強すぎるシャーマンプリースト、嫉妬した勇者にギルドを追放されたので鍛冶屋になる

@yuyuyu3

第1話追放されたシャーマンプリーストは鍛冶屋を目指す

「ガイル、俺のギルドから出ていけ」




勇者ベルは唐突にそう告げた。








「それは別に構わんが、それなら今までの取り分をよこせ」




「取り分だと?お前なんぞにくれてやる取り分はないっ」




テーブルに脚を投げ出していたベルが、ぞんざいな口調でいう。




そんなベルをガイルはじっと見つめた。








「このギルドに入って一年ほど過ごしてきたが、勇者ベルよ、貴様は本当のクズだな。他のメンバーを囮に使い、自分はまんまと逃げおおせ、


金や道具は全て独り占めにする。


そして少しでもお前に意見した者、反対した者は切り捨て、敵に捕まった仲間は簡単に見捨てる。


お前には人間の情というものがない。だからといって、冷酷なしたたかさや計算高さを持ち合わせているわけでもない。ベルよ、お前はただの愚物だ」




「……言わせておけば、貴様など、元はどこの生まれとも知らぬ解放奴隷上がりだろうがっ、それに対して俺は貴族の生まれであり、国から勇者として選ばれた存在だぞっ


本来ならばお前如きが口を利けるような男ではないんだぞっ」






立ち上がったベルがガイルを睨みつける。




その両眼には侮辱されたことに対する怒りの炎が燃えていた。






下手に図星を突かれたせいで、逆上しているのだ。




「その通りだ。俺は拳奴上がりのプリースト、だが、それがどうかしたか。俺が拳奴上がりだとして、それで貴様の値打ちが上がるわけでもあるまい。


お前はただ、汚い手を使って国から勇者の称号を奪っただけのろくでなしだ。本当のお前は臆病な卑怯者であり、ただの小者でしかない。


そしてお前なんぞを勇者として選んだこの国の連中も、どうしようもない節穴ばかりだ。なんだ、本当のことを言われて怒っているのか?


悪いが俺は嘘が苦手なものでな。それでどうしたんだ、そんなに身体を震わせて。風邪でも引いたか。お前のような馬鹿でも風邪を引くんだな」




「……」




無言で抜刀したベルが、振り上げた剣をガイル目掛けて上段に斬りつける。






だが、落ち着き計らっていたガイルは、無造作に薙ぎ払った手刀でベルの剣を根元から叩き折ると、一歩踏み出して相手の頭を鷲掴みにした。






「こんなナマクラでは、コボルト一匹まともに仕留められんぞ、ベルよ」




「な・・・・・・何をするつもりだっ」










頭をガイルに捕まれたベルが、必死で逃れようと身体をよじる。




そんなベルを冷ややかな眼差しで見下ろしていたガイルは、勇者の胸元に掌を軽く置いた。




途端に凄まじいエネルギーが、自らの五体に流れ込んでくるのをベルは感じ取った。






身体中の血管が荒々しく沸騰し、内臓が灼けるような感覚に襲われる。








「貴様に掛けたのは俺の技の一つ<三年殺し>だ。これより三年後、貴様の命は散ることとなる」






「そ、そんな……」






ガイルからの非情な宣告に目を見張るベル。




「だが、俺も鬼ではない。ゆえにベルよ、貴様にチャンスをくれてやろう。三年以内に俺と勝負するがよい。そして勇者としての力をこの俺に示せ。


見事示すことができれば、命を助けてやろう」




そういうと、ガイルがベルの頭を離してやる。




そのまま勇者は、よろけるように尻もちをついた。




「・・・・・・もし、この技が発動したら俺はどうなるんだ?」










「その時は、お前の身体中の穴から血が噴き出し、頭と胴体が内部から破裂して絶命することになる。言っておくが、俺の技を解こうなどとは思わぬことだ。


俺以外には解けぬし、俺以外のものが解除しようとすれば、技はすぐにでも発動する。では俺はこれまでの分け前を貰うとしよう。


達者で暮らすが良い、勇者よ」






そういうと、ガイルは居間を出て会計室へと向かった。






うなだれたまま、頭を掻きむしるベルをその場に残して。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ギルドの経理会計を担当しているメイジのダリは、ガイルの申し出にすんなりと金を払ってくれた。




普段は財布のひもが固い男なのだが、今回は別らしい。










「それでもうやることは決めてあるんですか?」




銀縁眼鏡をかけなおし、ダリが訊ねる。




「ああ、これを機会に俺は鍛冶屋になろうと思う。元々は自分の手で武具を鍛えるのが夢だったんでな」




「鍛冶屋ですが。いいですね」






「そういうダリはギルドに残るのか」




「いえ、実は私もこのギルドを出て、魔術師の連塔に戻ろうと思いましてね」




「魔術研究に戻るのか」




「ええ、実は中々決められずにいましたが、今回の事で決意しました。このギルドに残っても先はなさそうですし」






短く刈った茶色い髪に手をやり、ダリが頷く。






魔術師の連塔は、メイジや学者が集まる魔術の研究組織だ。




この組織の主な目的は、新しい魔術の開発や魔術体系をまとめたり、遺跡に眠る古代のマジックアイテムなどの発掘及び研究である。








「そうか。互いに頑張ろう。では世話になったな」






「あなたの世話になったのはむしろ私たちのほうですよ。ギルドのメンバー達も何度、あなたに命を救われたことか」






「俺は当然のことをしたまでだ」




「あなたならそういうと思いましたよ」






「では、機会があればまた会おう。さらばだ」




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