第11話 同級生(どうきゅうせい)男女(だんじょ)(デート)

高校生ともなれば、男女(だんじょ)交際(こうさい)があって当然。

それも楽しい高校生活の一部。世間(せけん)一般(いっぱん)の高校生の話を聞くと、都会では高校生がデートであちらこちらでたむろしたり、繁華街をうろうろしていると聞く。

だが、我が田舎(いなか)の高校生は二人であちこちデートに行ったりはしない。

人口が多く、知らない人間ばかりが暮らしている大都会なら、何の制限もなく、何処(どこ)へ行こうと、勝手(かって)気ままに思いつくままに、ふらふら、ぶらぶら遊び惚(ほう)けることも出来るだろう。それに引き換え、住人の流入出の少ない田舎では、何処へ行っても何をしていてもみんな周(まわ)りの知人の目の中にある。『何処(どこ)の誰兵衛(だれべえ)』かも、『何処(どこ)の誰子(だれこ)』かも、ほとんどの人が分かっているし、親(おや)同士(どうし)が知人の場合も多い。何世代も同じ地域で、同じ状況で暮らしてきた皆(みな)仲間(なかま)の田舎なのだ。

 田舎はどこもこんなものだと思う。だから皆(みな)周(まわ)りの目を気にして、悪いことをする奴はほとんどいないし、変な噂(うわさ)が流れないように、街中(まちなか)を変にうろうろしたりはしない。

『かわいそうに。不自由だな。もっと自由に遊びたいだろうな。つまらないだろうな。』と思われるかもしれないが、別にそんな事はない。ある意味、何処(どこ)に行っても訳(わけ)の分からない変な奴はいないのだから安心な世界なのである。

 その安心な小世界(しょうせかい)の中に、他(た)府県(ふけん)の人間にはちょっと不思議な、この土地独特の風習(ふうしゅう)がある。

「イクちゃん、今度の休みは何か予定がある?どっか行く?」

「別に何も考えてないわよ。何かある?」

「何もない。家に行ってもいいか?」

「うん。いいよ。家で待ってるわ。」

 このように、二人とも好意を持っている場合、男子は女子の家に遊びに行く。勘違(かんちが)いしないでほしいのは、家に行くのは彼女の家族のいる時間だけである。彼女一人の時間帯などには行きはしない。

 この土地では、女の子がある程度の年齢になると、親は娘に異性(いせい)の友人が現れないと娘に人気が無いのではとか、女として魅力がないのではないかとか心配になるらしい。だから、家に男の子が遊びに来ると、安心して歓待するのである。

 相手の家を訪ねる時は、必ず先方の親に、自分は何処の誰だと挨拶(あいさつ)をして家に入る。そうすれば、親は安心してくれて、二人でしゃべっていても、お茶、お菓子、果物など次々に出してくれる。もちろん、二人の会話を邪魔(じゃま)しないように気遣ってくれてはいる。そんな状況も、それは当人たちにとっても邪魔(じゃま)でもない。むしろ安心して二人でしゃべっている。隣の部屋におばあさんなどがいる場合等(など)でも、おばあさんに話しかけたりもする。でも二人に会話に大人が立ち入ってくることはないし、邪魔(じゃま)されたりはしないから、二人の会話は弾(はず)むのである。

 二人の時間を楽しんで区切(くぎ)りがついてそろそろ帰ろうと家の人に挨拶(あいさつ)をすると、

「もうちょっとゆっくりして晩(ばん)御飯(ごはん)を食べて帰らんかね?」とか、

「今度はいつ来る?今度はケーキでも用意しちょくきに先に言うちょいてよ!」とか言われる。もちろん、当方が相手の親に気に入られていればの話ではあるが…。

 こちらも「今度来るときは嫁にもらいに来ますから、どうか宜しく!」などとほとんど本気とも冗談(じょうだん)ともとれる軽口(かるくち)を言いながら相手の家を去るのである。

家の中なら、狭い街中でうろついたりして他人の目を気にするようなこともなく、安心して二人の時間と空間を持つことができる。いつもこの調子である。この土地では、これがこの地方の高校生の『正式なデート』である。

ん? 何か変ですか?

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