「始まり、そして旅立ち」1 奪還8


 ジョニーは相手のたたずまいから力量を図る。――並外れた力量の持ち主、纏っている闘気のオーラが常人の日ではない。


「ニッシュ、ビル、下がっていなさい!ここは私が闘う!」


 相手である黒衣の男は、両の先端が巨大な鉄球と大きな鎌状になった物を持っている。それが金属の鎖で繋がっている。――巨大な鎖鎌だ。その巨大な鎖鎌を手にして、黒衣の男が言った。


「私の真の武術をその目にしかと焼き付けておくのだな」


 傍で黒衣の男を見ていたニッシュは黒衣の男の持つ鎖鎌に驚嘆する。


「黒衣の男――!!鎖鎌が本当の武器だったのか。ジョニーさん、気を付けてください!この黒衣の男は体術も凄いです!」


「分かった、ニッシュ君!」


 ジョニーはミシェルが研究用ベッドで眠っている研究室から離れて通路に出る。倒れて眠っているミシェルに危険が及ばないようにする。黒衣の男がジリッジリッと間合いを詰める。ジョニーは攻撃に出る瞬間を窺っていた。黒衣の男は自身の武器の方がリーチが長いため、相手の隙を窺って先手の更に先を狙っていた。


 ジョニーは闘いの空気を感じ、間合いを窺うと、ついに攻撃に出る。ダッと駆け出して、レイピアでの攻撃をするかという勢い。黒衣の男は今だ、とばかりに鎖鎌の鉄球をジョニーに向けて放つ。


 ゴオォォオォウゥッ!


 黒衣の男の鉄球が空を切り裂き、ジョニー目掛けて襲ってくる。ジョニーは前に駆け出した足を踏ん張り後ろに跳び、鉄球が当たるギリギリのところでかわす。グワァアァァァァンッ!と床に激突した鉄球が音を立てる。


「ほう、避けたか。――レイピア術使いの、マスタークラスだな」


 ジョニーは後ろに跳んですぐに、また前に足を運び駆け出す。「ウォオオオォッ!」と雄叫びを上げ、黒衣の男に突き進む。黒衣の男が第一の攻撃後、鉄球での攻撃を行う前に自身の突きを浴びせようというジョニーの算段。――一瞬の判断は、幾多の闘いを経験しているジョニーは優れたものがある。


 ジョニーは自身の間合いに入るため、渾身を込めた速さで黒衣の男と間合いを詰める。


 黒衣の男は鉄球での攻撃が間に合わないと判断すると、鎖鎌の鎌を使い投げ飛ばしてきた。切れ味抜群の鋭利な刃がジョニーを襲う。


 ジョニーは相手が放った鎌を金属製のレイピアを振り下ろし弾き飛ばす。鎖鎌はキィイィィンッと音を立てて弾かれた。


 ジョニーはそのまま駆け出していき黒衣の男に向けて渾身の突きを放つ。だが黒衣の男は身体を左に捻りそのまま左足で後ろ回し蹴りをジョニーに浴びせる。


 ジョニーはそれを金属製のレイピアで受け流す。だがさらに黒衣の男は、回し蹴りの反動で鎖鎌の鉄球を引きジョニーに攻撃してきた。


 ジョニーは堪らず左に跳びさらに後ろに跳んで黒衣の男と距離を取る。


「リーチの長い鎖鎌の攻撃……さらに間合いを詰めても体術が飛んでくるか」


 相手の黒衣の男の攻撃に舌を巻くジョニー。


「私にほぼ互角で闘えるとは……やはりレイピア術のマスタークラスだな」


「ふふふ、確かに私はレイピア術のマスタークラスだが……歴史あるロングハート家の当主、自他共に認める稀代のレイピア術使いとして、君に勝つ!」


「ほう」


 ジョニーと黒衣の男、二つの闘志が相まみえる。


「あの黒衣の男、やっぱり只者じゃない」


「只者じゃないって言えば父ちゃんだって凄いレイピア術使いだ。勝ってくれる!」


 ニッシュとビルが見守る中、ジョニーと黒衣の男は互いを睨み合い、再び間合いを取る。


(鎖鎌と体術の合わせ技に対抗するなら、私のレイピアの間合いで勝つ!)


