第11話 ジュリアス様を攻撃するならお解りでして?

 そして、結婚式当日――。

 招待客の半数が、王太子とアルジェナが来ると聞いて辞退した結婚式。

 けれど、私やリコネルにとっては余り気にしてない問題でもあり、寧ろ結婚式と言う名の戦いの場でもあります。

 領内で一番美しい教会で挙げる結婚式……。

 既に来客や来賓達は席に着き、今は、大人しくしているようです。


 教会の扉の前でサリラー執事と共にリコネルを待っている間、正直気が気ではありません。

 リコネルに対して暴言を吐かれた場合、私は冷静さを保っていられるか、正直解らなくなってきたからです。



「サリラー……私は冷静で居られるでしょうか」

「旦那様、私もリコネル様への暴言を聞いた場合、冷静でいられる気が致しません」

「どちらかは冷静で居ましょう」

「そうですね……」



 そんな話をしていると、ヒールの音が聴こえその方面を見つめると……純白の美しいマーメイドラインのウエディングドレスに身を包んだリコネルがメイド長と共にやってきました。


 ――なんと言う女神でしょうか……。


 あまりの美しさに私もサリラーも言葉を失いました……。


 編みこまれた美しいベールで顔を隠し、それでもベール超しに見える美しい笑顔。

 天使を通り越して女神です。

 私の妻は悪役令嬢などではなく、女神だったのです。



「……なんと美しい」

「まぁ、嬉しい言葉ですわジュリアス様」



 思わず零れた声がリコネルに聴こえていたようで、花の咲く笑顔でそう返事を返してくださいました。

 スッと差し出される手を取ると、その小さくも美しく気高さを感じました。

 自信に満ち溢れたオーラです。

 それに気付いた瞬間、先ほどまでの不安は綺麗に吹き飛び、筋肉で膨れる胸を張り、堂々と前を向きました。



「貴女と共に生きれる事を、誇りに思います」

「わたくしもですわ」



 その言葉と同時に教会の鐘が鳴り、扉が開きました。

 さぁ……結婚式の始まりです。






 2人で進むバージンロード。

 本来なら公爵様が彼女を私の元まで連れてくる予定でしたが、足の悪い公爵様はそれを辞退し、私に全てを委ねて下さいました。

 歩調を合わせ、2人で進むバージンロードに、視線は喜びのものから怪訝したもの、そして悪意を感じる視線もあります。

 悪意ある視線……まぁ、言うまでもありませんね。



「イヤだわ、リコネル様のお相手ってチャーリー様の叔父上なんでしょう? 何故あんなにもぶさいくなの!?」



 神父の前に到着した矢否や聴こえたアルジェナと思われる女性の大きな声に、会場は更なる静けさに包まれました。



「頭もハゲてるし、醜いし! 本当に血が繋がってるの?」

「ああ、悲しいことにあの化け物……っと、叔父上とは血が繋がっているんだ」

「信じられませんわね! チャーリー様はこんなにも見目麗しいのに!」



 騒ぐ二人に神父様の咳払いが木霊し、会場は静かになりました。

 そして進む結婚式、誓いの言葉をお互いに神に誓い、教会の書面にサインを入れる。

 この書面へのサインはとても重要で、離婚する時にも必要になる神への契約書。

 魔法で出来ており、不貞を働く事はお互いできないと言う契約書でもあります。

 また、元々結婚前から不貞を働いていた場合、この契約書に名を書くことが出来ません。

 アルジェナはそれに分類されることでしょう。



 そして、サインが終わると指輪を互いに付け、誓いのキスになった時。



「うぇっ 気持ち悪い」

「大丈夫かアルジェナ!」

「リコネル様、よくあんなのとキスが出来るなって……私なら耐えられません!」



 そう言って立ち上がったアルジェナに対し、神父が怒りの言葉を口にしようとしたその時でした。




「あら、貴女は結婚できるかも怪しいのに何を仰ってますの?」

「!」



 リコネルの響く言葉に会場の視線は私達に注がれました。



「ジュリアス様の良さは、わたくしだけが知っていれば良い大事な事……貴女のようなあばずれには解らないでしょうが、わたくし達が幸せそうだからといって文句をつけないで頂きたいですわね」

「文句なんて……ただ思った事を言っただけで」

「王妃になりたのでしたら、そのお喋りな口にチャックでも縫いこんでおきなさいませ。ね?ジュリアス様」

「え?」



 不意に声を掛けられリコネルのほうを向いたその時、美しい両手が両頬に伸び、生まれて初めてのキスを……唇を奪われました。

 情熱的なキスでした……。

 唇が離れる瞬間、私は意識を失うのではいかと思う程真っ赤になってしまいましたが、リコネルは唇を少し舐めた後「幸せの味ですわね」と悪戯っぽく微笑んだのです。



「信じられない……あんなのがいいなんて。それにあんな情熱的なキス……やっぱりリコネル様は他の男性と遊んでいらっしゃったのね!!」



 そう叫んだアルジェナに、リコネル様はクスクスと笑い私の両手を掴んで微笑まれました。



「本来、情熱的なキスとは、心から愛した男性とするものでしてよ? 他に男性が数人いらっしゃるアルジェナ様」

「なっ!」

「何時か契約書に名を書ける日が来ると良いですわね。契約書の意味をご存知? 神への誓いですわよ? 不貞を続けていれば書けませんわよ」



 リコネルの言葉にアルジェナは顔を真っ赤にして「嘘を言わないで!」と叫んだ。



「あら、証拠が欲しいんですの?」

「証拠なんてあるはず無いじゃない!」

「では、沢山依頼して撮ってきて貰ったアレを会場の皆様におくばりしますわ。無論、チャーリー様も真実を知りたいでしょうしね」



 そう言ってリコネルがパチンと指を鳴らすと、私達が入ってきた扉からリコネルの商会で働いているナナリー、ピカリー、ニナニーが入ってきて、会場にいる皆さんに【プレゼント】の入った封筒を一人ずつ手渡されました。

