第5話 テニスの試合(しあい)

今日は県東部の高校のテニス部のトーナメント。

テニスといっても田舎の高校の事だから軟式テニスである。

二人でパートナーを組み、相手の二人組と試合をする。

 私のパートナーは同じクラスの親友角田。遊ぶのも勉強するのもいつも一緒。

先生は、勉強も運動も二人はライバルでいつも競い合っていると思っているようだが、二人は全くそう思ってはいない。単なる友達で似た者同士なだけなのだ。

 二人とも『やる時はやる』と思っているが、その『やる時』が年に二回有るか無いか、なのである。

言うならば、『頑張って、努力を積み重ねて、必死で何かを成し遂げよう!』等と言うことを考えないお気楽人間。

 それでもこの二人、成績はクラスの一番二番になることが多い。『ウサギとかめ』のふらふらしているウサギが、『アリとキリギリス』のキリギリス以上に、努力しないでもまずまず誰からもいい成績だと認められる成績を残してしまうものだから、先の事の大きな展望や目標を設定せず、日々を楽しんでいるだけなのである。

「お前ら二人は真剣に勉強しなくても授業をうけているだけでそこそこの成績が残せるから始末に悪い。二人ともしっかり目標を定めて、しっかり勉強しないと、中途半端な人生で終わるぞ!」と言う先生のありがたい忠告も、聞いているようできいていないのが現状。

 大会が始まり、次々と試合が進んで行く。

うちのチームの別ペアが一勝を挙げた。次は私たちの対戦が始まる。

 対戦相手とコートで会った途端(とたん)、角田と私は思わずお互い見つめあって呆然とした。

相手のペアの一人が角田の中学校時代の同級生である事は知っていたが、その彼が、左手を三角巾で吊って出てきたのだ。この時、私たち二人の試合は終わった。

 試合では相手の弱い所を攻めるのが勝利の鉄則。

しかし、相手が怪我を押して出場してきた。そんな相手をいたぶるように攻めてまでして勝ちたくはない。万全の状態で戦って勝ちたい。

二人とも勝負事に向いていない、そんな『甘ちゃん』の気持ちだった。

 試合に負けて、二人はみんなにこの気持ちを話して、試合に負けたことを詫びた。

結果的に、けがを押してまで頑張って試合の出てきた相手の選手にも失礼なことをしたと気づいて後悔したのは、試合が終わってからだった。

「お前らの事だから、相手を見たらどうせそうなると思っていた。

あの相手では真剣に割り切って試合に勝ちに行くのは無理。仕方がない。

お前らの優しい気持ちが災いしたな。

でも今度からはどんな相手が来ても勝ちに行けよ。」

みんな慰めとも諦めともつかないような言葉を投げかけてくれる。

しかし、試合に出ることは、これ以降辞退した。自分たちの『甘ちゃん』を押し殺してまで勝負に徹する事は出来ないと思ったからである。

 テニス部のみんなはそれ以降も二人を仲間として扱ってくれ、一緒にワイワイやってくれている。ありがたいことだ。しかしこのあとこの甘ちゃんペアが試合に出ることは本当になかった。

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