大きな翼

 音楽に関する進路を許されたとあっても、行動に移すのには多少の勇気が必要だった。それまでは気が向いた時に自室に思いのままにフルートを吹いていただけで、誰かに聞かせたりその道を考えたものじゃなかった。

 何より、記憶を失う前の自分だって進路については様々考えていたはずだ。音楽大学はもちろん、専門学校だって視野に入れていたに違いない。そんな中で『ボーダーを超えた』という過去を考えると奏が躊躇してしまうのは仕方のないことと言えたかもしれない。

 それでも、だからと言って音楽への思いを止められることもなく、結局は桜も若干葉桜になりつつあった頃にインターネットで調べた、音楽に関する進路についても考えてくれるらしい音楽教室に連絡を取ってみることにした。

 スマホの画面で慎重に電話番号を押して相手が出るのを待つ。数コールしてプツリと繋がり、若い女性のものと思える声が聞こえた。こちらR音楽教室です。そんな言葉にひゅっと小さく息を吸う。


「あ、あの……少しお聞きしたいことがあるんですが……」

『はい、なんでございましょうか?』

「そちらの教室では音楽に関する進路の相談にも乗って頂けると聞いて……」

『ご本人さまでいらっしゃいますか?』

「は、はい。私はその、フルートをやっていて……」


 しどろもどろになってしまう奏の向こうで『進路につきましては、こちらが提携している専門学校を含め、音楽大学なども視野に幅広く対応しております』と落ち着いたトーンで話してくれる。声の雰囲気からして奏が現役の学生か何かと思ったのだろう。


『具体的にどのような進路かはお考えでしょうか?』

「それが、その……まず私の腕前も見て欲しいんです」

『とおっしゃられますと……?』


 疑問の言葉に、奏は事情を――もちろんボーダーを超えていたことは除いて――かいつまんで説明する。

 そうするとまるで趣味でフルートをやっていた人間が事故で二年間眠っていた後に記憶喪失として目が覚めたようなストーリーになってしまった。社会から隔離されていたということを考えるとあながち間違いではない……かもしれないが。しかし、実際こんな相談をされて真に受けるだろうかと話しながら心配になるのは事実だった。奇妙な物語りだ。

 だが、それでも相手の女性は『事情は大体わかりました』と親切そうな声を出してくれた。


『それでしたら、一度こちらに来ていただくのが一番でしょう。体験教室とは少し違いますが、それと似たようなものと考え、お気軽にお越しください。趣味程度とは言っても持ち味は人それぞれですから』


 そう言ってもらえて奏は安心する傍ら緊張した。

 実際に日付と時間を決めていく。

 基本的に憶病な性格なのだ、とつくづく思わされる。なるようになれ、という心持ちにはなかなかなれず、日時が決まり、電話を切った時には手のひらに軽く汗をかいていた。

 決めた日時まではあまり時間がなかったが、そこで初めて奏は自室にあった楽譜の類を取り出した。

 今まで楽譜などなくても何曲も演奏は出来たし、元々フルートは高い運動性に加えてタンギングがしやすい楽器で、表現できる音色も幅広い。さまざまなジャンルの音楽でソロ楽器として使用されるし、奏の頭に思い浮かんだ音符の並びや少し聞きかじった音楽を――それが正しい音階かどうかは別にしてという注釈つきではあったが演奏することが出来た。

 しかし、形はどうであれ人に聞いてもらうのだから、少しは練習染みたことをした方が良いと思い楽譜を取り出したのだが、取り出して驚いたのはその楽譜にされた書き込みの数だった。

 クラシックの楽譜に白いままのページはなく、ほぼ全ての行に奏のものと思われる筆跡でメモが書いてある。

 それを見た時の心境は、正直複雑なものだった。

 ある程度一生懸命にやっていたというのはわかっているつもりだったが、ここまでだとは思っていなかった。特に苦心したと思えるところには幾重にもメモが書かれ、それはまるで流した汗の一滴一滴が文字となって浮かび上がっているようだった。

