7-4『影のKと忍び寄る者達』




「「これで…決めるっ!」」


 偶然にもスプリミナルふたりの声が重なりつつ、僕らは大きな勝負に出た。

「原水放出!!」

 僕は身体の中にある水を出来る限りの最高出力で放出。

「#2A2A2Aトリプルトゥーエー!」

 基山くんは具現化させた影の剣を帯状に変化させて、それを槍に巻きつける。

 こちらを睨み付けてくる二人の害悪人類を出し抜くため、僕らは今できる最大の力を放出するのだ…。


収容監獄グリュンツィマー!」

黒螺旋・突こくらせん・とつ!」


 その途端、間克の身体ギリギリの大きさの水の檻が召喚され、基山くんのアーツに武装された影が、渦を巻いて回りはじめる。

「無駄なことを…」

 対抗する間克は旋律を奏でながら水の檻をハイドニウムのナイフで切り裂くが、檻が形状を変えることはない。

「…?なぜ…」

 グリュンツィマーは、切れば切るほど、水の勢いを増している…。

 ふと上を見てみると、天井に値する水塊が厚くのし掛かっていた。

「なるほど…天井に大量に水を使いましたか…」

 彼女の言うとおり、僕が放出した最大出力は、上から落ちてくる水を、ハイドニウムで斬られてもその形状を保つためだ。

 お陰で、身体全体の肌がカッサカサだけど…。

「これで暫く、君は動けないよね…」

「マセガキが…」

 悔しげに、笑みを崩して睨む間克を嗤いながら、僕は残していた少しの水を、踵から噴出させて飛ぶ。

 ビルよりも高く飛んだ僕は、目の前に広がる町並みに目を凝らす。

 この隙を狙って、今、危険な状況に陥っているであろう赤城くん達を探るんだ…。


「ふぅぅうんっ!!」

 一方、基山くんは影で武装されたアーツの矛先を月村に向けて走り出していた。

「邪魔だ…っ!」

 対して月村は、影で武装されたアーツを、ハイドニウムの弾丸で排除しようとする。

 しかし、螺旋を描いている影は何重にも重なっていて、例え剥がれたとしても、威力が下がることはない。

 これこそ、基山の編み出した黒螺旋の真髄である…。

「はぁっ!!」

 基山くんは、先にアーツで彼の銃を弾き飛ばし、そのまま彼の身体に矛先を向ける。

 月村はナイフを取り出すも、螺旋から伸びる影によって柄を砕かれ、アーツの切っ先で刃を割られた。

 しかし、ハイドニウムで固められたナイフの破片によって、アーツに巻き付けられていた影は、ほとんど砕かれた。

 一瞬、ほくそ笑んでいた月村だが、その笑みはすぐに止んだ。

「……なるほど、そっちが囮か…」

 死にたがりの異能力者はようやく気づいた。

 基山くんの左腕には、プリズンシールが握られていたことに…。

「ッチ…これは撤た…ッ!?」

 月村は確保から逃がれるために足を大きく広げようとするが、身体が全く動かない。

 それもその筈。

 彼のナイフによって、黒螺旋から分離された基山くんの影は、地面に落ちる前に針に形状を変えると共に月村の影に突き刺さり、鈍枷にびかせに変わっていたからだ。

「なるほど……上手くやったなぁ…」

「そういうことだ…」

 手にもつ武器が震えそうな程の低声で呟くと、基山くんは月村の横腹にその槍を突き刺す

 苦しみで顔を歪める月村に、基山はもう片方の手に持ったプリズンシールの針を向ける。

 確保できれば先ずは勝ちだ…。

「これで終わりだ…っ!」

 槍に力を入れ、彼はそのままプリズンシールを突き出した。



 

「……そうか…」


 ザシュッ!


「…っ"!」

 しかし、プリズンシールが月村の身体に突き刺さろうとした刹那、基山くんの首筋から大量の鮮血が噴き出す。

「うぐっ…!」

 首を斬られた彼は地面に倒れ、流れる液体がアスファルトの灰色を朱殷に染めた。

 その様を見て嗤うのは、過去を見ることができる異能者だ…。

「悪いな……俺は飛び道具は嫌いだから銃を一丁しか持っていないが…」

 月村がヴィーガレンツのローブを開くと、そこには無数のハイドニウムナイフが納刀されていた。

「ナイフなら何本でも装備してるんでな……」

「基山くんっ!」

 しまった、騙された…っ!

