言って。【弓坂×小山】

先日、小山に告白されて付き合うことになった。

それ以来俺たちは、部活の時間が合えば一緒に帰ることにしている。


しかし、こう隣を歩いていると小山の小ささに驚く。

背は女子の中でも低いほうだろう。

俺と話す時かなり上を向いているが、首は疲れないのだろうか。

あと歩幅も小さい。

少し遅めに歩く程度では小山を置いて行ってしまう。

女子と付き合うとは難しいものだ。


今日はお互い部活が早めに終わり、一緒に帰っている。

美術部に所属している小山は今、新入生にデッサンを教えているそうだ。

自分で描くのは簡単だけど、人に教えるのはとても難しいらしい。

絵のことはよくわからないが、確かに人にものを教えるのというのは、とても難しいことだ。


俺もバスケ部で新入生にいろいろ教えているが、なかなかうまくいかない。

結局最後は3年生でエースの角田先輩に助けてもらっている。


そんな近況報告をしていると、小山が急に立ち止まった。


「弓坂くん、ちょっとわがまま言ってもいいかな?」


「何だ?」


振り向くと小山は顔を赤くして、顔を少し俯かせていた。

先日の告白の時もそうだったのだが、緊張している時の癖なのだろうか。


「あのね、弓坂くんにちゃんと好きって言ってもらったの、告白の日以来ないから、言って欲しいなって...」


なんだ、そういうことか。


「確かにそうだな、今後気をつける。」


「え、そうじゃなくて」


「なんだ?俺は何か勘違いしているか?」


「いや、なんていうか、その...今、好きって言って欲しいの。」


「それは俺の愛情表現が足りないということだな。」


「うーん、そういうことなのかな?」


「だが俺は良い愛情表現がいまいちわからない。小山、何かして欲しいことはあるか」


「やっぱりそうじゃなくて!」


「何が違うんだ!?」


「私はただ、今この場で、弓坂くんに好きって言って欲しいだけなの!」


「それだけなのか?」


「うん、でももういいや。このまま言ってもらっても、言わせたかんじになっちゃうし。」


そう言うと小山は歩き始めた。

自分の鈍さには本当に呆れる。

また小山を傷つけてしまったようだ。


「好きだ。小山。」


小山が足を止める。


「俺は小山が本当に好きだ。大好きだ。言わされたように聞こえるかもしれないが、本当に本心から好きだ。」


振り向いた小山は、涙を流していた。


「小山?やっぱり遅かったか?」


「ううん、ありがとう。私も大好き。」


小山は涙を流しながら、くしゃりと笑った。

その顔は夕日の橙に染まって、とても綺麗だった。


「もう一個わがまま言ってもいい?」


「何だ?」


「名字じゃなくて、名前で呼んでほしいな。」


「それも今か?」


「うん、今。」


「わかった。」


深呼吸をして、まっすぐ小山の目を見る。

小山の名前は確か...


「葵。」


「剛くん。」


なんだか嬉しいが恥ずかしく、むず痒い。

2人とも顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「なんか、変なかんじだね。」


「そうだな。」


「何度も呼べばなれるかな?」


「そうかもしれないな。葵。」


葵はより一層顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。

やばい、可愛い。

ボキャ貧過ぎて形容し難い可愛さだ。


「ズルいよ、弓坂くん。」


「名前で呼ぶんじゃないのか?葵。」


「だから、不意討ちしないでぇー!」


「葵が呼んでくれたらいい話じゃないか。」


「うん...」


恥ずかしがる姿が可愛すぎて虐めてしまう。

少しの間を置いて葵が口を開く。


「剛くん、大好き」


やばい、可愛いとか言うレベルじゃない。

虐めすぎたのか、あまりに強烈なカウンターで急に照れ臭くなってきた。

葵も恥ずかしいのか、また顔を真っ赤にしている。


「...帰ろっか。剛くん」


「...そうだな。葵」


少しだが、関係は進んだ...かもしれない。

そんな帰り道だった。

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