 でも、だからなのだ。

 これほどまでに苦心し、熱心に取り組んでいたのにつまづいてしまった。

 上手くいかなかった。

 だからこそ、ボーダーを超えた。

 もちろん特定犯罪指数がそんな安直に決まるとは思っていなかったが、それでもその時の苦悩を考えれば奏自身「それはボーダーを超えても仕方ない」と思えてしまうものだった。

 心に寒いものを覚える。

 今度も、もしかしたら……そう考えてしまう自分がいる。

 そんな自分に奏はかぶりを振った。

 別に今度の演奏で自分の全てが決まってしまうわけじゃない。道が閉ざされてしまうわけではない。むしろその逆で、自分の可能性を少しでも広げるためのものなのだ。だとすれば、臆する必要はない。

 体験教室の当日の朝、三年に進学した七海が学校に行くのをいつものように見送ろうと玄関先に行くと「なんか今日のお姉ちゃん、いつもと雰囲気違う感じがする」と彼女が何のことなしに言った。


「そう?」


 流石の恋人ということだろうか?

 思わず動揺してしまい、顔が変に笑ってしまったが、七海は「なんかいつものお姉ちゃんより好い雰囲気だよ」と言ってくれて、今の奏にはそれが力になった。「行ってきます」と言って出ようとする七海を思わず引きとめて、小さく奏の方からキスをする。


「どうしたの、お姉ちゃん?」

「ううん。なんか、ちょっとしたくなっただけ」


 なにそれ、と七海が笑い、返すようにキスをされる。「お姉ちゃんからしてくれるの、珍しいね」そう言って七海がはにかむ。もしかしたら彼女は昨晩に交じった熱がまだ引いていないだけと思ったかもしれない。けれど、今の奏にとってはそんな愛らしい妹の姿がそのまま自分の勇気になるように思えてならなかった。

 正午を過ぎたところで準備をして家を出た。片手にフルートの入った黒いケースを持ち、忘れ物がないかを駅への道すがら確認し、向こうについてからどう自分の状況を説明するかを繰り返し頭の中でシュミレーションする。とは言ってもいざとなれば奏の体一つとフルートがあればどうにかなってしまうのが実際だ。結局は『なるようになれ』という意気地の問題なのかもしれない。

 最寄りの駅からS駅やT駅の方面に向かう電車に乗るが、今日はS駅より少し遠くてT駅よりちょっと手前のY駅で降りる。S駅やT駅ほど大きな街ではないけれどY駅には専門学校が多く存在している街とのことだった。駅に列車が滑り込む前にシンボルとなっているちょっとしたタワーが見える。

 電車を降り、スマホで今一度音楽教室の場所を確認する。

 Y駅には大きくひらけた南口とこじんまりとした西口があり、音楽教室は西口の方面だった。駅を出るとちょっとした喫茶店とコンビニ、それからファーストフード店があったが少し歩くとあまり背の高くないマンションやアパートが並んだ住宅街に入った。寂れた感じは受けず、どの建物も丁寧に手入れがされている。歩いて五分とちょっと。それまで縦長のビルばかりだったところがふいに開け、ぽっかりと開いた空間に音楽教室の看板が目に入った。

 途端に心臓が強く打つ。

 一応ネットで外観は確かめていたものの、実際に見てみるとそれは随分と立派なものに見えた。

 ここに移転して間もないからか、大きく取られたスペースに建てられた三階建ての音楽教室はいわゆるマンションやアパートとは違って洒落た趣向が施されている。空から見たら扇形か、それを少し歪にした感じの建物に見えるに違いない。正面入り口から右手にかけて壁が大きく弧を描いている。二階、三階部分の壁にはちょっとした細工が施され、一階の一部にはこの学院に所属している講師か、はたまたこの学院から出ただろう人たちが演奏している写真が飾られている。大きく名前が出ている人はきっとその筋でも有名な人なのだろうけれど、記憶が失われている奏がピンとくるような人はいなかった。

