わたし、故郷に再来ッ!


 わたしは悩んだ。わたしの故郷だったあの村に、もう一度行くべきかどうかを……。


 正直怖かった。でも、このままじゃいけないことぐらいはわかってる。兄さんだってあの村とわたしに何か関係があることぐらい察してるだろう。

 だからわたしは決めた。

 もう一度あの村に行って、兄さんに全てを伝えようと。


「見つけましたぞ神子様! ささっ、どうぞこちらへッ!」

「へ?」


 村に転移すると同時に鎧を着た兵士さんがいきなりわたしのことをひょいっと持ち上げて担いだ。


「兄さんたすけてぇー!」

「ファムぅーッ!!」


 わたしは近くにあった村長さんの家に放り込まれた。たまたま女性のクッションにキャッチされ、ケガをすることはなかった。

 あの村長さん十年前でも結構よぼよぼだったけど、今も生きてるのかな。

 というか王宮に連れて行かれるのかと思ってドキッてしたよ。


「ファムはあの頃と変わってないね。相変わらずのおチビちゃんだ」

「……だれですか?」


 マジで見知らぬお姉さまだった。いや、雰囲気はちょっとだけ幼馴染みのルカに似てるけど、ルカはこんな一児の母みたいな顔をしている人じゃない。ルカといえば、存在自体がかなりウザ……賑やかだった女の子だ。だからこの人はルカじゃないね。うん。きっと親戚か何かだよ。


「えっ? 忘れちゃった? 私だよ。私。ルカだよ」

「わたしの知ってるルカはおっぱいなんてない」


 ルカといえば幼児体型でつるぺただった。断じてこんな『でぃーかっぷ』は保持していない。

 べ、べつにわたしの胸が貧相だったから羨ましいだなんてわけじゃないよ!? ルカがわたしの知らないルカだったからちょっと腹立たしかっただけだし!? べつに羨ましくなんてないもんッ!


「あっ、なんか負け犬の嫉妬が心地良いな」

「だれが負け犬だって!?」

「そんなつるぺたロリボディが勝者とでも言えるのかな?」

「ぐっ……!」


 ルカがわたしを煽ってくる。このウザさは間違えなくルカお手製のものだ。もしわたしがお殿様やってたら「切腹せよッ!」とか言ってたと思う。


「それで、ファム……」

「なに?」

「その男の人はだれ? 結婚でもしたの?」


 ルカが指さした方向に振り返ると、そこにはポカンとしている兄さんがいた。

 これは……説明しないとダメ……だよね?


「結婚なんてしてない。というかできない。兄さんはわたしの新しい家族……」

「そっか……よかったね。あっ、お墓参り行く?」


 お墓参り……お父さんとお母さんだよね。


「うん、行く」

「あなたも行くでしょ? その様子だとファムから何も聞いてないんでしょうし」

「ああ……そうだな。この際だし、聞かせてもらうか」

「うぐっ」


 どうやら遂にわたしの全貌が明らかにされてしまうようだね。まだ覚悟できてないのに、ルカって誤魔化しが苦手というか、誤魔化すことを知らない子だから……包み隠さずバレちゃうよね。

 年に一度だけでもと、文通していたことが裏目に出てしまうなんて……


「じゃあ行こっか」


 わたしはルカに手を引かれてお父さんとお母さんの眠るお墓を目指した。その後ろに兄さんが付いてくるのはまだわかるんだけど、鎧を着た兵士さんは何で付いてくるの?


「ルカ、あの人だれ」

「ん? 今の村長さんだよ」

「村長っ!? あのお爺さんは!?」

「もうとっくに死んだよ。手紙にもそう書いたでしょ?」


 ……あー、そういえばそんなことが書いてあったような気がしないでもない。まあ、そんな昔のこと覚えてられるわけないよ。

 文通っていえばわたし、「辛い」とか「帰りたい」とかそんなことしか書いてなかったような気がする。


「……で、なんで鎧なの?」


 肝心なところを聞き忘れるところだった。村長さんなら鎧着なくてもいいじゃん。


「シャイなんだよ。シャイ、って言っても流行に乗り遅れてる……それどころか流行に乗るための改札口すら通れないファムにはわからないか」

「むっ……」


 何か腹立つ言い方だ。

 まあわからないけど!


「要は恥ずかしがり屋さんなんだよ」

「へぇー……どうでもいいや」

「村長なんだから敬いなさいよ……」

「だってわたしの方が偉いんだもん」


 この世界じゃルカだけだよ。神子のわたしに敬語を一度も使わずにタメ語だけでペラペラと喋ってくるやつは。村長さんですらわたしに敬語使ってたんだよ?


「……そろそろ昔の話をしよっか」

「そうだね。とりあえず四歳のときにルカがおねしょしたお話でもしよっか」

「ちょっ!? それは関係ないでしょ!?」

「ふふふ、それはどうかな?」


 なんか兄さんが「お前もゲームしてるときに漏らしただろ」と言わんばかりの目でわたしのことを見てきた。

 わたしはそんなこと覚えてない。えっ? ダンジョン? ナニソレ?


「ファムはホント子供なんだから……」

「子供だもん」

「十五歳の成人が子供なわけあるか」

「……は? 十五歳?」


 兄さんがわたしとルカを交互に見ている。

 あっ、ちょっ、それ内緒なヤツ! 間違えなく五歳じゃないことぐらいは勘づかれてるだろうけど、具体的な年齢は言っちゃダメなヤツだからッ!


「ファム、正直に言おうか。お前、今いくつだ?」

「……現実世界じゃ五歳だもん!」


 ゲームは現実世界の三倍で進んでるんでしょ? それなら五歳で間違ってないもん!


「隠し事されそうだし、ルカさん。教えてください」

「いいよー。全部教えてあげるよ」

「ちょっと待ってええぇぇぇッ!!」




 ルカはわたしの抵抗をもろともせずに口と手を塞ぎ、兄さんに全部くっちゃべった。



「……ちにたい」


 わたしの正体が神子であるということがバレちゃったのはしょうがない。いずれは話す予定だったから、そうなっちゃったのはしょうがないと思う。

 けど、わたしのおしっこ我慢できなくて森でしちゃった件については全くもって関係ないじゃん! 完全に黒歴史の大暴露じゃん!

 なにが「あそこの木だよ」だ! ふざけるなよ!


「ま、まあ、子供なら仕方ないことだから気にするなよ。それにファムにどんな過去があってもファムは俺の妹だからな。妹のおしっこの1つや2つ、気にするわけないだろ。だから大丈夫だぞ」


 その慰めが逆に辛いの! 兄さん、一部だけめっちゃ良いこと言ってるのに、他の部分でわたしの心はエグられてるのッ!

 っていうかなんで『あの木』だけあんなにご立派に成長してるの!? 目立ってるじゃん!


「神子の聖水だからね。発育が良くなるんだよ。……本人の発育は悪いけど」

「ルカ、少し黙ろうか?」


 ヒトのおしっこを聖水呼ばわりしないでくれる? あとわたしの発育については関係ないでしょ! べつにそんなに発育悪いわけじゃないし!

 ルカは十五歳のわたしを知らないから勝手に成長してないって思ってるけど、本来のわたしなんて『ボインボインのボンキュッボンッ!』なんだぞ!


「あっ、ここだよ。管理大変なんだから間違えてもお墓に聖水かけないでよ」

「かけないよ! あと聖水じゃないッ!」


 まったくもう! どうしてルカは話を逸らしてくれないのッ!









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