閑話004 鈴沢 雲母の決心その2

あーしはそれから、彼女の生きるサポートできないか考えた。

たかが小学生に出来ることは少ないかもしれないけど。


親の力が使えればいいのだけれど、今親は相続問題で荒れているため、あーしは放置状態で相手にもしてもらえない。

それに、あーしはやっとやりたい事を自分で見つけたのだ。自分でやらないと!



最初はあーし自身があの子と友達になって、常に側にいようと考えた。

でもそれはダメだと気が付いた。

ためしに近寄って仲良くしようとしたら挨拶しただけで、周囲の嫉妬心を煽ってしまった。

裏掲示板ではまたレイプの噂が再燃し、イジメが加速した。


私は近寄れないし、グループメンバに、あの子の友達になって側にいてあげてほしい旨を、ぼかしてお願いしてみた。

でもこれは全員に断られた。

レイプの噂が再燃している時なので男女ともに嫌がった。


で、試行錯誤の上で思いついた、あーしの苦肉の策はこうだ。

あーしがイジメを継続、制御し多少派手な演出をする。

それにより、もう【イジメる必要がない】、【あの子がイジメられてスカっとした】、【花咲ざまぁ】って思わせれば成功だ。


あーしがあの子と仲良くなれないけど、嫌われても……それでもいいと思った。

それにグループ内でも仲の良い3人はこの策には協力してくれた。

少なくてもこの子が学校生活を終えるまでは、これが必要だ。




ただ、家庭の問題は難しい……あーしだけじゃ手をだせない。

あの子は登校する度に傷を増やす。




小学校の卒業式の準備をしている頃。あの子はまた大きな怪我で顔中包帯を巻いて登校してきた。

今度はなんだ?と思ったら、なんと右目の眼球?つまり目玉を潰されて、右目を完全に失明したそうだ。顔に痣もある。

うそ……そんな重症……というか、それもう一生目が見えないってことじゃん……。


さすがにこれは大事になって、児童相談所と警察が調べているらしい。

今頃?児相も警察も形骸化?してるってTVで言ってたけど、本当なんだ。


授業が始まると彼女は、いつものように楽しそうに、幸せそうにした。

なんで!?なんでなの!???ふざけんじゃないわよ!!!!!





しばらくして中学校に上がった。


クラスの半分ぐらいのメンバーは小学生と変わってるはずなのに、あいつはまたイジメられていた。あーしは新たに中学生のカーストグループを形成している最中だ。

苦労の甲斐あって、グループ形成はうまくいって発言力を確保できた。そしてあーしがあの子のイジメを再開したことにより、周囲のイジメが最小限になった。あの子に対する関心が薄くなっていったのだ。

やはりこの方法は有効だ。



あの子は相変わらずマイペースで、授業は楽しそうに放課後は図書室へ通ってた。新しい図書室に興奮しているようだ。ふふ……かわいい。




中学に入ってからの食事はどうしているだろうか?あーしは心配になった。小学校の時は一日一食、給食のみだった。中学校は給食がない。

見ている限りだと、やっぱりお昼ご飯を摂ってない……。

このままじゃあの子餓死しちゃうんじゃ……?


心配になったあーしは放課後、またあの子をストーキングしていた。

夕方、商店街で要らない食材を貰って、孤児院に入っていくのが見えた。最近できたばかりで孤児院といっても某企業グループが慈善事業でやってる施設なので、立派なマンションのような建物だ。施設の入口にある掲示板を見ると、フードドライブと書かれていた。子供のために余った食材を持ち寄るらしい。

うーん、孤児院の子のほうがよほど良い生活してない?


裏の窓から覗いてみると、あの子は学校ではろくにしゃべれない癖に、小さい子供たちに慕われていた。


あーしは安堵と嬉しさがこみ上げると同時に、自分の行動にククッと苦笑した。




中学は今までと違い、定期試験がある。

それを理由にあの子がまた理不尽なイジメの種が増えた。

あの子は、勉強が趣味だ。問題集をまるでゲームのように楽しんでる。本当に嬉しそうに勉強するのだ。


中間試験の結果はエントランスの掲示板に張り出される形だった。

当たり前だけれど、あの子はほぼ全ての教科で満点を取っていた。


これにインテリ系、意識高い系のクズが釣られた。

まだ初めての試験で範囲も狭い。点数を取りやすいだけだとは思うけど、一個でもミスしたのなら本人の責任だろうに。ちなみにあーしも全教科90点以上で上位に名前があった。クズが今にも殴りかかりそうな程興奮してる。ていうか……あの子は掲示板に興味がまったくなく、自分の順位を知らなかったようだ。クズらがなんで怒ってるのかわかってない。