 深呼吸を一つ。

 ポケットに入れている懐中時計を見るに時間はまだ早いが、遅刻するよりかは良いだろう。正面の自動ドアを入ると受付があり、女性のスタッフが一人立っていた。今もレッスンは行われているに違いないが、音楽教室というだけあって防音は完璧のようで入口の小さなホールは静かなものだった。

 受付に近づいてスタッフに声をかける。


「あの、本日こちらで体験教室をさせていただく予定になっている天咲と申しますが……」

「アマサキさまですね。少々お待ちください」


 にこりと笑い、女性が傍らのパソコンを操作する。カチッ、カチッと鳴るマウスのクリック音が妙に大きく聞こえ、それと共に緊張が後ろから迫るように感じられた。

 少しして、


「天咲……奏さま。フルートの体験教室ということで間違いないでしょうか?」女性が言った。

「はい。そうです」

「それでは、こちらへお願いします」


 女性がカウンターから出て奏を先導するように歩く。

 白い廊下を歩き、二基並んでいたエレベーターで三階へ。

 心臓が高鳴ったまま口が乾く。必要かどうか悩んだけれど、バッグに水筒を入れてきて良かったとそっと息を吐く。

 三階に着くと、弧の字の廊下を歩いて、その一つの部屋に案内された。中はそう広くないが、奥の壁には大きな姿見の鏡が三枚並び、天井の隅には音響装置と思しきものがあった。ギターやなんかの練習に使われるのだろう。机の類はないけれど、丸椅子が三つに中央には譜面台があった。


「申し訳ありませんが、担当の者が来るまで少々お待ちください」

「すみません、早く来すぎたみたいで……」

「いえ、とんでもございません。緊張されているかもわかりませんが、どうぞリラックスしてください。楽器を演奏されても構いません」


 そう言って女性は下がり、奏は部屋に一人になった。

 水筒の水でのどを潤したはいいものの、結局することも思い浮かばず気がつけばケースを開いてフルートを組み立てていた。

 銀色に輝くそれは記憶を失う前と失った後の奏を繋ぐ唯一のものと言えたかもしれない。

 そっと口を添えて音を出す。緊張しているのが音に伝わっているのが奏自身わかって苦笑した。

 譜面台に何も乗っていないのも違和感があったので、一応家から持ってきた『シランクス』の楽譜を乗せた。

 講師の先生が来たのはそれから二十分ほど経ってからだった。


「お待たせしてごめんなさい」と言う講師は奏が思っていたよりも若く見えた。三十歳くらいだろうか? 緩いパーマがかかった濃い茶色の髪。薄っすらとしたナチュラルメイクと相まって随分と柔らかい印象を持たせる。


「天咲さん、と言ったかしら?」

「はい、天咲奏と申します」

「私は講師の笹山です。一応の事情は聞いたけれど、まずは腕前をみてほしいということで間違いない?」

「そうです。面倒なお願いをお受けしてもらい、本当にありがとうございます」

「そんなかしこまらないで。リラックス、リラックス」


 深々と頭を下げた奏に笹山は小さく笑った。


「随分と緊張しているようね」

「その……人前で吹くのはあまり慣れていないので……」

「そうなの?」


 問うた笹山に奏は曖昧に相槌を打った。

 大丈夫。何の試験というわけでもないんだ。普段通り、自分の部屋で気ままにやっているように吹けば良い。

 首から下げたネックレスに服の上から触れる。七海がクリスマスにくれた大切なリング。演奏の関係で指にはつけられないが、それでも胸の真ん中で七海が応援してくれているように感じられた。

 「曲は?」と笹山が譜面台の楽譜に目をやったので、「とりあえずドビュッシーのシランクスを吹こうと思います」と奏は答えた。それに「わかったわ」と笹山が静かな微笑みを浮かべた。音大の入試やコンクールの課題曲として必ずと言って良いほど吹かれる曲なので選曲に違和感はなかっただろう。

