体力がほしい!


 12月24日


 なんか今日は周囲が騒がしい。デパートまで買い物に来たんだけど、なんかめっちゃシャンシャン鳴ってて騒がしい。いったい何なのだろうか?


「ファムはどれが欲しい?」


 わたしの目前に並んでいるのは数多くの色や種類があるランドセルだった。ランドセルと言えばやっぱり赤いイメージがある。でも最近はそうでもないらしい。目の前にあるランドセルはカラフルだ。

 六年間背負うことになるランドセル。このランドセルで六年間が決まるものだと言っても過言ではない。

 まず黒系は除外。アレは男の子だもん。黄色もないかな。金髪の髪の毛とはミスマッチだし。赤も時代遅れ感があるからダメ。


「そうなるとピンク?」


 いや、考えてみよう。こんな蛍光色、今は良いかもしれないけど、六年生でこれは恥ずかしい。となるとやっぱりこれかな?

 

「これで」


 わたしが選んだのは水色のランドセル。無難といえば無難。


「じゃあこれにしましょうか。颯斗、店員さん呼んで来て」

「わかった」


 兄さんが店員さんを呼んでくると、陳列されたランドセルの下から白い箱を取り出した。


「こちらでよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」


 ランドセルを包んで貰うと、わたしはおやつのケーキを要求した。

 正直ランドセルなんていらないからその分の甘いものをください!


「ランドセルよりもケーキを目前に喜んでやがる……」

「まあ、ファムだから……」

「花より団子派だもんな」


 団子ってなに? 今度聞いてみよう。とりあえず今はこのケーキを食べさせて。


「あまぁぁぁぁいッ!!」


 なにこのケーキ!? めっちゃうまうま!

 ちょっとお義母さん早く次ちょうだい!


 わたしはケーキを美味しく戴きました。しかもなんと完食!

 最初の頃は半分も食べられなかったのに、今となっては完食できるようになったよ!

 さすがわたし! 常に成長してる!


「じゃあ帰るか」

「そうね。ファムもケーキ食べたら疲れちゃったみたいだし」

「ファムは体力少ないもんな」


 テーブルを囲っていた全員が頷く。わたしは体力が少ない。ここに来たばかりのときよりも減ってると思う。

 どっかの誰かさんたちが外へ遊びに行かせてくれないからねッ!


「公園行きたい」

「公園? ダメだダメだ。いいか、公園っていうのはコートの下が全裸のおっさんしか居ないんだぞ? そんな危ない場所にファムを連れていけるかよ」


 わたしがそう言ってみると、お義父さんが反論してきた。

 公園ってそんなに変な人が集まる場所なの? 公園って子供たちの遊具がたくさんあって、遊び回るような場所じゃなかった?


「それに、公園ではファムみたいな可愛い女の子を盗撮しようとする輩もいるの。子供だからっておいそれと行って良い場所じゃないのよ」


 さすがに言い過ぎでは? でもお義父さんの言ってた全裸のおっさんよりかは現実的なような気がする。

 公園って怖いところなのかな……?


「安全なのはアニメだからなのよ。アニメで変なおっさん出て来られても困るでしょ?」

「う、うん……」


 たしかに。魔法少女が公園で作戦会議を練っている時にそんなおっさんが出てきたら話が進まなくなっちゃう。


「アニメと違って現実の公園は危ないから、近付いちゃダメよ。わかった?」

「う、うん。わかった」


 公園、危険。レッドゾーン。

 しかしそうなると体力をつける場所がない。週一でおつかいに行かせて貰ってるけど、スーパーと家を往復できるぐらいの体力しかつかない。

 どうしたものか……




「なるほど、体力をつける方法ね……」


 悩んだわたしは兄さんがロリコンさんを足止めしているうちに結月さんとプラムさんとダンテさんに訊いてみることにした。


「運動するなら筋トレが一番だろ」

「筋トレ?」


 なにそれ、知らない。一生やってみせて。


「あまり面倒なことはしたくないのね……」

「それならトイレ行く時に一階に居るなら二階のトイレ、二階にいるなら一階のトイレを使うとかして少し労力を増やしてみたら?」


 プラムさんからマトモな意見が出てきた。

 少し労力を足すか……ちょっとやってみようかな。それで結月さんは何か意見ないの?


