夜多郎の連れ

「お、それもそうだな!!」


 風魔の言葉に夜多郎は何度も頷くと、“しゅるしゅるしゅる~”と店の奥の方にあるテーブル席へと戻っていった。


 と、また首だけが戻ってきて、

「そういえばさあ、実は俺と一緒に飯を食ってた奴が一人居たんだよ。そいつも連れて来ていいか?」と言った。


「ああ、別に良いよ」


 夜多郎は連れを放ったらかして風魔たちと話し込んでいたらしい。




 やがて夜多郎は、歩いて風魔たちの席へやってきた。


「同じ席に居たんだろう? 存在を忘れるなんて酷くないかい?」


 風魔の言葉に夜多郎は頭をかきかき、

「確かにそうだが…。こいつは、ちょっとつまんねぇんだよ……」と言った。


 こいつ、と呼ばれたのは、黒いボロボロの布を身にまとい、錆びついた大型の鎌にしがみつくようにして立っている、何だか影のような男だった。


「……死神さんかい?」

「あ、あ、あ、はい……」死神はなぜかモジモジしながら頷いた。



「こいつ、ものすごく恥ずかしがり屋なんだよ」


夜多郎はドスンと椅子に座りながら言った。


「夜多郎の知り合いなの?」

「いや、今日初めて知り合ったんだ。俺が朝起きてすぐ、妖川あやかしがわの辺りを散歩してたらさ、こいつが身投げでもしそうにうろうろしているんで声をかけたんだ」

「身投げだって? そりゃまた、どうして」

「わからん。とりあえず一緒にここへ来てみたんだが、全くラチがあかねぇんだよ」


 夜多郎はため息をついた。


 そんな危ない雰囲気の連れを、放って置くとはかなり酷いのだが、

 そこは妖怪、例え川に身投げしたところで本当に死ぬわけではないから、(何十年も気を失っているか、しばらく地獄でご厄介になるぐらい)まあ夜多郎も気楽なのである。


「死神さん、お名前は?」

「あ、あの……。ド、ドロ、と言い、ます……」

「ドドロ?」

「あ、違……ドロ、です……」


 風魔は軽く会釈をして言った。


「お初に。僕は風魔、それからこっちの汚れている玉みたいな奴は……」

「ひどいな!」

「……モジャラ、と言います。まあ、あまり思い詰めずにしばらくお喋りでもして、くつろいでくださいよ」


 それから再び風魔たちは夜多郎と話したり、焼きそばを食べたりしていたのだが、ドロは話を振ってもすぐに口をつぐんでしまうし、自分からは決して何かを言い出そうともしない。

 始終うつむき加減だった。


 風魔はだんだんこの死神のドロのことが心配になって来た。

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