ただ学園1の美少女の命を救っただけなのだが、なぜか惚れられてしまったのだが?

くま猫

第一章:幼なじみと陰キャくん

第1話『陰キャ、幼馴染を救う』

 俺の名前は影山 鴉かげやま からす、伊賀忍者の末裔であり

 幼馴染、五条院 静歌ごじょういん しずかのボディーガードだ。


 まぁ、シズのボディーガードは、

 俺が勝手にやっていることだ。

 シズは俺が密かに護衛していることを知らない。


 ちょっと特殊な背景はあるが、

 それ以外はいたって普通の男子高校生だ。


 学校の成績が良いわけでもない、

 影の薄いよくある、ぼっちの陰キャだ。


 幼馴染には俺の素性は隠しているが、

 俺の親も含め影山の一族は、

 人知れず、五条院家を守ってきた一族である。


 あくまで影山の一族が無償の奉仕で行ってきた事であり、

 五条院家からは一銭の対価ももらってはいない。


 影山の一族の長男家の息子が代々行ってきた事だそうだ。

 俺の親父もその役割を担っていたそうだが、

 今は親父はその役割を息子である俺に譲り、

 ブラック企業務めのリーマンをやっている。


 このご時世、忍者でメシは食えない。

 悲しい現実である。


 俺の護衛対象、幼馴染のシズは学園の人気者だ。

 大きいおっぱい、金色の地毛、緑色の瞳の美少女……、

 更には成績優秀なのだからモテて当然ではある。



 幼馴染ということで登下校は一緒なのだが、

 誰も俺たちを恋人認定してくれないのが寂しい。

 おそらく俺はシズのカバン持ちとでも思われているのであろう。


 俺は、シズのことを登下校時はもとより、

 学園の内外問わずにありとあらゆる危険から守っている。

 シズの知らないところで命の危機を未然に防いだこともある。


(まあ、ぶっちゃけ俺のやっていることは、現代日本の法律に照らし合わせると単なるストーキング行為なので、シズに訴えられたら勝ち目ないだけどな)


 俺はいつも通り、幼馴染のストーキングをしていた。

 日課のストーキングを終えたら、風呂入って、

 特訓とあつ森をして寝る、いつもと変わらぬ日常を送る予定であった。



 ――変化は突然訪れた。



 シズがコンビニに買い物をしにいくのを、

 足音と気配を消しながらストーキングしていると、

 俺よりも前方に幼馴染を付けている男がいた。


(あの電柱の影に隠れた黒パーカー男……明らかにシズを狙っているよな?)


 黒パーカーの男はフードを被り顔を隠し、

 懐からギラリと鈍色にびいろに光る刃物を取り出すと、

 シズに向かって一直線に駆け出す。

 ……凛は刃物を持った黒パーカーの男に気づいていない。


(クソ……この距離。間にあえっ!)


 俺は、全速力で早駆けで幼馴染の前に立ち塞がる。

 俺の胸に黒パーカーの男の包丁が突き刺さる。


(あぁ……やべっ。こりゃしくじった。死ぬ感じの位置に刺されちまった)


 忍者の訓練の中には刃物を刺されても、

 致命傷にならない、上手な刺され方というのもある、

 今回はそれを実践している余裕はなかった。


(まだだっ!……この包丁を抜き取られたら、この黒パーカーは再びシズを襲う)


 俺は、包丁に刺されたまま、男の襟首を引き寄せ、

 黒パーカー男の顎に強烈な掌底を食らわせる。

 顎部粉砕骨折がくぶふんさいこっせつ脳震盪のうしんとうにより、ガクリと倒れる。


 そして昏倒した男の顔面を鷲掴みにしたまま、

 アスファルトの地面に後頭部をしたたかに叩きつける。


 念のため両腕の関節も逆方向に、ボギリとへし折っておいた。

 俺は死ぬだろうが仮に黒パーカー男が目を覚ましても、

 シズに手出しが出来ないように無力化しておかねばならない。

 それが、俺の最後の役目だ。


 まっ、ここまですれば俺が死んでも、

 シズには指一本触れられない。


(あぁ……すげぇ、血ぃ流れているな。こりゃさすがに駄目か)


 この展開を俺はよく知っている。

 俺のよく読んでいる漫画では異世界に行くパターンだ。

 そんな冗談めいた考えが頭に浮かぶ。


(っと……死ぬ前に、シズに万が一の怪我がないか確認しないとな)


 俺は視線を流れる血と胸の傷跡から幼馴染に移す。

 良かった……幼馴染には怪我一つない。

 これなら、安心して死ねる。


(……泣くな、シズ。俺は、お前にそんな……顔して欲しくなくて……)


 俺が最後に聞いた声は幼馴染――シズの泣き声と、

 『死なないで』という声だった。



 その声を最後に俺の意識は途切れた。

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