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 グレッシオたちは目的であるウキヤの街へとたどり着く。 

 馬車の乗車口では、多くの人々が乗り降りしている。グレッシオたちの降りた先でも、多くの人々がいた。



 その街は、レンガ作りの建物が立ち並んでいる。グレッシオが見える範囲でも細い道がいくつか見られ、この街は裏通りといったものが多く存在するのが確認できる。

 ニガレーダ王国の王都よりも、栄えている。その事にグレッシオは何とも言えない気持ちになりながらも、その事実を事実として受け入れている。


 ニガレーダ王国が小国であることは誰の目から見ても事実である。だからこそ、それを受け入れた上で、グレッシオたちはニガレーダ王国をどうにか生き残らせていきたいとそう願っている。







 ウキヤの街に辿り着いてから、グレッシオたちが真っ先に行った事と言えば宿の確保である。



 ウキヤはスイゴー王国の南にあるそれなりの大きさのある街である。冒険者や旅人の行き来も大きい。

 そのため宿というのも様々な種類がある。宿泊費が安いものだとほぼ野宿と変わらない宿だったり、高級宿だと貴族の宿に泊っているようなそんな気分を味わえる宿である。

 ちなみに普通に野宿をしているものや、浮浪児として暮らしているものも多くいる。



 ウキヤの街は富裕層の多い通りと、貧困層の多い通りがきっちりと分かれている。グレッシオたちは目立たないためにも、中間の位置――どちらともいえないエリアの宿に泊まる事にした。



 ただの奴隷商は大通りにもいるが、非公式な奴隷に関しては裏通りにしかいない。ひっそりとこの街に生息しているというべきか。まずはその存在を探す必要性もある。



 こういう人の行き来の多い街は、旅人が一人いなくなろうとも大して騒ぎにならない。奴隷を探しに来ているのに、奴隷に落ちてしまうという結果にならないとは限らないのである。

 グレッシオたちが奴隷になってしまえば、大変な事態になる。





「グレ、この宿でいいか?」

「ああ」






 宿屋は簡単に決まった。一つ目で此処に泊ろうと決めた宿がちょうど二部屋空いていたのだ。


 その二部屋を二対二で分かれる。



 グレッシオとクシミール。

 マドロラとジョエロワ。


 その二対二で分かれる。

 マドロラとジョエロワは性別が異なるが、二人ともニガレーダ王国に仕える仲間であり、その間には男女の情というものはない。

 グレッシオとマドロラは親しい仲だが、流石に同じ部屋で眠るわけにもいかない。




 そんなわけでそんな部屋割りをしている。



 クシミールはグレッシオの護衛も含めて同じ部屋である。この宿はそれなりの大きさの宿である。高級宿ではないので、風呂というものはない。

 そもそも風呂というのは、王侯貴族以外入らないものである。お金があるからこそ、それだけの設備を用意できるのである。


 ニガレーダ王国の王宮にも風呂というものはある。とはいえ、金銭的な問題もあり、王族であるグレッシオも毎日風呂を沸かしているわけでもない。どちらかというともっと庶民的な体の洗い方をしている方が多いのであった。



 さて、そんなグレッシオなので、王族とはいえ、風呂がないことに対する不満は全くない。









「グレ、今日はこのまま休むか? 移動距離も多かったですが」

「そうだなぁ。休むと言いたい所だけれども、そんな時間に余裕があるわけでもないだろう。まずは目ぼしい奴隷を買える場所を探す方がいいだろう]




 グレッシオはそんな風にクシミールに答える。



 この街にたどり着いたばかりというのに、グレッシオは休む気がなかった。ニガレーダ王国はそんな風に休む暇なんて全くないのである。

 ニガレーダ王国は、それだけ小国である。

 少しでも気を抜けば、他の国に飲み込まれてしまいそうなほどの小さな国。だからこそ、その小国を生き延びさせるためには、そんな風に休むことは出来ないとグレッシオは考える。



 とはいえ、グレッシオは常に気を張っているわけではない。ニガレーダ王国ではそれなりに気を抜いた姿を見せている。とはいえ、此処は他国である。目的をもってこのスイゴー王国にやってきたからこそ、その目的を叶えるために全力を尽くしたいと思っている。



「そうだな。探そう」

「あとは奴隷じゃなくてもニガレーダ王国に来たいと思ってくれるような存在がいれば連れて帰るのもありだと思うが……わざわざニガレーダ王国にこのウキヤから行く理由もないだろうからな」

「聖女さまがいたってことしかないからな」

「だよな。聖女さまがいたという価値はあるが、同時に聖女さまの子孫がいなくなった場所でもある。聖女さま目当ての者は、隣国の方に行くだろうからな」

「せめて聖女さまの子孫がちゃんとニガレーダ王国に残っていれば良かったんだが」

「だな。そうすれば俺も王族ではなかったんだが……。まぁ、そんなことを考えても仕方がないが」



 部屋の中でもため口を聞いているのは、人前でグレッシオがやんごとなき相手であると悟られないように徹底しているからである。ふとした瞬間にそういうものが出てしまえば困るのだ。

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