必殺技の件

「しかしよぉ、海で雪子を怖がらせるのはどうやってやるんだ?」

「モンスターを調達するつもりだよ」

「そんな簡単に、都合の良いモンスターはいねぇだろ……」


 自身もモンスターである夜多郎が難色を示した。


「夜多郎が、ちょっと変装して雪子を怖がらせれば良いんじゃない?」

「何言ってんだモジャラ。オレにストーカーとか、痴漢まがいのことをしろと?」

「そんなんじゃなくてさ、後ろから『わぁーーーっ!!』って驚かすとか」

「おい、雪子も妖怪なんだぜ」

「う〜ん、そうなんだよなぁ……。でも、この作戦のことを分かっている妖怪じゃないと、ドロさんをヒーローに出来ないじゃん」

「オレが悪役になってもダメだ。逆にドロをやっつけかねねぇ」

「そうですね……」

「心配しなくても良いよ、みんな。それは何とかなるはず。だからこそ十時を呼んだんだ」


 風魔の言葉に、皆の視線が十時に集中した。


「へっ、俺? 俺がモンスター役に?」

 

 存在を忘れていたが十時は、先ほどのアクシデントからすでに復活していたらしい。話を振られてポカンと口をあけた。


「誰かが変装したって、雪子にバレるよ。だから十時には、あの人間化の薬を作っている所なのに悪いけど、モンスターも作ってもらいたいんだ」

「モンスターを作るだぁぁぁ?!」

「作るだぁぁぁ?!」

「それも、ドロさんの妖怪ヒトとなりにしっかり対応できるモンスターを」


 十時は目を輝かせて絶叫した。


「おおおおおおおっ!! なんかわからないけどスゴイ! 幽造妖怪ゆうぞうようかいなんて、世界初の試みなんじゃ……。もちろん、造る、作る、創るって! オレに任せて!」

「風魔はなんてことを思いつくんだ……それに対応できる十時もスゲェよ」

「本当に滅茶苦茶だけど、スゴイな……」


 モジャラと夜多郎は舌を巻いた。

 こういう時、ドロに大きなリアクションはないが、顔全体で驚いている。


「で、具体的には、どんなモンスターを……」

「ちょっと待って、まずドロさんに聞きたいことがあるんだ」

「な……何でしょうか……?」


 風魔は再びドロの方へ向き直ると、「今回は、十時の作るモンスターを使って一芝居打つから、雪子に良い印象を持ってもらうためにも、ドロさんにはたった一撃で鮮やかにモンスターを倒して欲しいんだ。だから、ドロさんが死神として持っている必殺技を教えてもらいたい。十時がその技を弱点にしたモンスターを作るから」

「ひ、必殺技、ですか……」

「お前にだってあるだろ? 例えばほら、オレの必殺技はこの……首と石頭を活かした頭突きだし、風魔は、」

「風の力で、その気になれば何でも、地の果てまで吹き飛ばすことができる」


 夜多郎の後を引き取って風魔が言うと、何故か厨房からかわうそが駆けてきて、満面の笑みで「僕は、水をいっぱい吹き出すことができるよぅ!」と言った。


「オイラは、ホコリを集めて飛ばすことかな……大したことできないけど……」

「なにそれ。ただの嫌がらせじゃないか」

「風魔、ちょっとオイラ胸が痛い……」

「まぁ、マシュラに比べたら何百倍も良いけど。マシュラは存在自体が必殺技だから……」

「雪子の奴は、あのダジャレが必殺技なんだよなぁ」

「オ、オレは、全っ然、必殺技って言えるものはないけど……」

「そんなことないよ?」

「そうだよ、十時は発明がスゴイじゃないか!」


 ……と、ひとしきりワイワイと騒いだ風魔たちだが、ハッと気づけば肝心のドロの言葉がない。


 ドロは俯き、黙ってそこに座っていた。

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