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「朝ですか……」
カロッルは目を覚ます。
目をこすりながら起き上がる。水をためた桶を侍女が持ってきてくれたので、顔を洗う。
そこでようやくカロッルの目は覚める。
「今日は街を見て回るのですよね」
「そうですね。このベベの街で治癒を必要としているものを探すことになっています。もしかしたらカロッルさんは、嫌な思いをするかもしれません」
「ああ……そうですね。私が治癒師と口にしただけで、ああいう態度になっていましたからね。私が治癒師であることも知られていそうですし……」
「そうですね。私共に対しても態度がおかしいですからね。治癒師本人であるカロッルさんには余計にそういう態度になるかもしれません」
「……そうなのですか。私と一緒にいるばかりにすみません」
「いえ、こちらこそわざわざ治癒のためにベベの街に来ているのに、嫌な思いをさせてしまってすみません。こんな考え方を持つ街であるというのをグレッシオ様にもお伝えしなければならないです」
「伝えてどうするのですか?」
「どうするかはグレッシオ様たちの決めることですね。ただ、このまま放っておいたらこの後、治癒師を増やすためにはこの街は邪魔になるでしょう」
ニガレーダ王国としてみれば、治癒師を増やすことを望んでいる。だからこそ、グレッシオに報告をすれば、何かしらの対策はすることだろう。
ニガレーダ王国の中で治癒師を受け入れないといった姿勢を持つ場所があるとは侍女も想像はしていなかった。
「……難しい問題ですね。そもそも何で、聖女さまへの敬意があるとはいえ、治癒師を認めないといった様子なのでしょうね。普通、聖女さまと同じような治癒師なら逆の対応しそうな気がしますが」
「そのあたりはこの街の気質というか、この街をおさめているものがそう言う考えみたいですね。領主の下についているその者が聖女さまへの敬愛を隠そうとせずに、そういうことをこの街に伝えていたようですから……」
侍女とそんな話をしながらカロッルは外に出る準備をおえる。丁度そのころ、騎士たちもその場にやってきた。
朝ごはんは外で食べることにした。――料理は出してくれ、接客もしてくれるものの……何処かカロッルたちのことを横目で見てこそこそしているものが多かった。
侍女や騎士達が言うには、この街は治癒師がいない時であるならば、優しい気質の人が多く、こういう事は全くなかったらしい。そのことを聞いて、カロッルとしてみれば、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
カロッルが視線を向ければ、彼らは視線を逸らす。
そのことに気分が悪くならないわけではないが、カロッルは喧嘩をするつもりもないので、即急にここでやるべきことを終わらせて、次の場所へ向かおうと決意するのであった。
朝食を食べた後、カロッルたちは街を見て回ることにした。街を歩きながら、治癒を求めている人たちを探すためである。
ただ話しかけようとしても、カロッルたちを避けるものも多かった。子供たちも聖女さま以外の治癒師のことで、何か大人に言いくるめられているのだろうか近づいてくることもなかった。
治癒師を求めている人はいませんか、とそう言いながら歩き回っているが、今の所、必要ではないと口にするものばかりである。
この街の人々はやはりカロッルのことなどお呼びではないらしい――というのが分かって、カロッルは小さくため息を吐く。
しかしカロッルたちは本当にこれだけ大きな街で、死者が少ない街とはいえ、誰一人として治癒師を必要としていないことなどあるのだろうか? と疑問にも思う。幾ら奇跡の街と呼ばれて、なんらかの力が作用しているとはいえ、此処まで治癒師を必要としないなんてことがあるのか。
「此処には治癒師を必要としている人がいないと考えていいのでしょうか……」
「そうともとれますが、でも一人もいないということは考えられない気がします」
そんなことを考えながら歩いていれば、騒がしい声が聞こえてきた。
カロッルたちは何事かとそちらに向かう。声のするほうへとカロッルたちは向かっていく。
「何をやっているのですか!」
カロッルたちが見たのは、何かを囲んでいる五名ほどの子供たちだった。その子供たちに侍女が声をあげれば、その子供たちは慌てた様子で去っていった。そしてそこに残されているのは小さな少年である。
倒れ伏している男の子。
――どうやらそこでは虐めが行われているらしい。
カロッルも侍女も騎士も眉をひそめて、彼に近づいていく。
「大丈夫ですか??」
「……あ」
少年は痣だらけである。暴力を長時間振る舞われていたのだろうか。ここはそれなりに人通りがありそうな場所なのに、誰一人止めなかったというのだろうか。
カロッルは少年の傷を見る。持ち運んでいる痛み止めの薬をなんとか飲ませる。
「どうしましょうか……」
「この子をどこかで休ませたいですね。宿に連れて行きますか?」
「それかこの子の家が分かるなら連れて行く方がいいかもしれません」
カロッルたちはそんな会話を繰り広げる。
この少年をどんなふうにしたらいいのか、判断がつかない。そんな風に話し合いをしていれば、少年の目があく。
「あれ……僕は」
「目が覚めたのですね。大丈夫ですか?」
「貴方達は?」
少年は不思議そうな顔をして、カロッルたちを見ている。
そしてはっとなったような顔をしてカロッルの顔をマジマジと見る。
「……貴方、噂の治癒師ですか!?」
その言葉にどうやら自分が噂になっているらしいということを、カロッルは知る。
ただこの目の前の少年は、カロッルに対して嫌悪などの表情はない。逆にその目は輝いている。
「そうですが……」
「なら、お母さんの事を助けてよ!!」
頷いたカロッルに、少年は必死な形相でそう告げるのだった。
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