「私も?」


 当たり前だと言わんばかりにコクりと頷いた。わたしは少しでも体力を増やしたい。このままでは小学校に通うことすらできなくなってしまう。なんとしてでも体力を増やすべきだ。


「やっぱりお散歩とかが良いんじゃない? お年寄りとかでもお散歩してれば体力が落ちないらしいし、やってみる価値はあると思うよ。一人じゃダメそうならユウキに手伝って貰えばいいし」


 やっぱりそうだよね。お散歩は大事だよね。そういえばわたしって一人ですることばかり考えてたけど、普通に兄さんたちが近くに居れば問題なかったんじゃない?


「あとはゲームばっかりしてないで歩き回ることが大事だと思うの」

「…………むり!」


 このゲーム、体力気にしないで動けるからスゴく楽しいもんッ! だからやめることなんてできない!


「ファム、そろそろ行くぞ~」

「はーいッ! ありがとうございました。やってみる!」

「がんばってねー」


 結月さんたちに見送られながらわたしと兄さんはこの前の村へと転移魔法で移動した。

 久しぶりのような気がするけど、相変わらず何もない村で、留まる意味すらない村だ。わたしたちは新たなる村を探すため、旅へと出た。


「両方とも山」


 山と山に挟まれた谷間の道。少々イライラするけど、進むしかないので仕方なく進む。わたしの早く抜けたい意思がケーキに伝わったのか、ケーキがやや早足になっている。


「兄さん、さっきロリコンさんとなに話してたの?」

「明日のイベントについてちょっとな」


 明日はクリスマスという一年に一度しかない特別な日らしい。そんな日というわけでこのゲーム内でもイベントが行われる。

 この前の人殺しとは違って、指定されたマップからモンスターを倒したり、宝箱を開けたりしてメダルを見つけるイベントらしい。だから、わたしも参加することになっている。

 初めてのイベント、すっごく楽しみ。


「ファムこそさっきユイたちと何を話してたんだ?」

「体力つける方法を訊いてたの。お散歩するのが一番良いんだって」

「お散歩ぉ?」


 あっ、マズい。わたしはこの流れを知ってる。間違えなく「ダメだ。お散歩は危険なんだぞ」が飛んでくる。

 もうそんなことはさせない……ッ!


「わたし兄さんと毎朝お散歩したいなぁ~。ねぇ兄さん。一緒にお散歩……だめ?」

「うぐっ」


 必殺。幼女上目遣いの術ッ!


「仕方ないな。ちょっとだけだからな?」

「ありがとう兄さん!」


 勝った! わたし、勝ったよ! 兄さんの過保護なシスコンに勝ったぁ!

 そんなことをしていると早くも谷間の道を抜けた。思ったよりも短かい道のりだった。


「兄さん、村だね」

「そうだな」


 村にたどり着いた。この村も先ほどの村と同じように特に何もない村だった。けれどすぐに感じたことは、先ほどの村よりも明らかに建物が少なかった。

 というか、なんかこの村知ってるような気がする……


「あれ?」


 ここって……まさか――――っ!?


「――――――っ!」


 わたしは来た道をすぐに振り返って逃げ出した。


「ファム!?」


 驚いた兄さんはわたしのことを追いかけるために走り出した。

 だいたい五十メートル。それぐらいの距離で兄さんに捕まった。


「どうしたんだよ、ファム?」

「……おしっこ」


 わたしがそう呟くと兄さんはハァと溜息を吐いた。


「それならそうと言えよ。ログアウトするぞ」


 わたしはログアウトして起き上がると同時にトイレへと駆け込んだ。




「ちがう、ちがうの……」



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