 過去を見れるんだから…彼が戦ってきた時間全てを遡って逆算し、そのまま彼がどんな攻撃をするか予測していたんだ…。

 あえて突き刺されたように見せるだなんて容易い事に決まっている…っ!

「くそっ…!」

 赤城くん達は未だに見つかっていない。

 これは…敗北を認めざるを得ないか…。

「しかたない…!」

 撤退のため、僕は少ない水の量で即座に降下した。

 間克はまだグリュンツィマーからは出られないはずだから、まだ基山くんの身体を回収して逃げる位は……。


 ダァンッ!


「っ!」

 なんて思っていた矢先、飛来したハイドニウム弾丸が僕の腹を貫いた…。

 身体から全身の力が抜ける中、地面の下では間克が、煙巻く銃口を僕に向けて嗤っていた…。

「ぐ…な……なんで……」

 地面に身体が叩きつけられた瞬間、間克の身体をよく見ると、服や髪はずぶ濡れで、一部には血も付着している…。

「強引に抜け出したのか…」

「そして…即座に治したのよ…」

 間克の持つ携帯からは、クラシック音楽が流れている。

 グリュンツィマーは結構な威力なのに、こんな異能力の併用だけで強行突破するとは…。

 彼女の性格を見誤りすぎた。

「ドヴォルザークの新世界って…とても良い音色よね…」

 おしとやかっぽそうなのに、こんなに強引な作戦を思い付くこいつが、腹立たしい。

 なにより…それを見抜けなかった僕もだ…。

「さて…どうしますか…?ツキムラさん…」

 濡れた髪をしぼりながら、聞く間克。

「殺す以外ねぇだろ…。影使いもまだ息があるんだし……」

 月村がそう言うと、二人は共に僕らを憐れむように睨んだ。


「く……」

 完敗だ…。

 完膚なきまでの完敗…。

 自分達の実力と奴らの野心との誤算が故、もう手も足も出せない位やられてしまった…。

 がんばって逃げようとしても、ハイドニウムの効力と疲れが体を縛り、指ひとつも動かせない…。

「悪いな…。俺は死にたがりだが…刑務所のなかでおっぬような趣味はねぇんだ……」

 僕の顔の前に立ち、見下す月村。

「お前は良いよな…今から死ねて……」

 お前と違ってこっちは死にたくないんだよ。

 なんて、応えてやれるほどの体力も残ってないが…。

「まぁ、せいぜい…天国で幸せになれよ…」

 もどかしさに苦しむ僕に、ナイフの刃を向けられる…。


「█████…」


 っ!

「―――――――!!」

 声にならない叫び声が空をつんざいた。

 自分にとって、それは言ってはならないもの。

 人間よりも、リージェンよりも、ヴィーガレンツよりも、この世の何よりも、嫌いな言葉を口に出した彼らは、殺してやりたいほどの嗤顔えがおだった。


 この憎しみを噛み締める事もできない僕に、ついにナイフが振り下ろされた…。

 



  ◆




キィンッ!


