虐げられてきた俺、実は世界最強の【剣豪】だったらしい〜『防御力無視の刀』で無双旅〜

ファンタスティック小説家

第1話 奈落への追放


 ここはダンジョン。


 熊級冒険者パーティ『クロガネ隊』は、ただいま魔物との一戦を終えて、近場の鉱脈をあさっていた。


「サムス! もう鉱石がいっぱいだ! おら! こっちの荷物も待てよ!」

「わかったから、少し待ってろ」

「サムスー! さっき魔物との先頭でケガしたんだけど、治癒霊薬はやくちょうだい!」

「わかったから、少し待て」


「遅ぇよ! サムス、戦ってないんだから、魔物の素材解体くらいパパッとこなせよな!」

「うるさい、今やってるだろ」


 何をするにも呼びつけてくる声。


 蒼銀髪の青年はうんざりしていた。

 彼の名前はサムス・アルドレア。

 『クロガネ隊』の雑用係だ。


 次々と入る注文に、辟易へきえきしながらも、サムスはひとつずつ仕事を片付けていく。


「たくよ、仕事がおせぇんだよ。てめぇは金だすしか能がないんだから、こういう所くらい、しっかりやれよな」

「本当、使えない無能って、邪魔ったらないわ! マジで何もできないなら引っ込んでてくれない?」


 パーティリーダーの大剣使いバルドローと、風魔法使いのバネッサはニヤニヤと笑いながら不満をもらしてダンジョンを進む。


「おっと、すまねぇ、サムス、足が当たっちまったぁ〜!」


 双剣使いゴルドゥはサムスが、鉱石を集めていたリュックをわざと蹴り倒し、笑いながらリーダーたちのあとに続いていく。


 サムスは頬についた泥をぬぐう。


「チッ……くそ…」


 悔しさに舌を鳴らしていた。

 されど、それは彼らに聞こえないような、ちいさくて臆病な響きだった。

 

 サムスは貴族アルドレア家の三男だ。

 仮にも貴族である彼に、平民にして冒険者のバルドローがあんな口を聞けば、処罰は避けられない。


 だが、そうはならない。


 なぜなら、サムスは幼い頃からの夢である冒険者になるために、アルドレア家内での立場をあやうくしながらも、ようやく現場にたてたからだ。


 サムスにはココしか無い。


 剣の才能はなく、魔物とは戦えない。

 こうして雑用係となるほかには、彼には冒険者としての役割が存在しない。


 だから、サムスは本来なら頑固で、人に頭を下げるのが大嫌いな性格を曲げてでも、バルドローたちの言うことを聞くしかないのである。


 





 ダンジョンをしばらく進み、『クロガネ隊』一行は行き止まりにたどり着いた。

 ダンジョン最奥には、昔から宝箱が置いてあるとか、眉唾な噂を聞いていたが、当然そんなものがあるわけがない。


 普通に考えて、天然洞窟の終わりには、誰が置いたかもわからない宝箱ではなく、ただの行き止まりがあるだけだ。


「んだよ! ダンジョンには宝箱があるんじゃねぇのかよ!」


 大剣使いバルドローが叫ぶ。


「サムスがこのダンジョンの情報持ってきたんだよな?」


 サブリーダーにして双剣使いゴルドゥは、サムスをトゲのある視線で見た。


「ちょっと、どう言うことか説明しなさいよ!」


 風魔法使いバネッサも、サムスを睨みつける。


 それらの、理不尽なクレームに、青年は肩をすくめて答えた。


「常識で考えろ。アスレチックパークじゃあるまいし、宝箱なんてあるわけないだろ」


 彼は腕を組んで、正論でろんした。


 水滴が反響するほどの静寂。

 3人と1人は揺れる松明を手にむかいあう。


 一瞬の沈黙のあと、バルドローもゴルドゥもバネッサも険しい顔になっていた。


「てめぇ、サムス、ふざけやがってえッ!」


 顔を真っ赤にして怒り狂ったバルドローが、サムスへ飛びかかっていく。


「まあまあ、落ち着けよ、リーダー!」


 ゴルドゥが止めに入った。


「チッ、わあーたっよ。……もういい。帰るぞ!」


 バルドローはゴルドゥと視線を短く合わせると、うなずきあい、サムスの横をぬけて、さっさと来た道を引き返し始める。


 サムスはため息をつき、重さ80キロにも及ぶ、沢山の鉱石や、魔物の素材など、今回のダンジョンでの成果が詰まったリュックを背負い直して、彼らのあとに続いた。

 

