第十一話 メラのお店

ガチャッギィィィ……


「よぅ、メラ!今日は客を連れてきたぞ!」

「あらガンツ。……と?ちょっとあんたっ!とうとう奴隷に手を出しやがったねっ!」

「いやいやいやいやいやいやいやいや、ちがうちがう!ちがうちがうって!!」


急に鬼のような形相になったメラと、筋肉だるまがただの肉だるまに縮んだガンツ。果物屋のおやじはガンツさんっていうだ。

でこっちのガンツさんの胸倉をつかんでるのが美人熟女のメラさん。


メラさんはギロッ!私を観察して見定めているようだ。

強い視線を感じて、私はぴっと背筋を伸ばして硬直していた。ガンツさんは丁寧に私の事情を説明してくれた。


「ふ~ん。この奴隷のお嬢ちゃんは、目立ちたくなくて容姿を整える資金を得るために薬草を売りたいと?」

「らしい。このままじゃ浮浪者と宣伝してるようなもんだ。王都でこんな格好で歩いてたらすぐ捕まっちまう。それにこいつは浮浪者のガキの癖に罵られた相手に丁寧にお辞儀をしてやがった」

「ほほぅ、いい教育を受けたのか、もともとか?まぁそういう子はわたしも好きだよ!あたしぁメラってんだ」

「俺ぁ果物露店のガンツだ」

「……モ……モコ……です」

「モモコ?いやモコか……よろしく。どぅれ、薬草をみせてごらん?」

「……は……ぃ……どうぞ」


やっと話が進みそう。ガンツさんが見た目の凶悪さに反して良い人でよかったぁ……。私はそそくさとさっき採取した薬草をメラさんに渡した。


「おぉ……こいつぁいいね!ちゃんと勉強してるのか、状態が良く採取できてる。これならそこそこの値段で買い取りしてやるよ!」

「あ……あり……が……とう……ござ……ます」


結局木の実と合わせて全部で大銀貨8枚と中銀か5枚になった。

ただお金より、今は身分を隠せる服とか靴がほしいのだ。

メラさんにお任せで容姿を見繕ってもらうことにした。


「いや、全部みつくろってもあまっちまうが……。」

「……あま……ても……いら……ない」

「まぁそういうなら、手数料は少しもらうが、出来るだけいい品を見繕ってやろうじゃないの!お姉さんに任せな!!」


メラさんはドンと自分の胸をたたき、力こぶを作ってる。

この調子なら安心してお願いできそう。


「よかったなぁ嬢ちゃん!」

「……あ……りが……とう……ガンツさん」


ペコリと深々と頭を下げて丁寧にお礼を言った。

親切にやさしくしてくれる人がいて本当にうれしい。

思わず自然に笑みが浮かんだ。


「ほほぅ……やっぱりガキは笑ってるのがいいな!」

「お嬢ちゃん……かんわいいわぁ~。これは腕がなる!」

「しっかし、ちいとばかし小さいし痩せすぎだろう?嬢ちゃんいくつだ?」

「……ふひひ……13」


「「……はぁ!!!???」」


「おいおいちゃんと食ってるか?いくらなんでもそんなんで浮浪者なんかしてたら、すぐに病気になって死んじまうぞ!」

「……く、苦労したのね……いいわ!しばらくここに居なさい!面倒見てあげるわ!」

「……い……いいん……ですか?」

「あぁ、いくら何でも、今時餓死しそうな子供なんてこの国じゃいないよ!それぐらいこの国は栄えているのさ」

「……あ……あり……がとう」


メラさんは本当に良い人だね。さっきの表通りの人とのギャップがすごくて、びっくりしたよ。

私は追い出された後の生活を甘く見てたみたいで、いくら本で勉強したからってできるわけがなかった。メラさんとガンツさんがいなかったら本当に死んでたね。

日本でもこんなに親切な人はいなかったから、本当にうれしくて涙が出た。3人して涙を浮かべてうんうん言ってる。


ちょっと重いその空気を切ったのはメラだ。


「じゃあ今からご飯にしましょ?ね?ね?」

「おおぅ、そりゃいい!ちょっと肉かってくる!たらふく食わせてやる!」


ペコリとお辞儀をして、話を聞いてくれたお礼に作ることを申し出た。

だってこの世界のご飯は不味いんだもん。


「ああ隣の部屋に厨房があるから使っていいよ。食材もある程度蓄えてある」

案内してもらった隣の部屋にいくと、だいぶ荒れ果てたキッチンがあった。使ってはいるけど、洗い物とかサボってる。


「……あはははっ。料理と片付けが苦手でねぇ」

「……だい……じょうぶ……隣……にいて?」

「いいのかぃ?じゃあ私はあんたのほしいものを用意してくる。よろしくねぇ」


これは大変だ。


洗い物はしてないし、床には失敗した食材やらボールなどの調理器具と調味料と思われる粉が散乱している。使ってはいるから埃は多くない。


まずは掃除からかなぁ?

私はお湯を沸かし、食材を確認しつつ片づけを始めた。

ガンツさんがすぐに肉を買ってきたので、良いものが作れそう。

ある程度埃をはたき終わって掃除が終わったので、洗い物と平行で料理を始めた。こっちの衛生観念はどうなってるんだろ?


殺風景なキッチンだったのでついでに裏に咲いていた花を活けたり、眠ってるテーブルクロスをつかったり、雰囲気も変えてみた。




じゃあ仕上げと盛り付けをして完成かな?