「…っ!?」

 しかし…そのナイフが僕に突き刺さることはなかった。

「な…」

 それは、突如現れた一人の特異点が、レイピアの型のアーツを使って、ナイフを弾き飛ばしたからだ。 

「やれやれ……なんかでっかい水の弾が見えたと思ったら…今度は死にかけが二人かしら…」

 ふわりとなびく黒のフード付きロングコートが目に入ぅた。

 見上げると、長く美しい黒髪が揺れ、その女が僕らに哀れみの目を向けている…。

 その黒地の装いには、パールのように白く光った、スプリミナルを表すラインが描かれていた。

 彼女の名は深山歌穂。

 十数日ほど前に、リージェンによる強姦に会った少女を助けた、スプリミナル探偵課の社員であり、女医だ…。


「あら…あなた方とは初めましてかしら…」

 こちらを睨むヴィーガレンツに、その強気に釣った目を向ける。

「貴様……スプリミナルの女医か…」

「あぁ…違うのね。私…嫌いな男はすぐ忘れちゃいたいタイプだからかしら…。ごめんなさいね?」

 男嫌いの深山くんが月村を鼻で嗤うと、罵倒された当人は、苛立ちでさらに強く眉間にシワを寄せていた。

「ミヤマくん…キヤマくんが……」

 消えかけの声で必死に伝えると、彼女は大きくため息をついた。

「わかってるわよ…」

 やれやれと敵から踵を返す深山くん。

 彼女は手にもつレイピアを左で逆手に持ちながら、基山くんの前に立った。

「仕方がないわね…あんたはホントに…」


 ドスッ!!


