ダンジョンだいぼうけんっ!


 わたしと兄さんは、ゲームの世界へとやってきた。


「おいで、ケーキ!」


 わたしは、モンシュターボールを投げる。

 モンシュターボールからケーキが姿を現すと、わたしはケーキを抱きしめた。


「モフモフ~!」


 兄さんは、ケーキをモフモフしているわたしを見て微笑ましい顔をしていた。


「ファ……イリヤ、そろそろ行くぞ」

「うん!」


 今、わたしのことをファムって呼ぼうしたよね?

 ダメだよ。『ぷらいばしーのしんがい』だって、兄さんが教えてくれたんだから。


「兄さん、ダンジョン楽しみだね」


 今日は、結月さんたちと一緒にダンジョンへ行くことになっているのだ。

 結月さんのお話によると、ダンジョンでは宝石と呼ばれるキラキラ光る石が手に入るらしい。

 女の子なら誰でも興味を持つらしいけど、宝石という概念を知らないわたしは、言葉だけでは興味を持つことはできなかった。

 だって、光る石でしょ?

 金とか銀に近いモノなんじゃないの?

 それなら王宮でたくさん見たよ。最初の頃は確かに「ピカピカだ!」って思ったけど、時間が経てば経つ程、その光が煩わしく感じた。

 だからわたしは、宝石には興味ない。

 どちらかと言うと、ダンジョンそのものの方に興味がある。


「こんにちわー!」

「イリヤちゃん、こんにちは」


 集合場所に着くと、既に何人か集まっていた。わたしが挨拶をすれば、みんな挨拶を返してきた。

 けれど、結月さんだけは違って、挨拶を返しながらわたしの頭を撫でてきた。

 みんなすぐに頭を撫でてくるよね。わたしって、そんなに撫でやすい位置にいるかな?


「じゃあ全員揃ったみたいだし、行くか」

「そうね。行きましょうか」


 あれ? ロリコンさん、まだ来てないよ?


「ねえ、ロリコ――――」

「あー! ダンジョン楽しみだなー!」


 わたしが言いかけると、兄さんはそれを書き消すかのごとく大声を出した。

 そんなに触れちゃいけないことなの……?

 あとで結月さんが教えてくれたけど、ロリコンさんは、わたしみたいな小さな女の子を好きになってしまう変態さんらしい。

 それを聞いたときは、さすがのわたしも顔を青染めた。

 王宮で暮らしてたときは、政略結婚とかで幼いながらも結婚することがあると聞いたことがあった。

 けれど、いくら政略結婚と言えども第二次成長期を迎えた十二歳が最低ラインであり、それを下回ることはない。

 まだ大人としての自覚もない上、身体付きもしっかりとしていない子供が性的に愛されることは、王宮に居た者はもちろん、王国内ですら誰一人として想像した者はいない。

 わたしは、そんな想像もしたことがない性癖を知っただけで、恐怖のあまりに言葉を失った。

 わたし、ロリコンさんが苦手かもしれない。……違う、断言できる。わたし、ロリコンさんが苦手。


「ダンジョン楽しみだねー!」

「だろー?」


 わたしは、兄さんに抱えられてダンジョンがあると言われている場所へと向かった。


「あれ? ここって……」


 目的地にたどり着いたようだったが、そこはわたしの知っている場所だった。

 ここは、わたしがケーキと初めて出会った滝のある場所だ。

 ここが……ダンジョン? 滝と川しかないよ?


「水遊びでもするの?」

「いいや。この前、滝の裏にダンジョンの扉があるのを見つけてな……ほら、あそこだ。見えるか?」


 兄さんが指さす方向を見ると、滝の裏側に扉のようなものが見えた。

 アレが、ダンジョン?

 いかにもな扉がついてるね。じゃあ、あそこに行くのかな?


「兄さん、早く行こうよ!」

「…………」

「兄さん?」

「やっぱりイリヤが行くのは危ないからやめよう!」


 またこのパターンかっ!!


