!」


 キツネ野郎が口から吐き出した青白い炎と、俺の右手から迸る紅蓮の炎がぶつかりあう。青き炎は俺の闘志を表す紅蓮の炎とわずかに拮抗するが、すぐに押し返される。


「ぎゃぁああああ!!」


 キツネ野郎の青き炎の力との激突でわずかに技の威力が弱まったのか、俺の炎はキツネ野郎に炎によるダメージを与えるだけにとどまる。のたうち回るキツネ野郎に近づき、俺は自慢の怪力をいかした必殺のパンチで獣人の腹をぶち抜こうとする。


「ま、待て、半端者。あれを見ろ!」

「だ、誰か助けてくれーー!!!」


 振り向くと、俺の遥か後方に戦闘員達に捕らわれた数名の人間達がいた。


「て、てめぇ、卑怯だぞ!!」

「勝てばいいのさ、勝てば! どんな事をしたとしてもな!! さぁ戦闘員達よ、裏切り者の半端者を取り押さえろ!」


 キツネ野郎の指示に従い、人間達を取り押さえていた戦闘員達の内4人が俺を4人がかりで取り押さえる。


「くっ!!」

「おぉっと、動くなよ半端者! あの人間共を殺されたくなけりゃな!!」


 俺は悔しさのあまり歯ぎしりしていたが、キツネ野郎のその言葉を聞きおとなしくする。この程度、振り払うのは容易だ。時間稼ぎにもならねぇ拘束だが、俺は、人間を犠牲にはできねぇ……。


「ハッ、馬鹿な奴! こんな脆弱な存在を守るために自分が犠牲になるとはな」

「犠牲だなんて思ってねぇ。俺は俺のやりたいように生きてるだけだ。自分が守りてぇ人間を守る、ただそれだけだ」

「その守りたい人間様は、実力で我らの足元にも及ばない下級戦闘員にビクついてるだけだぜ」

「俺は信じてんだ。『あいつ』だけじゃねぇ。人間には助けを待つだけでなく、恐怖に向き合う心だって誰しも持ってるはずだってな!」


 俺の言葉を聞いた人間の1人が、叫ぶのを止めてじっと下を見た。


「馬鹿じゃねぇのか? 人間が獣人に歯向かったところで、ただの無駄死にじゃねぇか」

「人間が獣人に歯向かうって事はな、てめぇら獣人が思う以上に怖ぇもんなんだよ!! てめぇらにそんな真似ができるか? 俺は力があって戦えるのが当たり前な獣人より、力が無いのに戦おうとする人間の強さが好きなだけだ!!」


 俺は人間達に合図のように目配せをする。内心怒りを感じたとしても、動けねぇならそれも仕方ねぇ。半獣人の俺だって、力が無ければ動けるかわからねぇからな。それでも、俺は人間の弱いがゆえに確かに存在する強さが好きなんだ。

 突如人質の1人が意を決して戦闘員の腕に噛みつき、拘束から逃れた。他の人質達も同様の方法で戦闘員から逃れ走り出すが、身体能力で普通の人間が戦闘員にかなうはずもねぇ。すぐに追いつかれ捕まりそうになる。

 戦闘員の拘束を力づくで振りほどいた俺は、そんな人間達に両手を向け円形のバリヤーを張って守る。だが、バリヤーの使用中は他の能力は使えない隙だらけの俺を、キツネ野郎が攻撃しねぇはずもなかった。


「背中ががら空きだぜ、半端者――!!」


 俺はバリヤーを維持したまま回避しようとするが、キツネ野郎の動きを肉眼で捉えきれない。

 くっ、人間達から目を離し続けるわけにも、距離を取りすぎるわけにもいかねぇ! 集中が途切れたら、バリヤーが解除されちまう!! 避け……きれねぇ。

 キツネ野郎が右腕を鋭利な剣に変形させ、俺を後ろから刺し貫こうとしたその時、


「アクア-ニードルス!!!」

「ぎゃぁあぁあああああ!!」


 突然キツネ野郎の足下から猛烈な水柱が吹き上がり、キツネ野郎の身体を粉々に砕いた。


 な、何だ? 俺を助けたってのか?