 すぅ、と一つ息を吸って目を閉じる。

 最初の一音。

 それが出てしまえば後は驚くほど自然に指を動かすことが出来た。

 きっと何百何千とやってきた動作に指がもつれることはない。

 不思議な感覚だった。

 ただ曲を吹いているだけなのにまるで背に翼が生えたのではないかというほどの自由を感じることが出来た。

 自室で吹いていた時も十分伸び伸びと吹いていたように思うのに、それとは種類が違うもののように感じられる。

 心が空を飛ぶ。

 それはきっとこういうことなのだ。

 そう気がつくとほぼ同時に演奏は終わり、最後の余韻を残したままフルートを口元から外した。

 ゆっくりと目を開く。トクトクと早くなった心臓の鼓動が心地良い。

 どうだっただろうか?

 そう思って奏が笹山の方を見やると、彼女は笑うのを半分失敗したかのような、実に奇妙な表情を浮かべていた。だまし絵の類を見ているかのようなそれに奏は若干不安になった。

 自分では良い感じに吹けたと思ったのだが、そんなに自分の演奏は変だっただろうか?

 そんな沈黙がたっぷり十秒ほどあってから、笹山が「えっと……」と声を出した。


「今まで専門的に習っていた経験はない、と聞いていたのだけれど……?」

「たぶんそうだと思います。部活とかそういったものでは一生懸命やっていたのかもしれませんが……」

「その……随分曖昧な言い方だけれど、それはどういう意味?」


 煮え切らない奏の言葉をつかみ損ねたのだろう。笹山の言葉に奏は前に電話口で女性にしたのと同じような事情を説明した。

 一時は集中して取り組んでいたのかもしれないけれど、結局は趣味程度に続けていけたら良いと思っていたらしい。

 そんな意味合いの言葉で説明を終える。

 笹山は考え込むように口元に手をやり、黙って奏の説明を聞いていた。そして、全てを聞き終わってから「少し待っていてくれる?」と言って出て行ったかと思うと、すぐに他に二人の男性を連れて帰ってきた。

 どちらも笹山と年はそう変わらないように見える。一人は背が高く眼鏡をかけていて、こういう表現が正しいのかわからないが、スマートなインテリ風な男性。もう一人はがっしりとした感じの男性で、奏を見るなり「緊張しないで」と笑顔を浮かべて見せた。


「二人とも私と同じでこの音楽教師に籍を置いている講師よ」


 予想していなかった展開に少し強張って「初めまして」と口にした奏に男性二人が「三沢です」「片岡って言います」と言葉を返してくれる。


「それで天咲さん……申し訳ないけれどもう一度演奏をお願い出来るかしら? シランクスでも良いのだけれど、別の曲を吹いてもらえたら嬉しいわ。この三曲の中で吹ける曲があれば良いのだけれど……」


 笹山の手には三束の楽譜が持たれていた。「はぁ……」と曖昧に言ってそれらを受け取る。

 いずれもフルートのソロ曲のようでバッハ親子のものがそれぞれ一つずつにルチアーノ・ベリオというイタリアの現代作曲家のものが一つ。しかしそのどれもに奏は見覚えも、そして”指覚え”もあるように感じられた。どれを選んだとしても演奏に躓くことはないだろうと直感した。


「それでは、これでお願いします」


 言って奏は音楽の父であるヨハン・ゼバスティアン・バッハを父に持つカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ作曲の無伴奏のフルート・ソナタ、イ短調の曲を選んだ。特に理由はない。楽譜の中でそれが一番上にあったから、という理由だけだった。

 楽譜を受け取り、パラパラと軽くめくってから譜面台に乗せはしたものの見るつもりはなかった。

 静かな空気が漂う中そっとフルートを構える。

 先ほどとは違って心はひどく落ち着いている。一曲吹いたおかげで多少の調子というものが出てきたのかもしれない。

 ゆっくりと息を吐きながら演奏を始める。

 この曲は第一楽章から第三楽章まであり、全部を吹くとなると十分以上の時間がかかる。

 けれど今の奏にとってそれは何の苦しみにもプレッシャーにもならなかった。

 むしろそれだけの時間フルートを自在に吹けるという喜びの方が大きかったかもしれない。

 目を瞑り、先ほどと同じかそれ以上の翼を広げ、自由に演奏していく。

 脳の奥がちりちりとするような感覚がする。

 演奏出来ることの喜びか、自由を謳歌出来ていることの楽しさか?

