利点08. 「反動がある」

 無課金ライト層DEX極振りプレイヤーことStrawberryEater427は、同均等振り型プレイヤーことImitationCat145と共に、適正レベルギリギリの森林エリアを訪れていた。


「ピヨコくん。今回君には、この【投げナイフ】を使ってもらう」


 StrawberryEater427は手持ちインベントリ上限一杯、100本の【投げナイフ】を地面にばら撒いた。


 【投げナイフ】。投擲用の剣であり、装備時のみ投擲モーションが最適化されるスキルを取得する。投擲後は拾えば再利用も可能だが、大量に投げると後が面倒になる点、そして他人に拾われると所有権が移ってしまう点から、関係の浅いパーティ内での使用は推奨されない。


「でもシズナさん、ここは障害物も多いですし、も獣系ばかりですし、絶対当たらないと思いますよ」


 【拳銃】は諦めたんですか、とは尋ねない。

 何故なら既にStrawberryEater427が2挺拳銃を構えているからだ。


「ふふふ、良いから試してみたまえ」


 ImitationCat145は今一つ腑に落ちないながらも、そもそも【拳銃】を実用化しようという計画自体が腑に落ちていなかったので、渋々周囲の索敵を始める。


「あ、いました、ウサギです。投げますよ」

「着弾を待たず、続けてどんどん投げたまえよ」


 はーい、と間延びした返事を返したImitationCat145は、言われた通りに【投げナイフ】を次々に投げ始める。

 その何割かは木に遮られ、残りの何割かはウサギ型モンスターMOBの手前に落ち、残りは軽やかに躱される。当然だ。

 レベルこそ適性とはいえ、STRもAGIもDEXも同レベル帯のまともなステ振りビルドには遠く及ばないImitationCat145では、弾速も精度も足らず、回避特化型のウサギに【投げナイフ】を当てることなど現実的ではなかった。


 そこへ響く2連続の安っぽい銃声。


「ギャウッ!?」

「えっ」


 ImitationCat145が投擲した【投げナイフ】の内の2本は、明らかに的中する軌道ではなかったにも関わらず、突然角度を変えてウサギに襲い掛かった。


「さあ、続けたまえピヨコくん」

「は、はい」


 それからも、躱されたはずの【投げナイフ】がウサギを追いかけ、木の裏に隠れたウサギに回り込み、ウサギに傷を与えてゆく。

 そうしてついに、ウサギは赤いエフェクトを残して散った。


「えっ、何ですこれ」

「前回の実験で、【拳銃】の弾には、【拳銃】を転がす程度のノックバックがあることが解ったろう。【拳銃】より軽い【投げナイフ】の軌道を変える程度なら造作もない」


 事も無げに言うStrawberryEater427に、ImitationCat145は頭を抱えた。


「つまり、空中の【投げナイフ】に【拳銃】の弾を当てたんですか?」

「DEX極振りならば造作もない」


 そんなことあるだろうか、とImitationCat145は疑問に思ったが、実際目の前で起こったのだから、認める他にはなかった。


 後日StrawberryEater427とImitationCat145は、この【拳銃】を用いた曲芸的な投擲弾道変更を以て【拳銃】実演販売を行ったが、数名の純粋な初心者プレイヤーが購入してしまった他には売上には繋がらず、ネット上に公開した動画により多少の広告収入が入った程度であった。

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