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 グレッシオの言葉に奴隷商は目を見開く。流石に聖魔法の使い手を求めているとは思わなかったらしい。


 グレッシオももし奴隷商の立場であったのならば、こんな客が来たら驚くことだろうと思う。



「聖魔法の使い手の奴隷ですか……。本当に珍しいものを探しているのですね。しかし残念です……。うちの奴隷にも流石に聖魔法の使い手はいません」



 驚いた顔を引き締めてロドーレアはそう告げる。



 グレッシオも流石にすぐに聖魔法の使い手が見つかるとは思っていなかったので、それに驚く事はない。




「聖魔法の使い手は流石にいませんが、治癒師ならばいますよ。そちらをご購入しますか?」

「……そうだな。そちらも見させてもらいたいが、聖魔法の使い手がいそうな場所はないか?」

「そうですねぇ……奴隷で探すのでしたら……、一つ先の街で今度非正規の奴隷のオークションが行われる予定なのです。そちらでならばまだ聖魔法の使い手ももしかしたらいるかもしれませんが」




 このウキヤの街ではなく、一つ先にある街で非正規の奴隷たちが売られる裏オークションと呼ばれるものが行われるらしい。


「そのオークションでは、奴隷だけではなく、表に出せないようものも沢山出てきます。グレ様の望むものが何かしら手に入るのではないかと思いますよ」




 商人はそう言って、含みのある笑みを浮かべる。

 


 商人が言う裏オークションでは、非正規の奴隷だけではなく、表に出せないような物品も出されるらしい。恐らく盗品などが出されるということなのだろうと想像が出来る。



 流石にグレッシオも裏オークションというものに参加したことはない。とはいえ、闇オークションの話をタダでするわけもないだろう。何か交換条件があることは想像が出来る。




「――もちろん、ただではご招待は出来ませんが、私の所で奴隷を購入してくださるのでしたら、闇オークションに招待しましょう。どうでしょうか」



 ロドーレアはそう告げて、グレッシオたちに向かって笑いかけた。


 やはり闇オークションに忍び込ませようとするのならば、そのくらいの交換条件は必須である。闇オークションというのは基本的に一見さんお断りなのである。




 それも当然であろう。闇オークションの会場というのは、いつ粛正されてもおかしくない場所である。非正規の奴隷商として単体で活動するよりもずっとリスクがおおきいのである。






「では、治癒師の奴隷を見せてもらえるか」

「いいでしょう。ああ、まぁ、治癒師の奴隷は高額なのでもっと安い奴隷でも構いませんよ。一人でも奴隷を購入してくれたらそれだけで闇オークションに招待いたしますから」

「いや、それは気にしなくて構わない。どちらにせよ、治癒師の奴隷は欲しい」




 確かに闇オークションに向かうというのならば、闇オークション以外でお金を使わない方が良いのかもしれない。とはいえ、ニガレーダ王国は全体的に人手不足である。



 闇オークションに聖魔法の使い手である存在が出品されるかどうかは分からない。ならば、此処で治癒師である存在を手に入れるのはニガレーダ王国のためになることだろう。



 そういうわけでまずはロドーレアの所有する治癒師の奴隷を見ることにした。



 聖魔法の奴隷ほどではないが、治癒師の奴隷というものもそこまで数がいるわけではない。そもそも治癒師というのは専門的な知識を学んだものばかりだ。それだけの知識を持っているものが奴隷に落ちることは難しいのだ。




 ロドーレアの所有していた治癒師の奴隷は一人だけである。




 その奴隷は美しい赤髪を持つ二十代ほどの女性である。その女性は、全てを諦めたような表情をしていた。非正規の奴隷商に買われている奴隷というのもあり、この先の事を思うと絶望しかないのだろう。




「おい、客だ」




 ロドーレアの言葉に、ちらりと女性は視線をグレッシオたちに向ける。その目には生気がない。





「この者は優秀な治癒師として名を馳せていました。薬の調合の腕はとても高いです。貴族である治癒師の不興を買ってしまい、奴隷へと落とされることになったのです」



 どこの世界でも、身分の高いものの不興を買えば大変な目に遭うものである。

 こんな非正規の奴隷にまで落とされてしまうというのならば、よっぽどろくな貴族ではなかっただろう。


 



「いいな。どのくらいの価格だ?」

「そうですねぇ。金貨10枚ほどでしょうか」




 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の価値がある。ちなみに銀貨20枚もあれば家族で生活が出来る月収になる。金貨10枚となると五十カ月分の月収である。


 ただの治癒師でもそれだけのお金がかかるのだ聖魔法の使い手はもっと途方もない値段になることだろう。



「よし買おう」



 グレッシオがそう口にすれば、女性は睨みつけるようにグレッシオたちを見た。その態度にロドーレアが手をあげる。そうすれば、女性が痙攣した。

 奴隷の首輪による電撃が流れたらしい。



「では手続きをしますね」



 ロドーレアは痙攣した奴隷に目もくれずに、そう告げる。

 そしてグレッシオに向かってにこやかに微笑み、売買契約を済ませるのであった。



 女性は檻から出される。

 女性は反抗的な態度を取っているものの、売買契約を結んだ今、何か反抗は出来ないのであった。



 それから闇オークションの名無しを聞いた後、グレッシオたちは奴隷を連れて宿へと戻るのであった。





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