第5話『幼馴染の美味しい手作り弁当』

「クロ、もう具合は大丈夫なの?」


「大丈夫だ。もともとかすり傷だよ。俺は授業サボれてラッキーだったけど、優等生のシズに午前中いっぱい付き添いさせてしまってすまなかったな」


「なんでクロが謝るのよぉ。クロのそれは、私を守るために負った怪我でしょ。それに、クロの付き添いを保健室の先生にお願いしたのは、わたし。クロはなにも気にしなくて、いいのよ」


「むぅ。そうか? それじゃあシズのお言葉に甘えさせてもらおうかな。もう昼休みだし、食事にでもするか?」


「えっと、……あのっ……そのっ」


 作業員が電柱からモンキーレンチを落とす前に、

 シズが"弁当がなんとか"と、言っていたな。


 シズはモジモジと照れくさそうに髪の先をクルクルしてるし、

 俺の方から切り出した方が良さそうだ。


「もしかして弁当を作ってきてくれたのか?」


「なんで分かったの? エスパー。それとも忍法?」


「ははっ、忍者の一族にそんな便利なスキルがあったら、もっと忍ばずに済んでいただろうな。まっ、冗談はともかく、シズ、登校中に何か言いかけていたでしょ?」


「そっ、そうなの……いつもクロは、購買のパンばっかり食べているから、その、病みあがりですし、栄養面が心配になって……もしかしたら、迷惑だったかしら?」


「いや、超助かる。昼飯代が浮いたから今度、マックで奢るよ」


「でも、それじゃぁ、お弁当がお礼にならないわ……」


「小さいこと気にすんな」


「でも……クロが、誘ってくれるっていうならお願いしようかしら?」


「ふひっ」


 やったぜ! 高校生の男女が二人でマックに行くとか、

 ほぼ完全にデートみたいなものだよな。


 言質げんち、取りました。

 もう引っ込められませんよ、シズさん。


「それじゃ、お弁当食べましょう」


「ここで良いのか? 保健室だし、場所移すか?」


「保健室の先生も、今日はここでお弁当食べて良いって言っていたから大丈夫よ」


「そうか。なら、お言葉に甘えようか」


 シズが俺に作ってくれた弁当箱は保温性の高い魔法瓶弁当箱。

 筒状の弁当箱にタッパーが3つ入っているタイプのものだ。


 シズの弁当は一番下のタッパーがご飯、

 真ん中がおかず、一番上が汁物になっていた。


「うぉ……すげぇ、本格的な弁当。それに弁当なのに、あったかい白米と汁物まで食えんのか……すげぇ、未来だ。かーちゃんとか絶対つくらんもんな、弁当」


「クロのお母さんも忙しいのね」


「まぁ、忍びの家っていうのはいろいろ大変なんだよ。ははっ……」


 まぁ、遅くまでツムツムで遊んでいて朝起きられないだけなのだが。

 それにしてもツムツムってそんなやることあんのか? 謎だ。


 特別な事情がなくても、毎日弁当作るのは正直キツイと思う。

 毎朝早起きして弁当を作る人とか、ほぼ神だろ。

 無償の愛にもほどがある。


「そうなのね。まぁ良いわ。お母さんの事も、極秘事項なのでしょう?」


「ああ、そうなんだ。すまない」


「それじゃあ、食べましょうか」


「「いただきます!」」


(まずは、汁物のフタを開けるか。おお……これ、豚汁じゃん。めっちゃ好き)


「どう?」


「すげーうまい。あったかいし、最高。豚肉とかの肉感がヤバいし、ジャガイモもゴロっとしてるし、ニンジンも甘い。めちゃうま。神かよ」


「……ほっ、褒めすぎよ。でも、喜んでくれて嬉しいわ」


「白米もうまい。俺んちの米は"標準価格米ひょうじゅんかかくまい"とかいう米なんだけど、それと比べて1000倍うまい。これが噂の、コシヒカリとかいうヤツかな?」


「銘柄はしらないわ。台所の米びつに入っているのを使っただけだから」


(どれ、次はメインディッシュのおかずのフタを開けてみようかな……すごい。唐揚げに、おひたしに、だし巻きたまごとか入っているぜ)


「……どうかしら?」


「唐揚げうめぇっ!」


「ありがとう。でもね、クロ……それ、冷凍食品よ」


 やべ……しくった。

 若干シズの顔が引きつっている。


 でも旨いのだから仕方ない。

 ……冷凍食品も結構旨いんだよなぁ、実際。


「すまん。言い間違えた、だし巻きたまごうめぇっ! 正に京都って感じの味!」


「ふふん……それは、自慢の逸品よ。五条院家の秘伝のだし巻きたまごよ。クロに気にいってもらって嬉しいわ」


 食についての語彙ごいが少なくてちょっと恥ずかしい。

 仕方がないのだ、かーちゃんの料理は冷凍かスーパーの惣菜が中心、

 外食もそんなにいい店につれていってもらったことがないのだ。


「とにかく全部旨い! 凄いな……シズは料理の才能があるな」


「まぁ、朝早く起きて頑張ったから……その、美味しいもの食べて欲しいから」


「おうっ、その……ありがとう。めっちゃうまかった」


 もう昔のことではあるが、

 シズが昔から料理が得意だったわけじゃないことを知っている。

 小学校の家庭科の授業の時に調理実習は苦手だったからな。


 きっと、シズのことだから人知れず努力をしてきたのだろう。


「ごちそうさまでした」


「おそまつさまでした」


 シズの顔を見つめる。

 優しそうな笑顔で微笑んでいた。


 保健室の窓から差し込む光が眩しい。


 そしてシズと俺の二人きりの、

 まるで時が止まったような世界の中で、

 幼馴染のシズをみつめて思うのだ、



(……やっぱ、シズのおっぱいって……大きいよなぁ)



 ――と。

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