女神か悪魔か

 街から離れたところにある夜の浜辺。僕は波で靴かぎりぎり濡れないところで海を眺める。


 月の光が真っ黒な海に反射して幻想的な雰囲気を醸し出し、波音以外は聞こえない。とはいっても、街にいても車やバイクに乗る人間が居ないため、騒音は聞こえないが。

 

 あの時に出会った女性は僕の後ろで焚火に当たりながら、やかんで湯を沸かしている。 


 携帯のホーム画面を開く。

 

 現在の時間は深夜2時。数時間前にあの狂った男にチューブを差し込まれ、首を絞められ、しまいに体中の毛を剃られてしまった。人生で一度は経験する出来事をぎゅっと詰め込まれたような感覚で、そんな出来事があった日は安心して寝ることは出来やしない。


「さぁ、沸騰したよ。こっちに来て食べないか?」


 女性はカップ麺に湯を注ぎながら言う。


 彼女の名前はジルドゥ。彼女からはこの世界に起きたことをいろいろと教えてもらった。


 あの男を射殺した後、ジルドゥに連れられてこの浜辺へやってきた。





これは道中での会話。


流石に裸ではまずいと思い、服を着て彼女と話す。


「あなたは・・・・・・誰?」


「私はジルドゥ。まさか、また人間に会えるとは思ってなかったわ。怪我はない?あの男に捕まるなんて災難ね」


 カチンと銃の安全装置をオンにして、持っていた鞄に銃をしまう。


「あの男はいったい?」


「彼は、この世界とは違うところから来たのよ。私も彼と同じく、違う世界の出身だから、前々から彼の危険性はよく知ってたの。信じてもらえないかもだけど、私たちはこの世界で言う異世界人よ」


「えっと、あなたはこの星の人間じゃないと言いたいのですか?」


「ええ。いろいろと詳しく説明しないと理解してもらえないと思うから場所を変えましょう。お気に入りのところがあるの」





そして、浜辺。ジルドゥに近づきながら、得た情報を整理する。


「えっと、確認だけど。さっき聞いた話は全部本当なんだね」


「えぇ。せっかく会えた人に意地悪なんてしてる場合じゃないわよ」


「まず、ジルドゥさんが住んでいた世界では、手に負えない犯罪者は違う世界に永久追放される。それで、ヌリチャクシャという男は、元の世界で多くの生きた人を食ったことで、この世界に追放されていた。であってる?」


「えぇあってる」


「ジルドゥさんは、追放された人が元の世界に帰ってこないように管理する役人をしていると」


「この道20年の大ベテランよ」


 ジルドゥは僕の分のカップ麺にもお湯を注ぎ、容器に蓋をする。


「それで、最近になって、ヌリチャクシャが芸術家と呼んでいたフォルネウス兄弟がこの世界にやってきて、人間達を洗脳した・・・・・・じゃあ、洗脳された人間達はどこに?」


「それはね・・・・・・」


ジルドゥは遠くの暗闇でそびえたつ謎の物体を指差す。月の光ではそれが何で出来ているかまでは分からないがとてつもなく大きい。あの傾き方は鉄塔か?雲で隠れてどこまで高い建物かはわからない。


「みんな、あそこに行っちゃったのさ」


「あそこ・・・・・・」


「口で説明するのは嫌だから、明日の朝見ればいいよ。そろそろ、こっちの質問にも答えてもらおうかな。なんで舵夜君は洗脳されなかったのか」


「あぁ、そうですね・・・・・・どこから話したらいいか」


 3分たって出来上がったカップ麺を、すすりながら今までのことを全て話した。久しぶりに自分のことを他人に話した

かもしれない。エレベーターを使ってこの世界にきたというのは、彼女にとってあり得ない話だと思うが、それを顔には出さず真剣に僕の話を聞いてくれた。それだけで、傷ついた僕の心を癒してくれた。


 冗談も交えながら話し合った後、眠気を感じ彼女が用意してくれた寝袋に入る。この世界に長くいても良いことはない。明日目が覚めたらすぐに元の世界へ帰ろう。そう決意して、眠った。


 寝袋に入った僕をニヤつきながらずっと眺めていたジルドゥを残して。

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