 ジョニーは黒衣の男に向けて構えると、闘いの一瞬を捉えるため最大限集中する。黒衣の男はジョニーの一瞬の隙を捉えるために、その眼がジョニーをギラギラと睨んでいる。


 ジョニーが駆け出し、「ウォオオオオォッ!」と雄叫びを上げ、再び闘いの狼煙が上げられる。ジョニーの駆け出しに黒衣の男はまたも鎖鎌の鉄球で攻撃する。


 その時、ジョニーは黒衣の男が左腕を中心に鎖鎌の鉄球を放っている時、左肩を庇っているように感じられた。ジョニーは(これは……今はこの隙を付かない訳にはいかない!)と相手の弱みを突く行動を起こそうとする。


 ジョニーは自身をを襲う鎖鎌の鉄球を、今度は左に跳びそしてさらに前へと駆け出そうとする。


「ムゥンッ!」


 黒衣の男はそのジョニーに左腕中心に力を込め鉄球を右に引き、背中からジョニーを襲おうとする。


 ジョニーは駆け出していくよりも鎖鎌の鉄球の方が速いと察知すると、相手の攻撃を最小限に抑えるためジョニー自身が右に回転し、さらに金属製のレイピアで鎖鎌の鉄球に突きの様な一撃を与える。グガワァアァァンッ!と金属同士がぶつかり合う激しい轟音が木霊する。しかし鎖鎌の鉄球の方が威力が高く、一瞬だがジョニーの体にぶつかる。


 「クッ!」と苦痛に悶えそうになるジョニーだが「ウォオォオォッ!」と叫んで自分を鼓舞し、前に歩みを進め駆け出してゆく。


 黒衣の男は(まだやるか!)と心の中で呟き鎖鎌の鎌でジョニーの胴を狙う。


 ジョニーはレイピアで鎖鎌の鎌を叩き落そうとするが、黒衣の男がまたも武器に変化を加え、ジョニーの右脇腹付近に鎌の一撃を食らわせようとする。


 叩き落そうとした鎌を、今度はレイピアを右に振り上げ弾くジョニー。キィイィィンッ!と金属製のレイピアと鎖鎌の鎌がぶつかり合う。


 ジョニーは自身の間合いに入ると、黒衣の男に向かって突きを放つ。今度は左肩の辺りを狙う。


 黒衣の男は「ムゥンッ」と唸り、しかし左肩付近は狙わせないようにしながら、ジョニーの突きを左に回転し左後ろ回し蹴りを放つ。


(やはり、左肩付近を庇っているな!)


 そう確信したジョニーは左後ろ回し蹴りに対して自身が左に回転し、金属製のレイピアで相手の蹴りを受け流しながら、前を向いたとき、黒衣の男の左肩付近に遂に突きを入れる!


 「クッ!」しかし、黒衣の男は左肩付近が狙われていると悟ると、後ろにステップを踏んだ。


ジョニーはそれに感づき、突きに込めた力にさらに両腕と全身の力を込め金属製のレイピアを槍投げよろしく黒衣の男の左肩付近に投げ飛ばした!


 ガゴグッ!


「グゥッ!」


 黒衣の男は苦悶の表情を浮かべながらグゥッと唸る。ジョニーはここぞとばかりに投げ飛ばしたレイピアが落ちる前にレイピアを掴み、黒衣の男の腹に渾身の突きを二度入れる。


 ドフッ!ドフゥッ!


「グアァアァァッ!」


 黒衣の男は苦しみのあまり鎖鎌を離し自分の腹を抑えた。そして左肩付近がガクガクと痙攣している。


「どうだ!もう闘えないだろう」


「クゥッ!」


 ニッシュとビルもこの闘いを見ていた。


「黒衣の男……やっぱり俺との闘いで左肩を負傷していたんだ……」


「父ちゃんにかかれば、どんな敵もお茶の子さいさいだぜ!」


 黒衣の男は今度は痙攣する左肩を右手で抑えながら、ジョニーに問うてきた。


「お前……名は?」


「――、……ジョニー・ロングハート――」


 ジョニーは突然名前を聞かれたが、落ち着いて答える。


「そうか、ジョニー・ロングハート。お前の名は覚えておこう。さすがレイピア術のマスタークラスだ。ロングハートか、あのミシェルという娘の父だな?――だが、しかし!」


 黒衣の男はそこまで言って、ニッシュにぎらついた視線を向け言い放つ。


「ニッシュ・スタインシェン!お前にやられた左肩の傷は忘れん!この左肩の傷さえなければ私はまだ闘えた!貴様ごときにやられたのは忘れん!この借り、必ず返させてもらうぞ!」


 黒衣の男はそう言うと、鎖鎌を手にして、黒球研究室前から去る。――研究所内は、先程よりもだいぶ静まり返っていた。


「――これで、ミシェルを助けられる――」


 ジョニーは闘いの疲れがどっと出るが、ミシェルを助けられることに安堵する。


「ミシェル、今助ける!」


「姉ちゃん待ってろ!」


 三人は黒球研究室に入る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る