ハイドラの裔【適合者シリーズ4】

東江とーゆ

山村聡太郎

部室

4月24日、月曜日

放課後、僕ら3人は3階の図書準備室に集合する。

表向きは郷土史同好会の活動のため。


3人とは、僕イコール山村聡太郎と日下美由紀、そして小早川水希。


僕と日下は正真正銘偽りなく高校生だが、同時に協会員である。


僕たちが所属する協会は、外側の神々の情報の秘匿を目的とする団体で、外側の世界『外宇宙』の影響や痕跡の調査、検証、管理、等を秘密裏に行っている。

その情報や知識を人類は知るべきではない。

それを知ることは、危険なクリーチャーとの遭遇や、破滅をもたらす魔術や呪詛に晒されるリスクをともなう。

外宇宙に関われば、人として正気を保つことは困難だ。


そして小早川水希は、昨日入会が仮承認された女子高生だ。

僕と彼女は小学生の時の同級生で幼馴染。

彼女もまた、その当時に外宇宙のクリーチャーと遭遇した。彼女の特殊能力は、その遭遇によって開発されたと推測される。

今回、日本に戻ってきた僕は高校で彼女に再会して、過去のクリーチャー遭遇の真相を暴くことになった。

真相は彼女の父親の失踪の解明に結びつく可能性がある。


水希は父親失踪の真相を探るため、または自分の特殊能力の対処法を学ぶため、協会に入会することを決めた。


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日下は顔に不釣り合いな無表情で「聡太郎様、秋月は休みです」と報告する。

日下美由紀はミニマムな猫目の美少女、丸顔のショートヘアで前髪を上げている。


秋月とは部長のことだ「秋月先輩ね、あと学校で様はなし」僕は日下を諭す。

日下は顔色も変えず、粛々と「申し訳ありません、仰せのままに」と答えた。


透かさず水希が2人の会話に割って入る「でもソータ、今は協会員しかいないよ、様つけてもいいでしょ?ソータ様ならいい?」屈託なく笑っている、揶揄っているのか?何か可愛い。

小早川水希は女子としては、そこそこの長身で僕と同じくらいの背丈がある。手足も長くて細い。

髪は何時もロングヘアを一本の三つ編みにしていたが、今日はツインテールにしている。

顔は卵型で端正な目鼻立ち。


「小早川はまだ正式に会員になった訳ではない、それに聡太郎様だ、略すな不敬だ」日下が抑揚のない口調で水希を責める。


どうも日下は水希には強気だ。これは本来日下は暴言キャラで、僕の前では任務のため無理して敬語を用いているのだろう。

日下の任務は僕の警護であり、僕と彼女は現在同居している。


ミニマムで可愛いのに冷たい無表情、実は暴言キャラの美由紀。

整った美形で凛とした容姿だが、気さくで気取らず茶目っ気がある人気者の水希。

2人とも見た目と中身にギャップがある。

中身が入れ替わったら違和感なくピッタリ揃うのではと考えてしまう。


水希は頬を膨らませて「美由紀ちゃん、仮でも会員だよ、気持ちは一緒だよ、あたしたち運命共同体だよねソータ」日下に抗議する。


「もし気持ちが一緒ならば聡太郎様と呼べ、自分の心の中は常に聡太郎様だ、おい略したな、様も抜いたな、よし表に出ろこのビッチ」畳み掛けるように淡々と凄む日下。激昂することなく事務連絡のように暴言を吐いている。


「日下は水希相手だと容赦ないな、まあ学校で様はやめろ2人とも、たとえ協会員だけの時でもね、さもないと怖いおばさんに叱られるよ」

日下は水希に気兼ねなく暴言を吐く、暴言を吐かれた水希もニコニコと楽しそうだ。

早くも2人は打ち解けたのか?

いつの間に仲良くなったのだろう?

日下は水希とは先週知り合ったばかりだ、一緒に暮らしている僕とは未だ他人行儀なのに。

日下は協会の総裁である僕のお祖父さんに狂信的な忠誠を捧げている。孫の僕に日下はどう接していいのか戸惑いがあるのは判るが。

孫といっても血は繋がってはいないのだから、もう少し打ち解けてくれてもいいのに。


「まあ水希は幼馴染だし、ソータでいいよ、僕は上役でもないしね」何なら日下もソータでもいいのに。


日下は珍しく慌てて「それはいけません、聡太郎様は総裁の御孫で有らせられます」僕の発言を諫めた。


「ああ、それなの、総裁ってどのくらい凄いの?」無邪気に水希は地雷を踏んだ。日下の前でお祖父さんの話題をそんな軽いノリで話すのは自殺行為だ。


案の定。

「聡太郎様、自分が危惧するのは、こういう浮ついた考え方です、真の偉大さに捧げる忠誠心を言葉や文字で示されて、それは伝わったり正しく理解されるのでしょうか?」日下は水希を冷たく一瞥してから僕に切実に訴えた。

流石の水希も自分の失言『総裁を軽々しく話題にしてしまった愚行』を後悔したようだ。

日下のとびきり冷たい眼差しや口調で、水希の顔からは血の気が引いていく。


日下は協会に拾われなければ死んでいた人間だ、社会に彼女の居場所はなかった。

彼女にしてみれば、そんな言葉では言い尽くせない感慨を、水希が土足で踏み躙ったように感じたのだろう。

それにしても過剰な反応だ、他に何か葛藤があるのかも。


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「日下、昨日も話したが水希の能力は協会にとって有益なものだ」

水希の能力は『外宇宙に住むクリーチャーまたはその影響を受けたクリーチャーと遭遇した他人の記憶を白昼夢という形で知覚できる』という変わった形の記憶リーディング能力だ。


「日下、お前だって見鬼だから協会に拾われた、拾われてから能力の対処法を学び、協会の意義を理解していった」

「真の理解は一歩一歩自分の歩幅で積み重ねていくしかない、日下の言うように言葉ではなく身体に刻む、それには時間が必要だよ」


「自分は拾われた時から、協会に恩を感じています」

日下は項垂れて、か細く呟く。

自分には最初から忠誠心があったと、日下は言いたかったのだろう。

しかし、恩を感じることと忠誠心を抱くことは必ずしもイコールではない。

とはいえ彼女の自尊心を傷つけてまで、掘り下げる話ではない。


とりあえず日下には応えずに、話しを水希に切り替える。

「水希、昨日入会を決めたばかりで判らないことはあって当然だよ、だから無理はしなくていい」

「無理矢理変えたものは脆い、長くは続かない、ゆっくり協会に馴染めばいい」

「日下は幼い頃から自分の全てを協会に捧げてきた、日下のように生きるのは難しいと思うが、彼女の発言は厳しくても理不尽でも、それは水希が協会に入会した志を貫くための指標だと思ってほしい」


話の流れで説教臭くなってしまった、2人はウザく感じたかも。

まあそれでも空気は変わった、また日下の地雷を水希が踏む前に話題を変えよう。


「さて、いい機会だから水希の過去の白昼夢の話を聞かせてもらいたいな」

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