機巧探偵クロガネの事件簿3 〜剣鬼と青春の学園祭〜

五月雨皐月

プロローグ

「お願い安藤さん、力を貸して」

「あんた探偵なんだろ? 依頼ということで、一つ頼むよ」

「……どうせ廃部になるのなら、せめて有終の美を飾りたい……」


 厳しい残暑を遮断する冷房が程よく効いた教室で、私は三人の少女に詰め寄られた。

 皆、切羽詰まった感のある必死な表情で、涙目の子もいる。

「あの、皆さん落ち着いてください」

 とりあえず、顔が近かったので距離を取って貰う。

「ひとまず状況を整理しましょう」

 現在は放課後、グラウンドの方では今も運動部の掛け声が聞こえる。一方、この教室でも先程まで何人かのクラスメイト達が居残って紙の輪を繋げた装飾や段ボールの看板作りなどの作業をしていた。

「もうすぐ始まる学園祭に向けて、あなた方が企画した演劇に私も参加して欲しいと」

 頷く三人。

 これはまだ解る。

「しかもヒロイン役を演じて欲しいと」

 頷く三人。

 編入して間もない演劇経験ゼロの素人に、いきなり重要な役を持ち掛けられた。

「しかし人手が全然足りず、まともに練習が出来る環境ではない」

 頷く三人。

 仮に私を含めても、たった四人しかいない状況でどうしろと。

「そして学園祭が始まるまで、もう一ヶ月切っている」

 頷く三人。

 ……これ、詰んでませんか?

「だけど、この演劇を成功させないと、あなた方が所属する部活動が廃部になると」

 頷く三人。

 なるほど、確かにこれは困りごとだ。困っている人を助けるのは探偵の仕事ではあるけれど、これは探偵が対応すべき依頼内容なのだろうか?

「……どうしてこうなった?」

 ぽつりと、心の底から本音が漏れた。



 私の名前は安藤美優。

 世界でも有数な巨大企業、獅子堂重工で造られたガイノイドで、現在はクロガネ探偵事務所に所属する探偵助手。


 そして最近、女子高生になりました。

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