「ぐ…がぁ……」

 すると、深山くんは手に持つレイピア型のアーツを、突然、基山くんの身体を突き刺した。

 その瞬間、微かに残っていた意識が声から漏れだしていた。

「仲間を見捨てる気…?」

 彼女の所業に、間克は目を見開いて驚いているが、彼女のことを知っている月村は首を横に振る。

「違う、マカツさん…。あれがアイツの特異だ…」

 彼の言うとおりだ。

 この刺撃には、殺意ではない意味がある。

「あ…あぁ………」

 その証拠に、割けていた基山の首の肉が、少しずつ塞がっていき、流れる血液の量も少しずつ収まっていった…。


 彼女の特異は『血液を媒体としてどんな外傷も治す』と言うもの。

 彼女の血液の中には、外傷の完璧な修復作用を持った細胞が生息しており、それを対象の生物に輸血することによって、細胞が傷口の修復と、細菌の滅殺等を助けてくれる。

 血液の摂取量によって回復量は違うが、数ml血液を入れるだけで、0.00001%の生存率から命だけでも救うことも可能だ。

 ちなみに、彼女のレイピア型アーツは注射器と同じく中に小さな管が通っているため、そこから血液を注入することができるのだ。


 基山くんの首の皮が繋がると共に、彼女はレイピアを抜いた。

「結構な量を刺しといた…。あと数秒遅ければ絶対に死んでたわね…。そんで、水原あんたはこっちで対応しなさい」

 彼女はそういうと、僕には血液の入った注射器を投げ渡された。

 これがスプリミナルにとっての回復薬なのだ…。

「あいかわらず…無愛想な…」

 僕はなんとか目の前に転がった注射器を掴み、そのまま自分の指に針を突き刺した。

 深山くんの血液は、どんなところに刺しても効果は変わらない。


「さて…。それで、あんた達はなにがご所望…?私の身体かしら?」

 少し卑猥な冗談を呟きつつ、大人っぽく麗らかに立つ彼女は、レイピアの先端の血を振り落とした。

「~♪」

 その瞬間、間克が声で旋律を奏で、強化された月村が深山くんに向けてナイフを振るう。

「ふっ!」

 彼女はアーツでその攻撃を防ぐと、キィン!と硬物が擦れるような音が響く。

「なんだ…そういう訳じゃないのね…っ!」

 彼女はレイピアをクルリと旋回させてバランスを崩させると、月村の身体を思いきり蹴飛ばした。

 男だろうが女だろうが、深山くんは敵に容赦などしない。

「グウッ…!」

 攻撃を受けた月村は、腹を抱えながら、後退する。

「なかなか重い一撃ね…そこのあなたのお蔭かしら…?」

 深山くんはレイピアをそっと撫でながら、ヴィーガレンツの二人に冷たく笑みを向けた。

「クズの命を助ける愚者が……」

 間克がスマホから音楽を流して治療する中、彼女を睨む月村が口を開く。

「お前も…人の幸福を吸いとっては捨てる売女ばいたか…。そんなくそったれな過去を持っている癖に…今さら人を助けるなんざ反吐が出る…」

 どうやら、彼は彼女の過去を見ていたようだ。

 近づいて攻撃していたのは、その特異を早く発揮させるためだろう…。

「お前に命を重んじる権利などない。さんざん性交渉して、さんざん精液を飲んできた結果がそれだからな…」

 また地雷を狙った口撃だ。

 深山歌穂の過去に、売女と言う物は濃く関係している…。

 それに、夜の仕事をしていることに恥がある女性なら、発狂して動けなくなるか、ぶちギレて勤続バットでも投げそうな可能性があるだろうが…。


「だから?」


 深山くんは平然と首をかしげた。

「なに…!?」

 過去を攻めた口撃が効かないことに、月村は驚いていた。

 それもそのはず。

 深山歌穂は初めから"自分の罪を受け止めきっている"からだ。

 自分自信が引きずっている枷のために身体を売り、男を騙し続けた深山歌穂は、尻軽や淫乱、男狂い、ましてや売女などと罵倒されようが、一つも動じることはない。

 彼女は自分の足枷を引きずり続けてきたのだから、それに慣れたが故、今や冷えきった人間になったわけだ…。

「キャッ!」

 混乱のなか、次の口撃の材料を探そうとしている月村の隙を付き、深山は間克の背後に回り込み、彼女の身体にしがみついた。

 ただし、その掌は間克の胸を思いきり鷲掴んでいる。

「あら、綺麗な形のおっぱいしてるわね」

「離っ…!」


 ドスッ!


「うっ…!」

 恥部を触られていることに気をとられていた間克は、彼女が背中にアーツを突き刺そうとしていたことに気づいていなかったようだ。

「貴様…っ!」

「動くな!」

 深山くんは声を上げて、背中に剣を刺されている仲間を助けようとする月村の動きを止める。

「あなたなら、私の特異の本質…知ってるわよね…?」

 彼女の不気味な笑みに、月村は悔しげに歯を食い縛った。

 何事であっても、効果と言う概念から説明できる事柄は一つだけはない。

 彼女の攻撃であっても、レイピアを刺す、相手は血が出る、血液を注入できるといった、様々な事柄が生じる。

 特異と言うものもそれで、彼女の回復の特異にはもう一つ特徴があるのだが、少し先に彼女のメイン回があるから、それはここではまだ記さないでおこうか。

「……なにが目的だ…」

 睨む敵に、嗤う深山。

「こっちには手負いが二人もいる…。一人はまだ動くことも出来ない。だから、ちょっとは平和に行きましょう…」

 そう言うと、彼女は間克の胸に回していた片手を、頭に置いた。

「あなた達、なにか計画を立てていたんでしょう?今からあなた達が撤退すれば、この子の命を助けてあげるし、私たちもあなた達を追いかけないと誓う。Noと言ったら……まぁ、それがわからないほどバカじゃないわよね……?」