 それは、王であっても、王妃であっても同じ、一人一つずつです。



「結婚式へ参列して下さったアルジェナ様とチャーリー様へのプレゼントですわ。是非会場の皆様、開けて中を見てくださらない?」



 リコネルの言葉に怪訝な表情の参列者が封筒を開け、中を見るとそこには私が依頼して撮ってきて貰ったアルジェナの不貞証拠写真が沢山入っていました。

 会場から木霊す悲鳴、そしてアルジェナを見る厳しい視線。

 王は震え、王妃はその場で力なく椅子に落ち、チャーリー王太子は「これは……なんだ?」と事実を受け入れられない様子。



「ちょ……なんでこれが……皆見ないで!!」

「コレはどう言う事だアルジェナ!!」

「チャーリー様違うの! これは何かの間違いなの!」

「間違いで、チャーリー様のお友達であるラフェール様とキスをしたり、モンド様と抱き合ってキスをしたり、ネルファー様と舞踏会で二人きりになれる個室に篭ってドレスを汚して、更にキスマークつけて出てきますの?」

「アルジェナ!!」

「違うの! 違うのよおおお!!」




 そう叫ぶアルジェナですが、シッカリ撮られた証拠写真に最早誰もアルジェナの言葉を信用せず、更にチャーリー王太子に至っては、全員が友人だったのだから顔が真っ赤になったり真っ青になったりと忙しそうですね。



「私だけだと……嘘をついていたのか!」

「この写真は偽者です! 違うんですチャーリー様! 私、わたしっ!」

「それで、お腹の子は誰の子ですの?」

「!?」



 リコネルの最後の言葉に、アルジェナは力なく床に座り込んでしまわれました。

 複数の男性との濃厚なお付き合い、そして妊娠……誰の子かも分からない状況になっていたのは調べが付いていました。



「チャーリー様、貴方がわたくしを断罪してまで大事にしたいと、王妃にするといった女性です。最後まで大事に為さって下さいませ。わたくしは今幸せですので」

「待てリコネル!! この結婚は無しだ! お前は私と結婚するんだ!! アルジェナ! お前には呆れ果てたぞ!」

「呆れ果てたのは私達です」



 神父様の言葉に全員が神父様を見つめました。

 こうなる事は既に結婚式が始まる前に神父様には伝えてありました。故に――私達の味方です。



「次期国王であるチャーリー様は、教会の当たり前の掟を知らない様子……」

「何だと?」

「この神への契約書に名を書いた以上、互いの愛が冷めない限り離婚する事は出来ません。そして重婚もまた、国王は別として認められておりませんし」

「だからなんだ! 私が国王になれば良いだけの話だろう!?」

「既にご結婚されているリコネル様を妃にする事は不可能だと言っているのです。その上、教会の当たり前の知識すらない貴方を、次期国王とは呼べません。そしてこの事は教会本部にもご報告させて頂きます。アルジェナ様の事、チャーリー王太子が先ほど口に為さった、結婚式を挙げた直後のリコネル様への暴言をね」

「なっ!!」

「リコネル様は愛を持ってジュリアス様の妻となりました。誓約書はそれを示しているのです。これ以上結婚式を穢すというのであれば、アルジェナ様と一緒にご退場を」



 その言葉に教会に配備されている騎士がアルジェナとチャーリー王太子に向かい、暴れる2人を引き攣れ教会を出て行きました。

 そして――。



「国王陛下、及び王妃様に申し上げます」

「……なんだ、これ以上に何かあるのか……?」

「ええ、この結婚式での一連の内容及び証拠写真は、教会本部に送らせて頂きます。王にも責任があるでしょう」

「………」

「王太子様の事、本当に残念だと思います」



 そう告げると神父様は私達に向き合い、鐘が鳴ると同時に外に出て結婚式は終了となりました。

 リコネルの留飲を下げるには充分だったでしょうか?

 もっと証拠を集めれる時間があれば、もっと集まったことでしょうが……隣で幸せそうに微笑むリコネルを見ると、私はそんな悩みさえも吹き飛び、取り合えずリコネルの留飲が下がったのだと言うことが解ってホッとしました。



「スッキリしましたか?」

「ええ、スッキリしましたわ」

「それは良かったです」

「ええ、後は初夜を待つのみですわ」



 その言葉に、禿げた頭から湯気が立ち上がった結婚式の事。

 そしてその夜――。



「逃げないで下さいませジュリアス様!」

「初夜とは解っていても恥ずかしいのです!!」



 寝室で追いかけっこをする羽目に成るとは、思いもよりませんでした。




 ===========

 一気にけし掛けてみましたw

 私ならネチネチやらないかも知れないなと思ったのでスッキリとw


 今回は予約投稿をさせて頂いています。

 育児疲れもあり、体がバキバキなので整体に行くので……(;´∀`)


 読者の皆様、何時も応援ありがとうございます。

 ★での応援やハート、更にブックマーク等など

 本当にあり難いなーと思いながら執筆しております。


 これからも、リコネルとジュリアス様の今後を温かく見守っていただけたら

 幸いです。


 そして、ちょこっとでも作者の事も応援宜しくお願いします/)`;ω;´)

(帰宅したら執筆します)

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