第9話 タバコ

四時間目の授業が終わると昼飯。

男の連れ仲間はみんな体育館の二階に弁当を持って集合して弁当を食べる。

教室では食いたくないのだ。

なぜなら、このクラスは男子が15名女子は31名、と女子が大多数のクラスで、それでなくとも普段から何かを決める時や、クラス単位で何かをする時の決定権は女子に牛耳られ、女子の権力が強く、男子は肩身(かたみ)の狭い面白くない思いをしているのに、特に昼飯(ひるめし)時(どき)ときたら、教室には女子の嬌声(きょうせい)が充満し、うるさくて男子は居たくなく、自由を求めて教室から脱出するのだ。

「おまんの弁当のおかず、今日はなんぞね?」

「今日は、フグの味醂(みりん)干(ぼ)し二枚。」

「またそれか!贅沢(ぜいたく)なやつやな!毎日そんな贅沢(ぜいたく)なもんくうたらいかんぞね。」

「そんなことはないちゃ。お前は卵焼きじゃろ? え? かまぼこのオランダか!贅沢(ぜいたく)!おまんの方こそぜいたくじゃいか。」

「おまんら二人とも贅沢(ぜいたく)ぜよ!おかずは梅干しとちりめんじゃこでじゅうぶんやろがや!」

「お前は何や?パンか。よし!みんな弁当を前に出せ!今日は弁当交換じゃ!じゃんけんで勝った順番に好きなのを選ぶ事にしょうか‼」

誰が言うともなしにいつの間にか話が弾み、みんなで弁当交換をし、弁当を食べ始めた。

ぶつぶつ言ったり、ワイワイ言ったりしながら弁当を食べていると、

 「おい!お前ら!」と太田先生の声が聞こえた。

「楽しそうでいいけんど、誰もタバコを吸ったりしちゃあせんろうにゃあ!大人になるまで吸うたらいかんぞ!特に体育館では吸うてくれるなよ!火事になったらまっことオオゴトになるきにゃあ!頼むぜよ!」

「はい、わかりました!でも、誰も吸ったりするやつはここにはおりません‼」とみんなで声をそろえて返事した。確かにこの中には喫煙者(きつえんしゃ)は居ないからである。

 確かに隠れて吸っていたやつは過去には居た。しかし、先生たちの行動で、そんな奴は居なくなった。喫煙したものがいるとの情報が学校に流れた時、先生達が手を打ったからである。

 ある朝、ホームルームの時間に、担任の先生が教室に入ってくると、

「生徒の中に喫煙者がいるという話が流れている。今日は持ち物検査をする!

しかし、全員の持ち物を全部検査しよったら時間がなんぼあっても足らん。

そこでじゃ、タバコを持っているものは自主的に出してくれ!」と、申し訳なさそうだが、いつになく強い語調(ごちょう)で言った。

 喫煙者はタバコ臭いからみんな分かっている。本人も悪いことだと分かっている。

『本人が告白するかな…?そんな勇気はないだろう。無理だろうな。』と思っていると、川田が手を挙げて、「先生!すみません!僕、持ってます。」といった。

先生は笑いながら

「やっぱりお前か。しょうのない奴やな。どれ、タバコを出せ‼見せろ‼。

何⁉『ロングピース』⁉ お前、先生は『いこい』やぞ‼

先生より高いタバコを吸うなよ‼先生の立場が無いろが。

どうしても吸いたいならもっと安いタバコにしろ‼」

『オイオイ、先生、喫煙を咎(とが)めるのではないの?』と思っていると、先生は続けて言った。

「隠(かく)れてタバコを吸って、火の後始末(あとしまつ)が悪く、火事になると困るから、今日から教室の一番後ろにバケツに水を入れて置いておく。悪いと分かっていても、どうしても吸いたい奴(やつ)はそこで吸ってくれ。そこ以外では吸うな‼ 特に、親御さんや先生よりも高級な、高校生には贅沢(ぜいたく)なタバコはいかんぞ‼ 高いたばこは社会人になって自分で金を稼(かせ)げるようになってから買え‼ そんなタバコを見つけたら、わしのタバコと交換するからな‼ 忘れるなよ‼」

 どんな悪い奴でもさすがに教室では吸えないと見えて、それ以来、喫煙をするものは学校にはいなくなった。もちろん外で隠れて吸っているやつも皆無となった。

殆(ほとん)どの先生たちは、学校を出てすぐ教師(きょうし)になったわけではなく、一般社会を数年以上経験してから学校の先生の職に就(つ)いている。教育実習の続きでそのまま先生になった先生はほとんどいない。社会の波にもまれて色々な経験を積まれた『大人(おとな)』の先生達だからこそ、無用(むよう)な縛(しば)りや高圧的(こうあつてき)ながんじがらめの規則で縛(しば)るのでは無く、こんな緩(ゆる)やかだがユーモアにあふれたみんなが素直(すなお)に従うような対応や対策がとれるのであろう。

『大人』の先生達の賢(かしこ)さに、みんな感動(かんどう)‼ 敬服(けいふく)‼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る