 彼女の提示したその条件は、僕らの身体を思いやった訳ではなく、あくまでも現状の最適解を考えてのことだろう…。

 僕らが大敗したように、ヴィーガレンツはたった二人の異能力者であっても、特異点を殺せるほどの強すぎる応用力や戦略が整っている。

 万全の体制の深山くんが来てくれたとしても、彼女が殺されないと約束できるものは決して存在しない。

 だから、あくまでも彼女は『平和的解決』を選んだのだろう…。

「ツキムラさん!応じてはいけないです!今回の指令を考えば、こっちに負債がありすぎます!」

 選択に迷う月村に向けて、間克は必死に交渉決裂を投げ掛けた。

 彼女としては、自分自身の命よりも、任務に集中したいようだ。

「……ッチ…悪ぃ…マカツ……」

 そうは言った月村は持っていたナイフから手を離した。

「仲間を売女に殺されるなんてまっぴら御免だ…。マカツを放せ…」

 どうやら彼自信としては、仲間を切り捨てたくは無かったようだ…。

「Okie- Dokie♪」

 深山くんは、突き刺していたレイピアを抜き、彼女を突き飛ばしながら、身柄を解放した。

「この…っ!」

「やめろ!マカツ!」

 深山の態度に怒りを覚えていた間克は拳銃とナイフを取り出すが、月村がそれを止めた。

「どうして了承したんですか……今、この人を殺せば…私たちは!」

 興奮状態の彼女の言葉を、月村は人差し指を立てて止めた。

「ボスが言ってるだろ…。焦りすぎて仲間の命を失わせるなと……」

 彼女が冷静を欠いた行動に向けてか、そう言っていた彼は悲観を顔に浮かべていた。

「……くっ!」

 眉をしかめる間克に、深山くんは少し得意気に見えた。

 ヴィーガレンツとしては同胞を見捨てることは禁忌のように見える。

 まぁ、指揮者が郷仲の友人なのだから、当然か…。

「お前らに一つだけ言っておく…」

 月村はナイフを拾い上げ、僕らに刃を向ける。

「我々は必ずお前達を潰す……。それが…人間にとっての最適例なのだからな…」

 威風堂々、啖呵を切るように宣言する月村だが、それに動じることはない。

「やってみなさい……潰してあげるから……」

 ニヒルに笑いながら、彼女も対抗する気満々で言葉を返した。

 その態度に月村は、ぐらぐらと怒りを沸かしているように見えたが、彼は一つため息をつくと死んだ魚のような目に戻った。

「マカツ…頼む」

 彼は間克の手を握ると、彼女は深山くんを睨みながら笛をとりだした。


 ピィィィィィィイッ!


 勢いよくその笛をならすと、彼女は月村の腕を強く握り、人並外れたジャンプ力で飛んで逃げていった。

 なにかトラップを残したような形跡はなさそう。

 どうやら、僕らは助かったようだ…。

「ったく…なにしてんのよあんた達は…」

 ため息混じりに、深山くんが僕らを軽視する。

「……ごめん」

「ごめんで済ませようとするくらいなら戦わないで。私の先輩に当たるからって、あんたはまだ子供なんだから。軽々しく粋がってんじゃないわよ」

 相変わらず医療用メスでもなげつけてくるかのように鋭い言葉だが、こればかりはぐうの音も出ない…。

「それに…キヤマもキヤマよ。怒りで我を失うなんて愚か極まりないわ…。ホント大馬鹿ね、男って。落ち着きと逃げの選択ってものを持ちあわせてない。だからこうなんのよ」

 言いすぎじゃないのか…とか言いたかったが、恐らく言ったところでまたしつこく言われるのだろうから黙っといた。

 それに、彼女の言うとおりの部分も勿論多い…。

 もっと、僕が基山くんを止められていれば、こんだけ言われることはなかっただろうし、立てないくらい辛い思いもしなくてよかった…。

 自分自身が情けない…。

 

「う……うっ…」

 そんな中、同じく深山くんから軽く罵倒されていた彼が、ゆっくりと目を覚ました。

「あら、起きた?強がり坊や」

「誰がだ……。って…言えねぇか……」

 申し訳なさげに、基山くんはため息をつきながら顔を左腕で隠した。

 あの中で、一番冷静さを欠いて、殺人に一心不乱だった彼にとって、今回は悔やむべき結果になっただろう……。 

「そうだっ!アカギは!?先輩達がヴィーガレンツに狙われてる可能性が!」


 ドォォォォォォォォォオンッ!!


 基山くんの心配に応えるように、どこかから巨大な爆発音が鳴り響いた。

「あぁ……なんとなくわかったわ」

 この爆発の宿主が誰なのか、なんとなく全員わかっていた…。

「とにかく、あんたらは帰りなさい!病み上がりは足手まといになるんだから…。いいわねっ!」

 深山くんはそれだけ言うと、トランススーツのお陰で強化された身体でビルを飛び登りながら、赤城くん達の救援へと向かった…。

「ったく……。本当…惨めだな…俺は…」

 両腕で顔を塞ぎながら、基山くんは改めて自分のいたらなさを悔やんだ…。

「足手まといで惨め…か……」

 僕はと言うと、未だに身体がハイドニウムで痺れる中、彼女の言葉が引っかかっていた。

 未だ、自分は強くなれていないのだと改めて思い知らされてしまったことに落胆…。

「ツキムラキキョウ…マカツクミ……」

 それと同時に浮かぶのは、ヴィーガレンツの二人が僕に向けて"あいつ"の名前を出しながら、嗤う姿だ…。

「絶対に…殺してやる……」

 殺意をぎゅっと握りしめながら、僕は僕に誓う。


 もっと強くなるから…。




To be continue…

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