温泉2

 温泉か、あれ待てよ。美海は俺に見せたいものはここだといった。どういうことだ?


「なあ、美海。お前俺に見せたいものってここなんだよな。だったら何を見せたいんだ?」


「残念でした。私は、私たちが見たいものといったの。何も恵が見たいものとは限らないでしょ。つまるところ、私が見たいのはあなたなのだから」


「イミガワカラナイ」


「大丈夫、そのうちわかるようになるから」


「そんなのわかっても理解したくない」


 あー、ダメだ。すごく嫌な予感がする。でもってそれは限りなく正しい気がしてならない。最高の日から最悪の日に急転直下だ。まったくどうしてこうなったんだ。そうだ、俺が女になってしまったからだ。これが本位だったらよかったのだろうが、そうではないからタチが悪い。なんてこった。


「しかしなあ、俺はホラ、つい最近まで男だったわけだから女風呂に入るのは抵抗があるし、犯罪者にしか自分を感じることができないと思うんだけど……」


 これは本心だ。少しでも考えればわかることではあるが、男が女風呂に入ったら犯罪だ。これはあたりまえだ。そして俺は少し前まで男だった。何も疑わないで男をやっていたわけで、それがあらびっくり女になっちゃいました。だから女風呂に入ってしかるべき存在です。確かに道理は普通のことだ。それでも心はそこまで追いついていないわけで……


「さあ、難しいこと考えているかもしれないけれど行くよ。考えるよりも、実際に体験したほうが早いよ」


 美海が俺の手を引っ張る。


「さあ、花崎君、覚悟の時だよ」


「荒川もかよ……」


「抵抗しないでさっさと行こうぜ。ここは温泉だけじゃなく、設備もいいから楽しいんだ」


 三浦はどうも違う方向で嬉しそうだけど、それが普通の反応だろう。少なくとも美海のような顔をするほうが特殊というものだろう。


「あ、ここいくらで入れる?」


「えーと……」


 美海がスマホを出して調べてくれる。


「それでわざわざ調べなくても中に入れば料金表くらいあるだろ」


 三浦が少し呆れて俺たちを先導する。結局、料金表は確かにあってそれによると1000円だった。少し高い気がするけど、はたしてそれほどの価値があるのだろうか。違う意味合いで鼓動は高まっていく。

 料金を払い脱衣所にむかう。つい男風呂のほうに行きそうになってしまったが、三人が無理やりひっぱるものだから入ることはなく女風呂の暖簾をくぐった。


「さあ、恵も脱ぐのよ。ゆっくりでいいけれど、ここで恥じらいを持つ必要は無いの。だってここはある種の聖域なのだから」


 どうも美海の鼻息が荒い。恐怖さえ感じる。だが俺には脱がないという選択肢を選ぶことできない。それは美海のせいでもあり、その周りにいる荒川と三浦のせいでもある。美海は俺に近づいているのでまだ脱いではいないが、二人はもう下着になっている。三浦の髪は短いので特に何もしていないが、荒川の髪はそれなりに長いので当初の髪をほどいて、ポニーテールにしている途中だった。


「君も髪を結ぼうか?」


 荒川が聞いてきた。


「あ、ああ。少し脱いでから頼む」


 今は何も結んでいない。面倒というか、髪型をいじることにどこか違和感を覚えたのだ。だから何もしなかった。家を出るときには姉ちゃんや母さんにもそれを指摘されたが、無視してこの場にいる。ともあれ、風呂に入るときに髪を結ばないなんてことはしない。ある程度の長さになると結んだほうがいいのは自明だ。


「さ、ひーちゃんを待たせるのも悪いし早く脱ごうか。温泉、気持ちいよ~」


 美海の声が耳元で聞こえる。美海の息が耳にかかるくらいには近い。というか顔がすごく近いし、美海からいい匂いがする。なんの香りだろう。


「分かった……脱ぐから、一人で脱ぐから離れてくれよ。さすがにそんなに近くにいられるとできることもできないよ」


 少し美海に離れてもらい、服を丁寧に脱いでいく。ある程度のところで三浦に頼んで髪を結んでもらい下着を肌から離さんと手をかけた。羞恥心はまだある。でも、周りを見渡せば裸だ。男だったころに浴場に入ってこのような羞恥心はなかった。でもここではある。どうしてか。でもそれもなくさないといけないことなのは間違いないことだ。早く脱がねば。


「もう遅いよ花崎君、早くしないと三浦さんがしびれを切らして強引に脱がされるよ。美海はそれでもいいみたいだけどね」


 三浦のほうを見てみるとイライラしているように見える。そうだ、こいつは美海と違って純粋に温泉を楽しみにしているんだ。そんな中またされたらそりゃ不機嫌になるか。もうさっさと脱ごう。

 自分の体が見える。男だったころには絶対になかった柔らかな胸の膨らみがあらわになって、下も隠したい場所がどのようなものにも覆われていない状態になった。つまり全裸になった。


「準備できたぞ。もういけるよ。遅くなって悪かったな三浦」


「いやいいよ。抵抗があるのは当然だしそんな中でせかしたあたしのほうが無神経だった」


「いや、三浦がせかしてくれたおかげで悩みすぎないでこの格好になることができたんだから」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

少し遅くなってしまいましたがどうにかかくことができました。


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