第2話 順風満帆、足元に奈落

 この日の戦闘はあっけなくカタが付いた。

 シャインが敵の空戦機主力部隊を散々に蹴散らしたところに、援軍の空戦部隊が到着したことで制空権は完全に確保。

 さらに暇になったシャインが空戦部隊の連中を誘って敵地上部隊への的当てゲームを開始したことで、敵陣営の戦意はガタ落ちした。



「みんなー! 射的して遊ぼうよー! ドローン機1点、一般兵2点、指揮官機5点、エース機10点ね。ボクは強いからハンデ50点でいいよ」


戦国DQN森長可かオメーはよォ!?」



 一度戦意が萎えてしまえば崩れるのはあっという間である。

 シャインを雇ったクラン《トリニティ》側の指揮官は、機嫌よく通信を入れた。



「ご苦労だった、褒め置こうシャイン」


「そりゃどーも」



 《トリニティ》の指揮官・ペンデュラムは、背中まで長く伸ばした黒髪が特徴的な美青年風の容貌を持つ。それでいて厳格な雰囲気をまとっており、筋骨も逞しい。

 口調は何かにつけて居丈高なのだが、実際トリニティ内では高い地位にあるらしく、兵からも慕われているようだ。


 何となく少女マンガのオレ様系お金持ちキャラみたいな奴だな、とシャインは漠然と思っている。

 そしてこのオレ様キャラが、傭兵であるシャインにとっては目下のお得意様かねづるというわけだ。



「それでぇ、今回のギャラなんだけどぉ……」



 えへへと笑いながら、シャインは手もみして商談モードに入った。

 商談と言いつつも、やってることは可愛さを前面に押し出したぶりっ子である。

 あまりにも演技があざといシャインだが、ペンデュラムは鷹揚おうように頷いた。大物か。



「ああ、事前の約束の成功報酬は、5000円のカードだったな」


「エースもやっつけたんだけど、もうちょっと色付かない?」



 ここぞとばかりに、シャインは上目遣いですがった。

 ホログラム映像でウルウルと瞳を潤ませる少女に、ペンデュラムは苦笑を浮かべる。



「ふむ……いいだろう。ではもう1枚追加しよう」


「おっと、エースは2騎いたよ!」


「そうか。じゃあ合わせて3枚手配しよう」



 ちょろいぜ!


 シャインは毎度どーも♪ とホクホク笑顔を浮かべた。

 金銭感覚にゆるいのか、ペンデュラムは言い値でギャラを払ってくれるのでシャインとしては笑いが止まらない。

 へへっこのお坊ちゃん、リアルじゃ相当金持ってんだろうな。

 ゲームで味方するだけで小遣いをもらえるなんて、こんなうまい話はない。

 これからもいっぱいむしらせてもらおう。



「しかしシャイン、お前はいつになったら正式に俺の麾下きかに入るのだ?」


「えー? またその話? それはもう断ったでしょ」


「俺は納得した覚えはないな。シャイン、お前は実に使える人材だ」



 ホログラムで上半身だけ再現されたペンデュラムは、そう言って身を乗り出した。


「お前が参戦するだけで敵は恐れおののき、士気を下げる。

 一方でお前に負けじと、味方は士気を高めて奮闘する。

 そしてその名声に違わぬ戦いぶりで、戦場を席巻するのもお前だ。

 お前という存在は、1人にして3つもの使い道がある稀有な人材と言える」


「いやぁ、相手も味方も勝手にビビってるだけじゃないかなあ……。

 まあ? ボクが超つよーいのは事実だけどね!」


「そうだ、お前は有能だ。そういう人材こそ、俺の右腕にふさわしい!」



 力説するペンデュラムだが、彼の口調に熱が籠るほど、シャインの温度は目に見えて冷めていく。



「えー? やだよ、しがらみとかめんどくさーい」


「俺のモノになれ! シャイン!」


「嫌です」



 こいつマジでオレ様系みたいなこと言いやがるな。



「何故俺に従わない、シャイン! 優れた人材は優れた指導者の元にあってこそ輝くものだ、その名前のように!」


「あのー。みんなシャインシャインって言うけどさ、ボクの名前はスノウライトなんですけど……。もうこれで何度目か忘れたけど、人のことを勝手なあだ名で呼ばないでくれる? どっから来たのさ、シャインって……」


「シャイン、話をはぐらかすな!」


「スノウって言ってるよね!? シャインって呼んだら二度と返事しないからな!」


「……わかった、スノウ」



 ペンデュラムはふう、とため息をついた。

 わかってくれたか。



「とりあえず、この後ロビーのレストランで食事でもどうだろう? もちろん俺が奢ろうじゃないか。今後についてゆっくりと腰を据えて話し合おう」


「おっと、説得に成功するまで帰さないやーつ」



 全然わかってくれてなかった。

 シャイン改めスノウは、こいつこれさえなければ完璧なお得意様なんだけどな……とげんなりしながら、話を打ち切る方向に持っていく。



「今日はこの後用事があるから、また気が向いたときね。

 あ、ちゃんとカード手配するの忘れないでね!」


「そっちは手抜かりない。俺が一度でも支払いを滞らせたことがあったか?」


「もちろんそれは信頼してますよぉ、えへへへ」



 スノウは手もみしてニコニコと笑いながら、ログアウトのスタンバイ状態に入った。



「それでは、またのご利用をお待ちしてまーす♪」


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