乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのでライバル達と恋仲になってみせる。

@chauchau

第1話 すべてを思い出しました


 高熱により意識が失われていくなかで、

 わたくしは、すべてを思い出していた……。


 そう。

 そうでした……。


 この、世界は。


 そして、

 わたくしは……。



 ※※※



 傍で誰かが泣く声がする。

 ……、いや、誰がではない。


「ああ……! ルイーザ……ッ! 私のルイーザァ……!!」


 音がする。

 匂いがする。


 失っていた意識が戻り始めると同時に五感が機能を取り戻していく。枕元で涙をこぼして泣き叫ぶお母様の声がする。


「ぉ……かぁ、さ……ま」


「!!」


 どうか、泣き止んでください。

 ずっとわたくしに愛を与え続けてくださったお母様。甘やかしすぎだと皆が貴女を悪く言おうとも、変わらぬ愛をお与えくださった。


「わ、……く、し……」


「ルイーザ!! ああ……、奇跡よ……ッ! 奇跡が……、誰か!! 誰か早く来てッ! ルイーザが! ルイーザが目を覚ましたの!!」


 お母様の声に周囲が騒がしくなっていく。

 だけど、その様子を確認する事も出来ずに、わたくしの意識は再び深く沈み込んでいくのでありました。



 ※※※



「お母様……? わたくしは、もう」


「参りません! まだベッドで安静にしていなければッ!」


 一週間後。

 すっかり元気を取り戻したというのに心配性なお母様の命令でわたくしはまだ自室のベッドから起き上がることすら許されておりませんでした。


 幾度となくお母様がわたくしの無事を確認しに来てくださることもあり、こっそりと抜け出す事も出来ません。

 だからこそ、与えられた莫大な一人の時間のなかで、わたくしは自分に起こった現象を冷静に判断することが出来たのだから、ここはお母様に感謝しておくべきなのでしょう。


 わたくしの名前は、ルイーザ・バティスタ。

 世界最大の領土を持つルークス王国に於いて、王族に次ぐ地位と権力を持つバティスタ公爵の一人娘です。……、という設定である。


 そう。設定。


 この世界は、前世でわたくしがクリアした乙女ゲーム『マジカル学園7 ~光の聖女と闇の魔女~』の世界なのです。

 もっとも、そのことを証明する手立てはわたくしには御座いません。流行り病に侵されている間に頭がおかしくなってしまったと言われて仕方のないことでしょう。ですので、このことを誰かに言うつもりはないのです。大人しくルイーザとしての人生を謳歌すれば良いだけというもの。


 ですが、問題はわたくし自身にありました。


 わたくしの名前は、ルイーザ・バティスタ。

 ゲームに於いて、ヒロインのライバルという立ち位置で登場する令嬢の一人でありました。

 許嫁の心が平均出身の主人公へ傾いていくことが許せなかった彼女は、主人公にひどい嫌がらせを行っていく。つまりは、悪役令嬢なのです。


 で、あるとすればルイーザ・バティスタの辿る運命は単純なものであり、たとえ主人公がハッピーエンドを迎えようとも、バッドエンドに迎えようとも、ルイーザが迎えるのは死だけなのです。


 前世のわたくしは、齢十七歳という若さで事故で亡くなりました。これからまだまだ楽しいことが待っているであろう年齢でその命を落としたのです。

 今のわたくしは十歳。そして、ゲーム内で主人公を虐め続けていたルイーザの悪行が暴かれて殺される粛清イベントは彼女が十七歳。学園の卒業式の日に行われます。


 このまま行けば、わたくしの人生は七年で幕を閉じてしまいます。前世と同じく、十七歳という若さで。


 そんなことは……、

 そんなことは絶対にお断りです。


 何を以てしてわたくしがルイーザ・バティスタとして生を受けたのか。そして、どうして前世の記憶を取り戻してしまったのか。それはわたくしには分かりません。

 ですが、その分からない何かに支配されて殺されるのを黙ってみているわけには参りません!


 この世界がゲームであるとわたくしは知っている。

 そう、知っている。


 知識というチートを活用し、わたくしは生き抜いてみせる。


 どのルートを通ろうとも、ルイーザは必ずや死を迎えてしまう。この運命を、わたくしが必ず曲げてみせましょう!


 そして。


 そして……。もう一つ……。


 昨今流行りの小説で行われる悪役令嬢への異世界転生。

 粛清エンドを回避するために、悪役令嬢が前世の記憶を頼りに行動を変え、周囲の価値観を変え、そして運命を変える。

 もしもいまのわたくしがその運命に巻き込まれているというのなら。


 この運命をも。

 わたくしは変えてみせる。


 決してわたくしは攻略対象と恋仲にはならない。

 たとえそれが死を逃れる確実な方法だったとしても、先人たちが生み出した確固たる手段だったとしてもわたくしがその手を取ることは出来ないのです。


 だって、


 わたくしの前世は、


 いえ、


 俺の前世は!


 ……!!


 何が悲しくて!

 男と恋愛なんてしないといけないんだよォオ!!

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