 俺は思いもよらない援護にしばし呆然とする。キツネ野郎が光の粒となって消滅した後、俺は技名を叫んだ声のした方向を見る。そこには、破壊された瓦礫の上に立つ漆黒のパンタロンに裸の上半身の、虎の獣頭を持つ異形の怪人がいた。


「何者だ、てめぇは?」

「俺か? 俺は貴様と同じ、獣人と人間の血を持つ半獣人、復讐の猛虎タイガーアベンジャー!!」

「半獣人……だと? てめぇが半獣人だって証拠はあるのか?」

「これを見ればわかるだろう?」


 タイガーアベンジャーは自らの能力で作り出した氷の短剣で自分の顔を軽く切ると、その短剣を俺に投げる。俺は短剣を拾い、その短剣についた血の色を見ると愕然とする。


「赤い……血!」


 獣人の血は人間とは異なる緑色をしているが、人間との混血児である半獣人の血は人間と同じ赤色だ。その短剣についた血の色は、奴が半獣人であるという何よりの証拠だった。


「貴様は半獣人でありながら、人間共の守護者を気取っているそうだな。愚かな事だ。人間共は心の脆弱さから、簡単に相手を裏切る。人間の世界で生きてきた俺が出会った人間共は皆そうだった。自分より弱き者を傷つけ、自分より強き者には恐れをむけ排除しようとする。それが人間だ!!」

「……確かに、多くの人間達はそうかもしれねぇ。だがな、俺は人間の強さを信じちまってる。俺の心を救ってくれた『あいつ』が、俺を必要として居場所になってくれた『あいつ』がいる限り、俺は人間に対する希望を捨てねぇ!!」

「半獣人が人間の中に居場所を作れる事は、無い!! 俺は、獣人達の仲間となり人間を滅ぼす! そして、獣人達の中に自分の居場所を作る! そのためには、数多の獣人達を倒してきた貴様を倒すのが最もわかりやすい方法だろう。……だが、俺達は同胞。この世にたった2人かもしれない半獣人同士だ。どうだ、俺の仲間になる気はないか? 貴様なら、俺の事を『見てくれる』はずだ。できる事なら、俺も貴様を殺したくはない」

「人間を滅ぼすだと? ……ふざけるんじゃねぇ。やっと見つけた居場所、心の拠り所を奪うってんなら、たとえ同胞でも容赦しねぇぞ!!」

「フン、その人間もいつか貴様を裏切り捨てるだろうさ」

「あいつを侮辱するんじゃねぇ!!」


 俺は怒りのあまり、自分の周囲に無数の炎弾を作り出す。


「貴様が人間を守る事を止める気が無いなら、俺は貴様をいつか殺しにかかるつもりだ。獣人達の中に居場所を作るために。だが、俺はまだ貴様の説得を諦めたわけではない。貴様が俺の説得に応じるか、完全に決裂するまでは貴様には生きていてもらわなければ困る。それまでは、死ぬなよ。さらばだ」


 そう言って、タイガーアベンジャーと名乗る同胞は去っていった。

 タイガーアベンジャー……か。やっと、同胞に会えたってのにな。俺達は、わかりあうことは無理なのか?


***


 日雇いのアルバイトと獣人達との死闘、俺の身体はその両方を終えた頃既に疲労困憊になっていた。それでも、俺は何とか獣人達を倒してアキラの誕生日プレゼントを用意する事ができた。

 日も沈み始めた夕方。俺は空間転移の鍵を使い、疲労してフラフラの身体のまま自分とアキラの住む街へ戻ってきた。誕生パーティーに向かう道の途中、俺は店のテレビに自分の姿が映っていた事で足を止める。ジエイタイの中でも上位の存在なのであろう男が、俺の映像が流された後で俺について敵なのか味方なのかを論じている。


「ブレイブレオによって救われた命が多い事は事実、一方で獣人である事もまた事実。裏切る可能性が無いとは言い切れない……か」


 男は、俺の存在を頼りにしている一方で警戒しているようだった。

 ……戦友とまでは、思っちゃくれねぇか。それでも、俺は嬉しかったんだ。誰にも見向きもされなかった俺を、大好きな奴らが頼りにしてくれる。守護者として見てくれる者さえいる。……この身体が傷つき疲れ果てようが、そんな弱音は言ってられねぇ。俺には、守るものがあるんだからな。

 俺は1人夕方の街を立ち去った。だが、俺は自分の心にあった凍てつく氷が徐々に溶け始め、温かな気持ちで満たされ始めている事を自覚していた。


***


 高揚した気持ちのまま、来客を知らせる玄関のボタンを押す。俺は疲れ切っていたが、なるべくそれを顔に出さないよう努めていた。アキラの誕生パーティーに誘われた事は純粋に嬉しかったし、多少無理をしてでも誘った事が迷惑だったとは絶対に思われたくない。

 やがて、扉が開き嬉しそうな顔をしたアキラが出迎えてくれた。


「おじさん、今日はありがとう!! 本当は忙しいのに……」

「さぁ、上がってください! 色々ごちそうも用意しましたから」


 続いて、光の母さんも俺を出迎えに現れる。誕生パーティーに誘われる際にアキラから聞いた話だが、アキラは自分が獣人の姿に洗脳、改造された時の事を正直に話したかったらしい。俺がライオンの半獣人戦士ブレイブレオである事、助けてくれたのはおじさんだと言いたかったと話してくれた。だが、俺の正体を秘密にするという約束を破りたくもなかったと。

