第5話 村の試練④

 クロヴィの傷ついたリマルモをハンナが治す。殆ど砕けていたものが復元されていく様は、術が使えないリュウの心を踊らせた。

 戦闘以外では使えないオリジンコードだが、何も出来ない訳ではない。事実ハンナは回復術をクロヴィのリマルモに与えている。

 互いに戦う意思がある時、モード移行が行われる。それはルールであり、刻み込まれた常識である。

 クロヴィはリマルモを確認して頷きリュウをハンナを見た。


「先の三組もいないしそろそろ試練に行こうぜ」

「もうそんな時間が経ったか。じゃあ直ぐにでも用意して……そういやアツキ静かだな。って寝てるっ寝てるぞあいつ!」

「別に構わんだろ起こしてさっさと行こう」

「クロヴィなんかあいつに優しいな」

「普通だ普通」


 クロヴィは素っ気ない態度であしらうように手を振った。リュウが揶揄う気配を感じ取ったようで冷たい。リュウの中でクロヴィは女気がないと思っていただけに揶揄うネタを見つけたと思っていたが、あまりに素っ気なかった為に呆気に取られる。

 ハンナにジトっとめ付けられて後頭部を軽く叩かれた。野暮な事をするなと言われたようだ。


「……んぇあ? あ、終わった? どうだった?」

「ハンナの力は技能の少ない今はかなり重宝する力だ。治癒刀さえ初めに出しておけば隣接している相手に最大二回連続回復出来る。だが肝心の指差しの延長とコントロールは見れなかった」

「え? 何の為に模擬試合したの?」

「言い訳させて。想像よりもあっさりかたが付きそうだったから、試練前にリマルモ散らすのは不味いと思って」

「うぐっ」

「ああ、大体想像出来たからいいよもう」


 アツキがリュウに強引に視線を合わせようとしているのか、強い視線が突き刺さる。ちらりと見れば一瞬で目が合い、鼻で笑われた。


「寝てたやつが挑発するな馬鹿」

「んぐっ」


 クロヴィがアツキの頭を叩いてため息をつく。そんなやり込められるアツキをにやけながら見た時、ハンナに後頭部を叩かれた。まだ何も言ってないのにと視線で訴えかけたが、じっと見てくるだけで何も言ってこなかった。それがまたリュウには堪えたらしく、小さく謝罪した。

 アツキ同様に寝ていた村長ことハンナの祖父がふと目を覚ます。


「むにゃむにゃ……む? まだいたのかお前たち。三組とも既に行っとるぞ」

「あ、おじいちゃん。今行こうとしてるよ」

「うむ。活発なお前たちのことだ、試練のある洞窟の場所は知っているだろう?」

「うん。祭壇の後ろだよね」

「そうじゃ。祭壇の後ろにある隙間じゃ」

「それじゃあ行ってきます」


 ハンナが目的地を再確認して全員が装備を整え歩き出す。

 歩き出して十分ほどのところに緩やかな下り坂になっている窪みがある。緩やかだが距離はあり、降りきる頃には村が見えない深さになっている。まるでクレーターのようなそこは、若葉の絨毯を引いたように緑一色で、光に照らされ黄緑色に輝いているようだ。

 村の草木とは違う雰囲気に包まれる一層澄んだ空気の場所である。

 広大な草原の中央、窪みの終着点にぽつんとある岩の塊。削り出し作られたと考えるが妥当なほど整った正方形の岩は、一面だけくり貫かれ祭壇が設置されている。

 祭られているものは、選択肢を創造した救世主イイエ。生きる事を望み、死を恐れる。人を自覚させた最古の人間だ。

 村が出来た時から既にあったこの祭壇は経年劣化からか岩との間に隙間が生じた。

 ただの隙間ではない。地下に続く道があった。

 初めは度胸試しに入る若者が後を立たなかったが、一人の若者が髪の色を変えて戻ってきたことによって、試練であると気が付いた当時の村長により立ち入り禁止となった。

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