第16話 私の夢のために

ヴィーヴルの翼は速かった。

下に町並みを見ながら、道路建築物全部無視して。

一直線に目的地・藤堂家に到着します。


5分、なかったと思うんです。

速い!


藤堂家は、大きな家でした。

庭は広いですし、建材も豪華で、お金をかけているのが見て分かります。

富裕層の家。その一言です。


ですが。


住んでる人間の邪悪さを知っていると、見え方が変わりますね。

少しも優雅で、素敵だとは思いませんでした。


どんなにお金を掛けていても、一流の職人に作らせたものだったとしても。

ここに住んでいる住人は、悪魔。


腐敗した、醜悪な雰囲気を感じました。


……家に、明かりはついていないように見えました。

本当に、誰か居るのでしょうか?


そのときです。


ふしゅるるるる、ふしゅるるるる……


もはや聞き慣れた鳴き声。

わらわらと。


庭のあちこちの陰から、従者の大群が現れました。

数えきれない程の数です。


そしてワーディングが張られます。


……やはりここでビンゴのようですね。


ですが、まずいです。

この数を処理するのは時間が要りますし、あと、消耗も……!


時間を争っている以上、この状況は不味過ぎます。


……誰かを先に行かせるべきでしょうか?


シャドウストーカー本体を倒せば、その従者であるこいつらも消えるわけですし。

そう私が思考したとき。

泉姉弟の二人が動きました。


「……ここは、あれだね。姉さん」


「……そうね。あれね」


ヴィーヴルが羽ばたき、宙に舞い上がり。

右腕を、突き出しました。


ドウッッ!


……その瞬間彼女の右腕が爆発的に伸びます。エグザイルシンドロームの伸縮腕です。彼女の三つ目のシンドローム。

エグザイルシンドロームは、自分の体の性質、形状を操るシンドローム。

キュマイラとはまた違う、肉体系シンドロームなのです。


そのエフェクトは、骨格を無視した変形を行ったり、このように、体の部位を急速に伸ばしたり、爪や皮膚や骨を変化させて、武器を作成したり出来るのです。


伸びた腕は高速で伸び続け、枝分かれしていきます。

まるで木の成長の早回しのようです。


その伸びて枝分かれした腕は、それぞれ従者を巻き込んで、一気に数を減らしていきます。


複数の従者を一気に撃破し、伸びた腕は巻き戻っていきます。

彼女が撃破した従者たちは、玄関へと伸びる一本の道を阻む者たちでした。


……これは、そういうことですね。


「さぁ、先に行きなさい!後で私たちも行くから!」


「そういうことだ。お約束だよねこういう状況!!」


彼女らは羽ばたきながら言い放ちます。


……分かりました。

言い争ってる時間は無いです。


私は即決しました。

ここを、彼女らに任せることを。


「分かりました!」


「先に行ってます!」


感謝です!

色々ムカつくこともあったけど、今はあなたたちに感謝します!。




玄関ドアに、インパクトの瞬間重力を操作し、重さを数十倍に上昇させた魔眼槍の突撃を叩き込みました。

一撃でドアが吹き飛んで、私たちはそのままなだれ込みます。


ワーディングの主の気配に向かって走りながら、私は彼に語り掛けます。


「絶対、お義姉さんを助けようね。北條君」


嘘偽りの無い、本心です。

だって、好きな人の家族だし、これから私の家族にしたい人なんですから。


「水無月……ありがとう」


彼に語ったことのない、私の過去。

気が付いたら、私はそれを語っていました。


「私、赤ちゃんのときからUGNで、家族居ないから、正直、北條君が羨ましいんだ」


自分が天涯孤独だってこと。家族というものを持ったことがないこと。だから家族に憧れていること……


「家族が居るっていいよね……寂しくないもんね……」


私の思い込みかもしれないけど、私はずっと思ってたんです。

一人の部屋に帰るより、誰かと一緒の部屋に帰りたいって。

生活で不自由したことは無かったけど……ずっと、満たされないものがありました。


一人は……やっぱり辛いです。


「北條君とお義姉さんの関係、憧れてるんだよ。ホントだよ?」


北條君の家は、色々辛いです。

でも、そんな状況でも、彼をお義姉さんが支え、逆に支えられ、ずっとやってきてました。


それを見て、私もそこに混ざりたいって思ったんです。


「……今度、姉さんに水無月を紹介するよ。……友達として」


「ホント?……嬉しい……!!じゃあ、絶対助けようね!」


本当は、彼女として紹介して欲しいけど、今はそれで十分です。

絶対に助けます!

そして義妹になるんです!




走りに走って、辿り着きました。


シャドウストーカーが潜んでいると思われる部屋。

その前に。


私と北條君は向かい合い、頷き合って。


ドアを吹き飛ばしました。


バンッ!


そこには。


高級そうな椅子に座っている、上品に髪を結い上げた、身なりのいい、40代くらいのオバサンと。

床に転がされている、意識のない制服姿のお義姉さん。

見るからに上等のベッドに寝かされている、あの男が居ました。


部屋の広さはかなりのもので。

20畳は超えてます。


部屋には大窓があり、そこから月明かりが差し込んでいます。

明かりは、オバサンが座っている椅子の前に据え付けられた、テーブルの上で燃えているランプの灯のみです。

電灯はついていませんでした。


「あら、もう来たのね。卑しいゴキブリさんたち」


私たちを確認し。

その見るからに金持ちのオバサン……藤堂一美は、全く温かみの無い目で、私たちを見つめながら。

そう、憎しみの籠った声で言ったのでした。

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