第4話



何がハードってゴミ捨て場なだけあって非常に臭いです。

VRでここまで違和感なく嗅覚を再現できるあたり、マジックラフトの高い技術力を感じさせますが、今だけはそれが恨めしいです。

こんな所一刻も早く脱……出、を……



「……?」



あれ?

ショゴス形態ではまだまともに動けないのですが?

人型にも戻れないのですが?

…困りました、初っ端から脱出ゲーム(ハードモード)です。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


暫く踠き蠢いてみたところ、以下のことが発覚しました。

・体のパーツは作れるようになったが、上手く動かせない

・近くに助けを求められるような人はいない

・ショゴスの種族特性がゴミを融かし、段々と身体が沈んでいる

・ゲーム内掲示板を調べたところ、スタート地点は始まりの街「ソロン」内のランダムな地点である

・ゴミ捨て場スタートのショゴスは現状私のみの模様



「Oops……」



つまりあれですね?

ハードモードなのはショゴスだからではなく、「ショゴスを選び、真の姿状態でゴミ捨て場スタートである」乱数を引いたから、と。

なるほどなるほど……。



「乱数(ダイス)の女神(クソビッチ)め……」



おっと失礼、思わず汚い言葉が。

でも待ってください。

誰に弁明してるのかは分かりませんが、取り敢えず待ってください。

これは叫びたくもなるでしょう。

せっかく並列思考でバグらないゲームを始めたのにコレですよ?

汚い言葉の一つや二つ飛び出して当たり前でしょう。


……改めて考えると中々に酷いですね。

これでも運のいい方だと思っていたのですが……。

取り敢えずはどうにかして動けるようにならなくてわひゃぁぁぁぁあ!?


突然の浮遊感! 何事ですか!?


とにかく、周囲を確認してみたところ、どうやらゴミ捨て場の底が抜けたようです。

受け身など当然取れるはずもなく……



「ぐべぇあ」



乙女にあるまじき声とともに着地(墜落)。

はて?ここはどこでしょう?

ところどころ虹色に輝いて綺麗です。

いや、これは虹色というより……



「まさか、これ全部ショゴスですか?」



……取り敢えず人型になる練習でもしましょう。動けないとどうにもならないですし、怒涛の展開に疲れました。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


=2時間後=


ふ、ふふふ、ふははははー!

ついに、ついに私は人化に成功しまたよー!

外見はリアルとほとんど変わりません。違いは目の色が玉蟲色なことぐらいですかね?


さらに良いことに、人化の過程でコツが掴めたようでぎこちなくですがショゴス形態でもある程度行動できるようになりました。

並列思考に細胞一つ一つを担当させるイメージですね。今までは器官ごとに担当するイメージだったので、それが悪かったみたいです。


早速探索といきましょう。

取り敢えずのところは風の吹いてくる方へむかいます。

周りのショゴスは大きすぎるのでスルーです。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ペタペタと裸足のまま壁に沿って歩きます。

…えぇそうですとも、装備がないのでシステム上脱げないインナーだけですとも。

これじゃあ痴女ですよ、痴女。早いとこ装備を入手せねば。


さて、漸く手頃なものを見つけました。

足下には野球ボールサイズの小さなショゴス。

はい、ここで思い出される事が一つあります。



〈ショゴス〉

『同族を食らうことでステータスが上昇する』



『同族を食らうことで』



『同族(ショゴス)を食らう』




「……これを食えと?」



足下のショゴス君をつまみ上げます。

どう考えても食べ物じゃありませんね、うん。



ぐばぁ



「うわぁ……」



ショゴス君の真ん中にたった今形成された口が開きました。

寧ろこっちが食べられそうじゃないですかやだー。

もの凄く気が進みません、進みませんが…このキャラを使う限り避けては通れない道でしょう。



「すーっ、はぁぁあ……」



ぐぅ、女は度胸! ええい南無三!





















「……ハッ!?」



目の前にはこの地下通路の出口、若しくは入口と思しき扉。

うん?一体何があったのでしょう?

メッセージログに目を通してみましょう。



『ショゴスを一体捕食しました』



『状態異常:一時的狂気になりました』



『Empty.』



『Empty.』



『Empty.』



『Empty.』



『Empty.』



『Empty.』



『Empty.』



『状態異常:一時的狂気が回復しました』



なるほど、全く分かりませんね。

というか、やっぱりショゴスってハードモードじゃないですかーっ!


次はステータスを確認します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Lv:7

種族:ショゴス(捕食6)

所持トゥル:0トゥル

職業:メイド

副業:無し

HP:690

MP:610

STR:69

CON:48

SIZ:84(10)

DEX:1(12)

APP:ー(21)

POW:61

AGI:1(14)

TEC:1(8)

VIT:1

LUK:ー(275)

※()内は人間時

スキル

・〈ショゴス〉

・〈経験値取得不可〉

・〈魔法取得不可〉

・〈清掃Lv歪〉


装備(人間時)

頭:無し

右手:無し

左手:無し

胴:無し

脚:無し

足:無し

アクセサリ:無し


装備(真の姿)

・無し


称号

[初めての発狂]

[血縁喰らい]

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

……うん、発狂中に何をしていたか分かったので良しとしましょう!

さらに、スキル取得が可能なことが分かりました、なんて素晴らしいんでしょう!



「……」



無言で自分のお腹を見つめます。

ここに6匹入ってるのか……。



「……切り替えましょう! そんなことより出口です!」



え、大声を上げて現実逃避するな、ですって?

そんなことしてません。

してないったらしてません。


目の前の扉を開けます。これは……鉄、でしょうか?随分錆びています。

はてさて人がいるところに着きましたかね?


扉の奥からは生臭い匂いと瘴気のようなものが溢れてきます。



『ミリオン・モンスター:永久に不孝をなすものに遭遇しました』



……ほほう?そうきましたか。

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