好奇心旺盛で誰かの役に立ちたい後輩が、俺の高校生活をぶち壊しに来てる。

1²(一之二乗)

出会いの春

プロローグ

 非常に複雑である。

 心がぐちゃぐちゃになりそうである。


「な、並んでくださーい! そこ、押さないで! 先輩は逃げませんからぁ!」


 昨日までここには、誰一人として来なかったのに。

 先輩が卒業してからは、空き倉庫から階段下のスペースまで追いやられたというのに。


「ちょ! 先輩、どうしましょぉ」


 美少女こいつを使って宣伝した途端、馬鹿みたいに生徒が押し寄せてきた。


「ちょ、ちょっと待つんだ」


 嬉しい反面、今までの苦労が馬鹿らしく思えてきて泣きそうである。

 

「……男って単純だな」


 並ぶ生徒全員が男子生徒。

 下心が見え見えである。

 まぁ、先輩の意思が継げれば何でもいいが。

 早速するべきことを始める。

 

「すいません、お待たせしました。ご相談は何ですか?」

「あ? お前じゃなくてさ、そこの一年と話がしたいんだよね」

「お引き取りください」

「は?」

「小町」

「はい!」


 小町は男子生徒(恐らく三年生)をくるりと器用に回し、狭い階段のスペースから押し出した。


「……次の方」

「ねぇねぇ。連絡先交換」

「お引き取りください」

「あぁ? お前には言ってねぇよ」

「小町」

「はい!」


 小町は男子生徒(恐らく二年生)をくるりと器用に回し、狭い階段のスペースから押し出した。


「ハァ……どうぞ」

「付き合って下さい!」

「小町」

「はい!」


 小町は……。

  ・

  ・

  ・

 さて、全員性欲に忠実な獣であった。


「先輩、良いんですか? 全員追い返しちゃって」


 小町は自分の状況が分かっていないのか、キョトンとした顔で首を傾げている。


「良いんだよ。全員相談なんてなかったんだから」

「んん? でも、入部したいって言っていた人もいたような……」


 確かに、入部したいと言っていた男子生徒もいた。しかし、全員小町の胸を見ながら鼻の下を伸ばしていた輩だ。これでは、彼女の貞操が危ないだろう。


『小町を頼むよ』


 俺は、先輩から小町を預けられたんだ。

 彼女の手を引っ張って、常識を身につけさせる。

 それが、先輩から与えられた一つの使命。


「先輩?」

「あ、あぁ……でも、ほら? まだ部室も無いし、部員集めはまだ良いかなと思ってね」


 普通なら疑うレベルの支離滅裂な言い訳だが、小町なら。


「なるほど! 確かに!」


 すんなりと受け入れる。

 彼女は素直すぎるのだ。

 まるで小学生のように。

 そして頭が冷えてきた俺には、そんな彼女を利用した罪悪感がようやっと襲ってきた。

 先輩の遺した部活のために、先輩の大切な人を利用するのは、今になってみると本末転倒だった。

 俺の悪い所であると言われたのに。


「はぁぁぁぁ……。小町、すまん」

「何がですか?」


 無垢な笑顔がより一層、俺の心を抉るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る