三人目の奴隷②

「87番の奴隷を連れてきてくれ」


「87番ですね。畏まりました。今回はお連れするのは、一人でよろしいのですか?」


「構わない」


 今回、俺の求める人材に適合する奴隷は二十人以上いたが、87番の奴隷は能力が頭一つ飛び抜けていたので。


 暫く待つと、奴隷商人が一人の少女を連れ立って部屋に入ってきた。


 少女は身長が150cmにも満たない小柄な少女で、短く切り揃えた栗色の髪の上にはピョコピョコと動く猫耳が生えていた。大きな目が愛くるしく、お尻から生えている尻尾も非常にキューティクルだ。


 資料を見る限り、年齢は十二歳。まだまだ遊びたい盛りの子供のはずなのに、今は動揺する事も無く、落ち着いた態度で直立不動のまま待機している。


「初めまして。俺の名前はリクだ」


「奴隷ナンバー87……です」


 少女は小さい声で答える。


「名前は?」


「……ミア」


 少女――ミアは呟くような声で答える。


 手元の書類で確認する限り、ミアは元盗賊だった。


「奴隷になる前、盗賊をしていた頃は、どんな仕事をしていた?」


「雑用……と、偵察」


 雑用と偵察ね。【神の瞳】で確認する限り、ミアの家事能力全般は高くない。


「雑用か。得意だったか?」


「苦手。いつも怒られていた」


「なるほどな。偵察は?」


「得意……だと思う」


 俺の質問にミアは小さい声で答える。


 今回ミアを選んだ理由は――調査能力に他ならない。今回の保険金詐欺の調査をしてもらう予定だ。


 王都には情報屋という仕事を生業としている者がいれば、ある程度の調査は冒険者ギルドに依頼することも可能だ。今回の件の解決のみで言えば、外注――それらを利用した方がかなり安上がりになる。但し、情報屋や冒険者を使った調査は、レスポンスが遅い。細々した依頼でも、常に依頼内容を伝えに行く手間もかかる。


 今後も保険業を続けていく上で、今回のような詐欺事件は起こり続けるであろう。ならば、自前の調査機関(と言っても、一人の奴隷を購入するだけだが)を用意したほうが、良いと判断したのだ。


 【神の瞳】で確認したミアの能力は、


(ミア……猫獣族……生命力E……耐久E……腕力E……魔力E……精神A……敏捷S……バストA……身長一四三……体重二十八……炎適正F……氷適正F……風適正C……土適正F……剣適正F……短剣適正C……弓適正D……動体視力S……行動予測A……隠密性S……索敵能力A……従順S……分析A……算出E……家事E……善人C……義理S……)


 戦闘能力こそ皆無ではあるが、調査に必要な能力が軒並みハイスペックだった。


 調査能力はミアよりも劣るが戦闘もこなせる暗殺者のような才能をもった奴隷もいた。しかし、今回は目的がはっきりしているので必要な能力を重視することにした。


「ミア。君には俺の元で、色々な調査を頼みたいと思っているが、どうかな?」


「主が望むのあれば……構わない」


 俺は答えるミアの目をじーっと覗き込む。


「いいだろう。ミアを購入しよう」


「承知。主の命に従う」


 俺が購入の意思を示すと、ミアは頭を下げた。


「畏まりました。87番の商品をご購入ですね。二十五万Gとなりますが、リク様にはお世話になっておりますので、十万Gでいかがでしょうか?」


 奴隷商人がタイミングを見て、俺にクロージングを仕掛ける。


「いいのか?」


「はい。リク様の元で活躍すれば、当館の評判が上がります。ルナ様、シャーロット様同様に、87番……いえ、ミア様のご活躍も期待しております」


 奴隷商人は人好きのする笑みを浮かべる。


「期待出来るかは、ミア次第だが……今回の好意は受け取らせて貰おう」


「畏まりました。ありがとうございます。リク様、規定事項となりますが、当店は返品を一切受け付けておりません。商品番号87番は、年齢を考慮し性行為不可が従属条件としてございます。本当によろしいですね?」


「構わない」


「畏まりました。ありがとうございます。それでは、金額のお支払を確認次第、従属契約を結びますが、よろしいでしょうか?」


 俺は、ポケットの中からミアの代金――十二万Gを取り出して奴隷商人に渡す。二万Gは従属契約の為の諸経費だ。


「十二万G……確かに。ご購入ありがとうございます。奴隷紋はどこに施しますか?」


「希望はあるか??」


「主に任せる」


 本人に確認したが、指定は無いらしい。ルナ、シャーロットと同様に手首への施術をお願いした。


「リク様。手首に奴隷紋を施します。本当によろしいですね?」


 奴隷商人は、俺へと最後の確認をする。


「問題無い。よろしく頼む」


「畏まりました。それでは、リク様。血を一滴頂戴します」


 奴隷商人はそう言うと、針で俺の手の甲を刺して、僅かな血を抜き取ると、俺の目の前でミアの手首に奴隷紋を施した。


「これにて、完了です。リク様、またのご来館をお待ちしております」


 恭しく、頭を垂れて一礼する奴隷商人に見送られ、俺は奴隷商館を後にするのであった。

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