「だってダンジョンだぞ!? 何があるかわかったもんじゃない! もしイリヤの身に何か起きたらお兄ちゃん、悲しくて悲しくて泣いちゃうぞ!」

「勝手に、泣いてなさい!」


 兄さんの頭に強い衝撃が加わり、兄さんの身体が地面に落ちた。


「シスコンもいい加減にしなさいよね?」

「はい、すいませんでした……」


 兄さんに強い衝撃を与えたのは、結月さんの拳だった。

 わたしだけでなく、結月さんもウンザリしてたみたいだ。

 わたしが結月さんを見ると、結月さんはニッコリとした笑顔でわたしのことを撫でた。


「じゃあ、行きましょうか」

「うん!」

「ダンテ、そこのシスコン野郎を引っ張って来て」

「俺はゴミ収集車じゃねーんだぞ」

「わかってるわよ」


 めちゃくちゃ兄さんが罵倒されてるけど、自業自得だよね。これに懲りたら、わたしを過保護にしないことだよ。

 滝の裏側に移動してダンジョンの扉を開くと、中は狭い道で一方通行になっていた。


「先頭は結月で次に俺、嬢ちゃん、プラム、最後にユウキだ。嬢ちゃんはプラムの手を握ってろよ」

「うん、わかった!」


 わたしは、ダンテさんの意見に頷いた。

 結月さんを先頭にして順番にダンジョン内へと入る。

 ダンテさんが結月に続いてダンジョンに入ると、わたしとプラムさんは手を繋いでダンテさんの後を追った。

 わたしもプラムさんも小柄なので、横に並んでも十分に進むことができる。


「なんか暗いね」

「光がないからね。ライトの魔法もないわけじゃないけど、魔力が勿体ないから今は使えないの」

「へぇー……」


 でも焚火を使っている様子はないよね? この明かりはいったい何処から来てるんだろう? ゲームだから補佐が効いてるのかな?

 前へと歩いていると、突然ダンテさんが止まった。真後ろに居たわたしとプラムさんはダンテさんの背中にぶつかった。


「わっぷ!?」

「あっ、わりぃ。ユイが急に止まってな」


 ダンテさんの股下から結月さんの様子を窺うと、なにやら警戒しているようだった。

 何かあるのかな? ここからだとよく見えない……

 わたしは、壁際に寄って奥を見ようとした。


「……なにこれ?」


 何か突起物のようなものが地面から生えていた。


「えいっ」

「それ踏んじゃダメぇッ!?」

「えっ……?」


 プラムさんの声が聞こえたときには既に手遅れで、プラムさんの真横から巨大な金属ボールが襲ってきた。


「ふええぇっ!!?」


 金属ボールの軌道はプラムさんに目掛けて一直線だった。

 つまり、プラムさんの真横にいるわたしも大ピンチなわけで……


「えっ、ちょっ、待っ――――」


 二人して金属ボールに弾かれた。

 わたしの居た方の壁が崩れると、わたしとプラムさんは何処かへ落下していった。


「きゃあああああぁぁぁぁぁッ!!!?」


 プラムさんの悲鳴が響く。

 そのままわたしたちは、地下深くに落下した。


「痛ったあい! イリヤちゃん、大丈……」

「あっ、うぅ……ごめん、なさい……」


 ゲーム内であるにも関わらず、わたしの足下には水溜まりができており、どうも股の部分に温もりを感じる。

 漏らしてしまった恥ずかしさと、罠を踏んで迷惑をかけてしまった責任感から涙が溢れそうになる。

 なんでゲーム内にこんな機能があるの! ふざけないで!? 濡れてて気持ち悪いんだけど!


「知らなかったんだから仕方ないよ。イリヤちゃんのせいじゃない。教えなかったユウキとユイちゃんが悪いの。とりあえず、お洋服着替えようか?」

「うん……」


 わたしは、設定から衣装を選ぶ。

 衣装と言っても、持っているのは今着ている初期装備と結月さんに玩ばれた時に手に入れた制服と水着ぐらいだ。


「これでいい」


 衣装をセーラー服に変えると、下半身の温もりが消えた。それと同時に、所持欄に『見習い魔術師の法衣(臭)』が入っていた。

 イヤな表現やめてよ……まるで人が大きい方まで出したみたいになってるじゃん。


「ねえ、イリヤちゃん」

「なに?」

「これから、どうしよっか?」


 …………わたし、兄さんたちの元まで帰れるかな?




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