女子と昼


 体育の65分はあっという間だ。体を動かしていると時間が過ぎるのは早い。片付けをする必要は無い。この次の授業でも器械体操をやるらしくこのままでもいいとのことだ。


「蓮、どうだ上達したか~?」


「多分上達したと思うけどバク転はできるようになりたいからもう少し頑張らないと」


「バク転か、あれ意外と簡単だけど練習環境がないと危なくて練習できないもんな」


「そうそう、だからこの授業中にできるようになりたいんだよ。あれができると特技として使える気がするからな」


「それはある」


 蓮と会話を交わしながら廊下を歩いていく。


「じゃ。俺はあっちで着替えるから」


「そうだったな」


 俺は鍵を開けて中に入った。中には誰もいないのは当然のことだろう。ジャージを脱ぐと、タオルで汗を拭いて制服を着た。着替えそのものは時間のかかる行為ではない。俺はジャージを入れた袋を持って部屋を出て鍵を閉め教室に足を向けた。


 何のためらいもなく教室のドアを開けるとそこでは男子たちが着替えていた。男子高校生らしく、どの女子がかわいいだとか、下ネタとかのトークを繰り広げていた。


「な、なんで女子がここに!!」


 ある男子がさけんだ。おそらく制服だけを見て焦ったのだろう。


「おれだよ!」


「あ、ああなんだ花崎か。今の状態だと焦るな」


「別にみられたって減るものじゃないんだからいいだろ」


「そういう話じゃないんだってば」


 どうやらだめらしい。こんなところでも変わったことを実感させられるなんて。さっき運動能力の差をそこまで感じなかっただけに深く突き刺さる。今日はもうほとんど着替え終わっているからあえて出ていくことはしないが次回は外で待とうかな。

 なんか寂しいな色々と。


 ……トイレ行こ。

 教室を出ると女子が待っていた。


「もしかしてあなたその中にはいっていたの?」


 美海が驚愕した様子で俺に問い詰めてきた。


「そうだけど、あいつらにやめてくれと言われてしまったよ」


「そりゃそうでしょうね。少しは自分の置かれている状況を把握してよ……」


「理解はしているんだけど、今まで当たり前にやってきたことは無意識にやってしまうんだよ」


「習慣になっていて私にもやめられないことは沢山あるから言い返すことができない」


 美海はこれで収まってくれるだろうか。いやそれよりもトイレに行きたい。俺と美海が話している間に男子が着替え終わったようで女子は教室に入っていた。

 早くいかないと授業に遅れてしまう。どうにも女子のトイレは時間がかかる。これは何とかならないものなのだろうか。


 廊下を小走りですすんだ。幸いトイレは並んでいなかったから、すぐに用を足すことができて授業に遅れることはなかった。


 授業は集中して受けるのが当たり前なのだろうが、それが中々出来ないのが体育の授業の後だ。睡魔との激戦を繰り広げ、最終的に負けた。落ちる寸前教室を不自然にならない程度に見渡すと頭が下がっている人がちらほらといた。


 二限目、三限目は特に記憶もない。それは睡眠に充てられていたということもあるが、印象のない授業だったことが要因だろう。昼休み、今日も蓮と弁当を食べようとしていたら美海に誘われた。断る理由もないのでいいよと言い、美海の席の近くに座った。


「いやー、花崎が女子の制服を着ているってなんだか不思議だな」


「一番そう思っているのは間違いなく俺だよ。それにこれを着ているのはサイズが合わないからだ」


 この明るく話しかけているのは三浦だ。とにかく明るい女子で美海と一緒にいることも多い。テニス部に入っていて見た目通りだ。


「と言いつつも実は気にっているんじゃない?」


「絶対すぐに男子の制服に戻してやる」


 名前のこととかがあってまだ注文はしていない。今日家に帰ったら母さんに相談でもしようか。でもそれを言うのは金額的に気が引ける。


「いや、そのままのほうがいいとあたしは思うけどな」


「そうそう、今の花崎君に男子の制服は似合わないよ。だからこのままその制服を着たほうが絶対にいいと思うよ」


「そーら、恵y……恵、この二人だってこんなことを言っているぞお」


 俺のことを下の名前で呼んでくれている美海は名前に対してはまだ慣れていないようだ。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかない。


「うるさい。どっちの制服を着るかは俺の自由だろう」


「それもそうか、それで週末に君を買い物に連れていく件だけど、この二人も一緒に行ってもらうからね。この二人はセンスがあるからきっとかわいくなるよ」


 正直もう投げやりだ。どうとでもなりやがれ。


「話は変わるけどさ、前に見たときから気になっていたんだけど花崎君のお弁当すごくおいしそうだよね。自分で作っているの?」


「大体母さんが作ってくれる。たまに俺も作ることもあるけど」


「そうだったんだ。でも自分で作れるってことは料理とか得意なの?」


「……大体のものは作れると思う」


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最近体の調子が悪くてあまり書けませんでしたが今日はどうにかなったようです。これからもよろしくお願いします。

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