 アキラはブレイブレオとしての俺が獣人化した自分を助けてくれたと同時に、ゴウキとしての俺が人間に戻った直後の自分を獣人の攻撃から庇った事にしてくれたらしい。俺に対して厄介者の印象を持っていた光の母さんは、それ以降自分の息子を二度助けてくれたとして「人間の姿」をした俺は受け入れてくれた。


「ゴウキさん、二度も光を助けていただいて本当にありがとうございます。最初は怖い人だと思ってましたけど、私の思い過ごしでした。今までのお詫びとお礼もかねて、今日は楽しんでいってくださいね」


 アキラの母さんは、他の人間達のように俺に怯える事も無く、笑顔で接してくれた。そんなアキラの母さんを前に俺の心は複雑だった。アキラを戦いに巻き込み、獣人に攫われてしまった事の謝罪を戦士「ブレイブレオ」としてはしていないんだからな。だが、俺はその思いを押し込める。

 いつかは必ず向き合わなきゃならねぇ事だ。だが、今はアキラの誕生日を祝わねぇとな。いや、祝ってやりてぇんだ。


***


 ゴウキおじさん、やっぱり無理してるのかな。俺には玄関で出迎えた時のゴウキおじさんの顔が、疲れてるように見えたのが少し気になったから。でも、俺の不安は少しずつ消えていった。初めて食べるって言ってたバースデーケーキのおいしさに驚いたり、遊んだ事が無いテレビゲームに戸惑ってはいたけど、ゴウキおじさんの顔から段々緊張が消えて笑顔になっていたから。


「デザートのフルーツを持ってきますね。ゴウキさんも、少し待っていてください」


 母さんが席を外して声の届かない場所に行く。ゴウキおじさんは、それを待っていたように俺に声を少し小さくして話しかけてきた。


「アキラ、今日はありがとうな! 俺の周りにはいつでも敵しかいなかった。だから、こんな事に呼ばれるのは初めてだったんだ」

「そうだ! おじさんの誕生日も教えてよ! 俺もおじさんの誕生日を祝いたいんだ」

「……俺の誕生日は、俺自身にもわからねぇんだ」

「それって……」

「俺の両親は俺を捨てたんだろうさ。俺は人間でも獣人でもないからな……」

「……ごめん、おじさん」

「気にするな、昔の話だ。それよりアキラ、これが俺の用意した誕生日プレゼントだ。受け取ってくれるか?」


 ゴウキおじさんはそう言うと、紐を通してペンダントにしてある3本の鍵をくれる。


「鍵?」

「この鍵は、獣人が自分の世界へ帰還する時に使う空間転移の力を秘めた鍵だ。行きたい場所を念じれば、その使用者1人を一度の使用につき一度だけ行きたい場所に転移する。いいかアキラ、いざという時はその鍵の力で獣人達から逃げろ。いいな?」

「わかったよ。ありがとう、ゴウキおじさん」

「本当はこれ以外にもプレゼントを用意したかったんだが、なにしろ金が……。ごめんな、アキラ」


 ゴウキおじさんの言葉に俺は俯く。


「謝る事なんて無いよ。本当は俺、ゴウキおじさんが俺の誕生パーティーに来てくれると思ってなかったんだ。おじさんにそんな時間は無いと思ってた。でも、おじさんは友達として俺の誕生パーティーに来てくれて、祝ってくれた。それだけで、俺はすごく嬉しかったんだ」

「……」

「それに謝らなきゃならないのは俺の方だよ。おじさんは命懸けで人間を守ってくれてるのに、俺にはおじさんを助けられる力は無い。おじさんからは助けてもらってばかりじゃないか。ごめんね、おじさん」


 俺はゴウキおじさんが何も言わないでいたから、顔を上げる。ゴウキおじさんは戦いの疲れからか、寝息をたててテーブルに突っ伏して眠っていた。

 こんなに疲れてるのに、俺の誕生パーティーに来てくれたんだ。俺にはおじさんを助けられる力は無い。それどころか、足手まといにしかならない。おじさんは俺の事支えだって言ってくれたけど、結局俺はおじさんの足手まといでしかないのかな……


「光、ゴウキさん寝ちゃったの? どうしましょう、ゴウキさんには悪いけど今からでも起きてもらって」

「母さん、ゴウキおじさんは仕事で疲れてるのに俺の誕生パーティーに来てくれたんだ。おじさんが起きるまでは、ここで眠らせてあげて。お願いだよ」

「……仕方ないわね」


 友達なのに、助けられてばかりなんて嫌だな……

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