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 グレッシオとジョエロワが教会に滞在している頃、マドロラもキャリーを連れて街中を移動している。


 カロッルは、宿から動きたくないということなので、クシミールと共に宿で留守番をしている。流石に奴隷であるカロッルを一人でおいていくわけにもいかないので、クシミールが監視の意味も込めて残っている。




 マドロラがキャリーと共に出かけているのは、街の事を見て回るためである。グレッシオの護衛としての意味も含めてこの街に危険がないかを見て回る必要があった。



 マドロラとキャリーという二人組で街をうろつくというのは、やりやすいものである。

 か弱い少女の見た目をしているマドロラとキャリーの事を警戒するものはあまりいないのである。見た目がか弱いというのはそれだけで相手を油断させる武器になる。



 空色の髪のかわいらしい少女と、茶髪の小さな少女。二人が手を繋いで歩く姿に周りはほほえましそうな目を見ている。髪の色は違うかもしれないが、姉妹のように見えているのかもしれない。




「マドロラお姉ちゃん、どこいくの?」

「どこでもいいのです。キャリーが行きたい場所で構いませんよ」


 マドロラの目的はこの街を見て回ることである。何処に行っても別に構わないのである。



 そんなわけでマドロラの口にした言葉に、キャリーは嬉しそうな声をあげていた。




 キャリーに手を引かれて、マドロラは歩いていく。その藍色の瞳を周りに向け、その一つ一つをマドロラは記憶していく。



 何か怪しいものはないか、何かが起こる前兆はないか。



 これから闇オークションに参加するにあたって、何か不測の事態が起こってしまえばマドロラとしてみればこまる。





 この街はウキヤの街よりも、裏通りというものが表立って存在していない。皆が和やかに話し合い、浮浪児というものも見られない。そんな穏やかな街だ。



 キャリーは目をキラキラさせながら、あたりをきょろきょろと見ている。マドロラの目から見ても、キャリーの目から見てもこの街は雰囲気の良い街である。

 裏の部分など全くないと思えるぐらいに平穏で、街の人々が穏やかに微笑んでいる。——そんな街だ。



 けれどそんな街でも当たり前のように闇オークションが行われる。



 キャリーに引き連れられて、マドロラは一軒の飲食店に入る。そこは軽食店のようだ。


 すぐに食べられるものを売っているその店、小麦粉を焼いて味をつけただけのものをマドロラは購入する。それをキャリーに渡せば、キャリーは笑みを溢した。



 その飲食店の店員の一人は、動きが素人の者ではないというのにマドロラは気づいた。


 他の店員の中にまぎれているが、それでも分かる人が見ればその者が普通ではないことが分かる。ただの飲食店の店員にしては動きが普通ではない。



 何か目的があってそこの飲食店で働いているのか、それとも元々そういった職業をしていたものが転職して飲食店に務めているのか。



 それはマドロラにはすぐには把握は出来なかったが、その店員のことは頭に留めておくことにした。



 マドロラはその後も、キャリーが望むままに手を引かれてデジチアの街を見て回った。



 髪飾りのお店ではキャリーは目を輝かせていた。元々貧しい家の生まれというのもあり、キャリーはそういうお店で買い物をしたことがなかったのだろうというのはマドロラでも想像が出来た。

 キラキラした目で髪飾りを見るキャリー。だけど、自分からは一度だって買ってほしいうことを口にすることはない。



 それはキャリーがマドロラのことを姉と似ていると慕っていたとしても結局は他人であり遠慮しているというのと、ただたんに誰かに何かを買ってほしいと甘えるような経験がキャリーには今までなかったからだろう。



 マドロラは、そんなキャリーを見て一つの髪飾りを手に取り、購入する。それはキャリーがじーっと見つめていたお花の飾りのついた髪飾りである。

 購入したそれをキャリーに渡せば、キャリーは嬉しそうにまた笑う。



 マドロラはキャリーという存在に心を許しているわけではない。姉のように慕われて嫌な気分になることはないが、キャリーを特別視しているわけでもない。

 ただ周りに不自然のない程度に街を見回り、街の情報を知るという現在の目的を遂行するためにも適度に買い物をしたほうがいいだろうと思えたからである。



 目を輝かせてあたりを見回すキャリーの姿だけでも周りは観光目的で訪れた姉妹だとマドロラとキャリーを認識するかもしれないが、下手に何かを怪しまれないように動いていたほうが良い。



 そんなわけでマドロラは適度に買い物をしながら、街を歩いた。



 その過程でマドロラは、この街には様々な場所に件の飲食店で見かけたような素人ではないと思えるような人物がいることを知った。

 見る人が見れば素人ではないと分かる彼ら。敢えてそのように見せているのか、何の目的があって店員としてまぎれているのか、といった点まではマドロラには分からない。



 ただこの街は見かけ通りの平穏で、穏やかで、活気あふれる街というわけではないらしいというのは理解した。


 訪れた当初はこの街で闇オークションが行われるなんてと思ったが、この街は平穏な街と見せかけて、裏で暗躍しているような存在が根付いているのであろうとそう結論づける。



 そしてマドロラのその推測は、グレッシオたちに伝えられるのであった。



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