 わからないが、息を吐き、指を動かしている間、奏の頭は幸福に包まれているのを確かに感じ取っていた。

 演奏を終え、フルートを下げて奏は長く息を吐き出した。

 部屋の中は秒を刻む時間さえも許されないかのような沈黙に支配されていた。

 ただ、演奏者として言うなら悪い沈黙じゃないように奏には感じられた。

 自分の演奏がそれだけの雰囲気を作り出せたという、ある種のスタンディングオベーションにすら思えたほどだ。


「……どこで彼女を?」


 そんな中、ポツリと呟くように言ったのはインテリ風の三沢だった。


「詳しくは私も聞いていないけれど、電話で進路相談がしたいっていう話だったそうよ」

「進路っていうことは来年の音大受験ということで良いのかな?」

「そういうのじゃなくて、趣味でフルートを吹いていて……少しでも良いから音楽に関わる進路に行きたいということだったはずだけれど……」

「趣味で?」


 それに「全く解せない」という表情を三沢は見せた。その一種の違和感はこの場にいる講師三人全員に共通しているもののようだった。

 少しの間自身の演奏の余韻に浸っていた奏もその違和感に徐々に感化され、何か自分がまずいことをしでかしてしまったかのような気持ちが芽生えてきた。

 と、それを悟ったか、その奇妙な空気を壊すように「いやぁ~」とガタイの良い片岡があっけらかんとした語調で言った。


「これはまた、いきなりとんでもないモノが降ってきたね」

「とんでもないモノ……ですか?」


 奏が恐る恐る問う。


「ああ、まったくとんでもないモノだよ」

「そうだね……はっきり言うけど、君のフルートの腕前は趣味程度なんて言葉の範囲をはるかに超えている」

「そう……なんですか?」

「そりゃあまだ完成されたって感じはしなかったけど……いや、だから怖いのかな? 底がまだ見えてないってことだからね」

「そうだね。僕も同意見だ」


 三沢が相槌を打つ。そして笹山が三人の意見をまとめるように口を開いた。


「天咲さん。貴女の演奏はかなりの時間、しっかりとした指導者の下で指導を受けていないと到達出来ないレベルのものに感じられるわ。趣味程度とはとても言えないレベルよ」

「それは……音楽大学を目指せるくらいのレベル、と言っても良いんでしょうか?」


 あまりの評価に思わずそんな言葉が奏の口をついて出た。

 今まで考えなかったことはないけれど、間違っても今日口にするようなことはないだろうと思っていた言葉だった。あくまで一度つまづいた道だと理性では考えていても、どうしても消し切れない期待が言葉を押し出したのかもしれない。

 それに答えるように三沢が口を開いた。


「もちろん十分そのレベル……と言うより、他に音大を目指している子を僕もたくさん知っているけど、そういった子たちより頭一つ二つは抜けてると考えた方が良い」

「そうね。もし貴女のレベルで目指せないって言うのなら私は受け持ってる生徒の全員に音大の受験を諦めてもらわなきゃいけなくなるわ」


 笹山が冗談交じりにそんなことを言う。今の奏にとってその言葉ほど嬉しいものはなかった。

 結局、正式な手続きは後日ということにしたが、奏はその音楽教室に籍を置き、笹山の個人レッスンを受けることした。

 もちろん高校を卒業していないから簡単に大学という目標を達成出来るとは思わない。それでも一つ大きな壁をクリアしたことには変わりなかった。

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