ああ……またあーしの出番だ……。






中学校の雰囲気にも慣れてきて、初めてのGWの直前。

学年では嘘告白が流行りだしていた。最低なクズ行為なのだけれど、みんな楽しそうにそれをやっている。


嘘告白の手順はこうだ。

告白する相手を呼び出して、告白する。

相手がOKしたら、ネタバラシしてその場で振る。

相手が断ったら、調子にのるなと見学者が出てきて詰る。

やはりクソゲー。人生クソゲーしかないのか……。


選択肢のないクソゲーなので、相手も適当に選ぶのではなく、反応が楽しめる底辺から選出される。これにあの子は何回も標的になった……。

間接的で狡猾で陰湿なイジメだけに、あーしの方法があまり機能しないのだ。



あの子は偽告白でも基本的にOKしていた。

一度流れで見学したときには「友達からなら」と言っていた。

これは紛れもない彼女の本音だろうね。

でもその本音に対して、ネタバラシしてバカにされる。つまり友達にならないことを告げられるわけだ。

そのあと誰もいないところで、あの子がボロボロ泣いてるのを見た。


本当に友達がほしいのだろう……。あーしがなってあげられたらな……。






ある日、最悪の事態が起きた。

その偽告白に学年カーストトップクラスのイケメン飛鳥井くんが乗ったのだ。

標的はあの子。


そしていつもの展開。

問題は告白後、ネタバラシを1日経つまでやらなかったのだ。


なぜ?

しかもその所為で、通常よりはるかに重いボディブローが彼女に襲った。

イケメンの全嫉妬が彼女に集中したのだ。

これによりさらにあのレイプの噂が再燃したのだ。

もう忘れ去られたはずなのに!!!!!!!!




あんのクッソイケメンやってくれたな……。




飛鳥井の所為で、あーしのグループの全員があの子を殺す勢いで嫌っていた。あの子はほぼ学校全員の女子に嫌われるという最悪な事態になったのだ。男子は猛獣化したかのように、チャンスがあればあの子を性のはけ口にできると勘違い。

他のグループも似たようなものだった。

これだけなら良かったのだけれど、悪意が膨張したのか誰かが意図したのか……。あの嘘告白のルーティンを拡大解釈した情報を流したやつがいるのだ。


「告白して、ヤったら1日でポイを繰り返すヤリマンビッチ」


だれだ……誰がこんな噂を……。

大丈夫アタリはついてる……飛鳥井に好意がある人間だろう。


あーしはあの子をサポートすることを初めてから徐々に、感情的になるのを抑えることが出来るようになっていた。やるのは演技だけ。冷静にイジメに参加しているやつを観察した。

あーしのグループに根回しをして情報を集めた。




中学二年生になると、一部のクラスメイトが変わったおかげで、またあの噂は薄れていく。興味がなくなってくれるのはいいことだ。むしろあーしの傲慢のほうが噂されている。

……計画通り(にやり)


今、あーしの顔は某殺人鬼になってると自覚した。






とある日の放課後。

いつものようにあの子は図書室で勉強を始めた。

ふぅっとその様子を見届けたあーしは、今日はもう大丈夫だろうと立ち去ろうとした。するとすぐに図書室から出ていった。カバンは置いたまま。


……?


あーしも急いで後を追った。

校舎裏に着くと、なんと側溝の掃除?ドブさらいのようなことを始めた。

制服がどんどん汚れていく……。

やはり体力がないのか、途中で力尽きて顔から泥にダイブしてる。


なにやってるの!と突っ込みたかったし、あーしは手伝うべきか問答していた。でも近づいて見られたらあの子を傷つけてしまうし、あそこまで汚れる覚悟もない。




2時間ぐらい泥だらけになって、やっと目的のものを見つけたらしい。

探し物をしていたのか……とその時やっと気がついた。

用務員さんにスコップを返し、泥を水道で出来るだけ拭っていた。ある程度はとれたけど、制服はまだ汚れている。

あの子はその日は勉強を諦めたのか、図書室に戻って鞄をもって帰ろうとしていた。



あの子は校門のところでへたり込んで、座ったままだ。

しばらくして、人がまばらになってきた時、一人の男子がとぼとぼ暗い表情で歩いてくる。

あの子はその男の子の前に立ちふさがって、さっき拾ったものを無表情で渡していた。あの子もついに恋が芽生えたのか?寂しいけど私の役目が終わるのでは?なんて彼女の幸せを願って期待した。

この後は告白イベントでもあるのだろうか?


!?


その瞬間、その男子は小さい子供の用に大号泣したのだ……。

な、なにごと?


その男子が愛おしそうにその貰った物を抱えて泣いている。

あの子は男の子が物に気を取られているうちに、関心がなくなったように去っていった。


なんでだよ!!!!!!


そこは「好きです!付き合ってください!」だろぉおおおお!

……あの子にそれを期待しちゃダメだった……わかってる。あの子の行動原理は【友達が欲しい】だ。



はぁ帰ろ……。








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