「始まり、そして旅立ち」1 ミシェル3

私の家は、武術館(レイピア術を行なう建物は、そう呼ばれている)から歩いて、五分と少しの所にある。この辺りでは至極普通な(でも暮らしやすくはある)住宅である。


「ただいま!」「ただいまぁー」


私とビルはそろって帰宅のあいさつをした。父と母がそれに、


「おかえりなさい」「おかえりなさい、ミシェル、ビル。疲れたんじゃない?」


と返した。それに私は、


「それなりにね」


と答えたが、ビルは、


「ぜ~んぜん!まだまだ体力は余ってるよ!母さん、ご飯まだ?」


と割り込んできた。この子はデリカシーっていう言葉を知らないらしい、デリカシーを。母はそんなことをあまり気にしない様子で言った。


「はいはい。日が沈む頃には用意しますから、待ってなさいね」


「はっはっ、ビルも頼もしいことだ!ミシェルが負けるのも時間の問題かな?」


――父もビルの成長(私にとっては、さらに生意気になってきただけな気もするけれど)が嬉しいらしく、私の実力も認めているんだけれど、やっぱり男の子だからかな?ビルに期待している。


私の父――ジョニー・ロングハートは、大学で農業工学を教えるのが仕事だが、私にレイピア術を教えてくれた張本人である。


私の家ではレイピア術の武術館を受け継いできて、私の家の当主たちは代々、門下生達にレイピア術を教えてきた。私もビルも家系に倣い、レイピア術を始めた。そして私の父は、私たちの家系の中でもレイピア術がずば抜けて上手く、他流試合も含めたレイピア術の大会で何度も優勝してきた。


私の母――ケニー・ロングハートは、そんな父に、大学の学生時代に知り合ったそうだ。母の実家では代々農業の地主をしていて、母は実家の関係で大学で農業学を学び、そのときに父と知り合ったそうだ。


父は学業の傍らレイピア術の鍛錬にも力を入れていて、そんな父の姿に母は惹かれた。――という話を、私はあるとき母から聞いた。


そんな両親の娘の私も、父に教わったレイピア術で何度も優勝をする程の腕前になっていた。レイピア術の大会では、男女が一対一で対決することも珍しくはない上で、である。 


私は六歳からレイピア術を始めたのだけれど、本格的に始めたのは十歳から。ビルも六歳から始めて、私と同じ十歳になってから本格的に始めた。


私たちはたちまち夢中になり、学校から帰ると、私もビルも子供用のレイピアを振り回していた。


「じゃあ私、自分の部屋に行ってるわね」


「夕飯までには下りてくるのよー」




私は二階の自分の部屋に向かうと、夏休みの日程表を確認した。


(――学校が始まるまで、あと十日後か……)


――私は、ニッシュに告白されたときについて思いに耽った―――

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