(どうして俺がこんな事を……)


 サムスは力なく首をふった。







 しばらく歩くと、先頭をいくバルドローの足が止まった。


「サムス!」

「なんだ」

「リュックを置け」

「……?」


 バルドローの指示の意味がわからず、サムスは首をかしげた。


 ただ、拒否する理由もなかった彼は普通にリュックを地面におろしてしまう。


 ふと、サムスはすぐ横の奈落へ視線を移した。


 こんなところに落ちたら、ひとたまりもないな、と益体のない事を彼は思う。


「なあ、ゴルドゥ、バネッサ」


 バルドローは仲間たちに呼びかけながら、サムスを指差した。


「俺、ずっと思ってたんだよなあ〜。どうして、戦いもしない、クスカスが、貴族だからって偉そうにして、クエストの報酬も等分しっかりもらっていくかよぉお!」

「確かにな、雑用係には報酬なんていらないよな。戦ってない人間が、戦ってる人間とおなじ分け前もらうなんて、不公平だ。差別だろうさ」


 双剣使いゴルドゥはニヤリと笑って刃をぬいて同意する。


「じゃあ、もう雑用係なんていらないんじゃなーい? 一人分わたしたちの報酬が多くなるし、宝箱がないダンジョンに挑まされる事もないし、何より、うざったいし!」


 風魔法使いバネッサは、サムスをヘビのような目で見つめて言った。


 サムスは生唾を飲みこみ、自分がやばい状況にいると察する。


(こいつら……正気か…?)


「待てよ、こんなのおかしいだろ。俺は報酬に見合った働きをしていたはずだ。戦いだけがパーティじゃない。そうだろ?」


「いいや、何もおかしくなんかないぜ、サムス」

「戦える奴が主導権を握る。いつだってそう言うもんさ! これはな、全部お前が無能だからだ。いらねぇんだよ、雑用係なんて」

「それに、貴族ってだけで無駄に偉そうだし! 顔がカッコいいからってクールぶってて態度はでかいし、もう死ねば??」


 ジリジリと間合いを詰めてくる3人に、サムスは命の危険をさとった。


 ダンジョンの奥に走りだす。


 サムスは思う。

 あんな奴らに殺されるなんて御免だ。

 こんなところで死にたくない。

 俺は堅苦しい家に縛られないよう、自由に生きる為に冒険者になったんだから。


 サムスの心中を本音と本能が駈けぬけた。


「あははは! そっちは行き止まりだろーが!」

「みっともない、サムス! 可哀想だから、ここで殺してやるわ!」


 風使いのバネッサは、両手にもつ大きな杖で、魔法を行使する。


 サムスの真横の空気が、魔力によって操られ、スーッと滑らかにスライドされた。


「くっ、魔法か…!」

「≪ウィンド・バリケード≫! あははっ、そのまま落ちゃいなさいよ!」


 サムスの体が空気の壁に押し出されて、奈落へ移動させられた。


 あ、死んだ……。

 サムスはそう確信した。


 奈落上の3人は、落ちていくサムスを心底楽しそうに見送っていた。


「あーあ! せいせいした!」

「よっしゃ、そんじゃ、帰るぞ! バネッサ、そのリュック持って来てくれ!」


 奈落の上でメンバーたちはハイタッチしあった。


 大剣使いバルドローは指示を出して嬉々として歩きだす。


 しかし、


「え? わたしは持たないわよ?」

「…………は?」


 バネッサはキョトンとして、バルドローを見た。


「わたしは女子なんだから、こんな荷物を持つわけないじゃない。バルドローか、ゴルドゥのどっちか持ってよ」


「俺はリーダーだぞ! それにバスターソードが重たくて、そんなリュック背負えるわけないだろーが!」

「俺だってサブリーダーだ。技量系双剣使いで売ってんだから、こんな重たいリュック持てないに決まってる。筋肉バカじゃないんだ」


 バルドローとゴルドゥは顔を合わせ、さらには、バネッサとも、ほうけた顔を見合わせた。


 そして、お互いにひとつの疑問にたどり着いた。


「「「え? これ誰が持って帰るの?」」」


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