使えそうな野菜はほとんどあったし、腸詰らしきものもあった。


それになんといっても、卵とか小麦粉とか普通にあったし。

ガンツさんの買ってきた肉と腸詰もいい感じ。

今日はポトフ風のスープとシーザーサラダ、肉はキノコと酒蒸しにした。

キッチンにあるテーブルに2人分の食事と、私の小盛りの食事を用意した。



メラはもう私が頼んだものの用意が終わっていたようで、ガンツと談笑していた。二人をダイニングキッチンへ案内する。


「うわ~素敵なキッチンになってる!」

「これ誰の家だ?それに、すげぇーいい匂い!」

「……すわ……って、ど、どうぞ」


二人はかぶりつく様に食べている。すごい食べっぷり!

見ていて爽快だ。


「うっま~~~い!なんだこりゃ!」

「うわ~こんなに美味しいスープなんて初めてよ!!」


ふふふ……大したものではないけど、前の世界で近所の孤児院に夕食を作りに行ってた時の、子供たちみたいで面白い。

正直なところ色々足りなくて、そこまで美味しくはないはずなんだけど。

多分これは現代人が舌が肥えすぎってことだろうね。私には普通に美味しい、ぐらいな出来なのでお店に出すほどのレベルじゃない。でも誰かと食べるのはとくに美味しいね。




「ご馳走様!こんなに美味しいもの食べさせてくれたんだもの!サービスするわっ!」

「今度うちに来た時もサービスしてやるぞ!」


二人はとろけたような、しあわせそうな顔で満足してくれたようだ。

こっちの世界の人は、こんな顔をしてくれる人が多くてうれしい。


「それにしても嬢ちゃんは小食だな。もっと食べないと成長しないぞ」

「……ぅ」


割と気にしてることをズケズケと……。

一緒に食事をしたことで、この二人とはだいぶ慣れてきたと思う。

この二人なら信用できる!もう友達と言っても過言ではない!



メラは必要なものをちゃんと用意してくれていた。

採取と牽制の兼用でつかえるナイフ。

調合の器具や調理器具。

町娘に見える程度の普通の洋服。

下着も多めに用意してくれた。良くおもらしするからうれしい。

怪我しないためのブーツ。


それから目立たない為のローブだね。赤茶色に刺繍が入ったものだ。とってもいい材質に見えるし、弱いけど魔術がかかってるんだって。

【鑑定】で見てみることにした。


【メラの魔術ローブ】

物理耐性1魔術耐性5認識阻害3防虫3


わぁ、ファンタジーぽい!防虫がいいね!これはとってもいいものだ!


さてしばらくメラさんのところにいてもいいらしい。部屋も与えてくれたから、掃除やシーツの取り換えなど、できることは全部自分でやろう。

いっそ家事見習い的なニートポジションをゲッツしよう!

それがいい!


「じゃあ俺は今日は帰るな。明日リンゴもってきてやる」

「……あり……がと」

「じゃぁねガンツ。いい子を紹介してくれてありがとうよ」

「へっ今度おごれよぉ?」


ばたん……

ガンツさんが帰った後、私は家事と店番を手伝った。






手伝ってから一週間ほど何もない穏やかな日々が過ごせた。

ガンツさんはことあるごとにリンゴをもってくるのが面白い。

私がしている店番っていっても、お客さんはほとんど来ない。こんなんで食べていけるのかなぁ?メラさんのほうが心配だ。

たまにおじさんが来て、薬草や雑貨を買っていくぐらいだ。

それもちょっと怪しいおじさんばかりで、まっとうな人がいない。裏通りだから仕方ないのかも。


この店の建物は石造りの3階建てで、敷地面積はそんなに広くない。

一週間ずっと掃除と店番ばかりだったから、もうこの家は全部綺麗だし、インテリアや花、小物までこだわったから、かなり綺麗で過ごしやすい空間ができた。

料理も私の担当になったから、毎日おいしい料理が食べられる。メラさんももう私の料理しか食べない宣言をしている。

ガンツさんは奥さんと子供がいるくせに、昼とたまに夕飯をねだりに来る。昨日は夕飯に奥さんと子供を連れてきたよ……。すごく仲のいい家族みたいで、私のちょっと下の8歳の男の子はお父さんを尊敬しているんだって。ちょっと仲良くなれたのはうれしかった。

はーすっごく羨ましい……。


私の両親は最悪だった。

小学三年の頃に、お母さんは浮気して蒸発。お父さんは壊れてネグレクト。ご飯は食べられなくなったし暴力を毎日……。

いや、思い出すとトラウマが出ちゃいそうだからもうやめよ……。


でも家族を見てると、本当に羨ましいな。




そんな生活のある日

「モコちゃ~ん?あたしはちょっと出てくるから、また店番よろしくねん!」

「……ふひ」

こくりと頷いて了承する。もうすっかり店の住人だね。

メラさんは出かけるみたいだから、掃除しよ。

サァッサァ……サァッサァ……

パタパタパタ……


バタバタバタバタ!

「おい!いたか?」

「こっちにはいねぇ!くそっ!面倒になことになったぞ!」

「あんのガキどこ行きやがった!!!」


何かあわただしい……。でもあまり人通りのない裏路地なのにこんなに人が大勢来るなんて、絶対何かあったんだ。

私?ってことはないよね?メラさんはやくかえってこないかなぁ……。


しばらくすると、メラさんが戻ってきたが……何やら考えてるのか難しい顔をしている。だいぶ遅かったしもう夕飯の時間だ。


「……お……おかえり」

「ん?ぁあモコちゃん。ただいまぁ」

「……ゆ……ゆうはん。できて……るよ?」


夕飯を食べてるときは楽しく話ができたけど、終わって片づけをしているとメラさんはやっぱり何か悩んでるようだった。









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