第6話

異能というものは魔法とは別のものと考えられがちだがそうではない。

  そもそも魔法とは言葉もしくは文字を紡いで世界の理ことわり、真理を表すものである。

  その特筆すべき特徴としては原理さえ理解すれば理論上誰でも魔法を使えるということだ。

  例えるなら最も初級の魔法である火球ファイアーボールは火の理ことわりを呪文として己の心に刻み込めたのならば次からは簡略化した詠唱でこれを使える。

  これだけ聞けば世界が戦術級魔法師で溢れかえると思えるが、やはり魔法はクラスが上がるほどその理を解するのは難しくなっていく。

  また、心に刻み込んだ呪文を世界に理として示す際には内に秘めた魔力を必要とするため、たとえ理を解したとしても魔力が足りなければどうしようもない。

 

  対して異能とはかつて世界の理を統べていた神々の権能である。

  端的に換言すれば神の使う魔法なのだ。

  神の魔法は神だけのものであり人がこれを模倣することは許されない。

  ならば、その権能を与えられた異能者にしか異能を扱えないのが道理である。

  さらに付け加えるならば異能は理がすでに解明された状態の魔法をそのまま付与されるようなものなので異能者自身が理を解する必要がない。

  つまり、理を世界に示す必要が無いため必要とされる魔力が同威力、同効果の通常魔法と比べて非常に少ないのだ。

  例えるなら異能はロケットを発射しようとする際ロケットの材料が必要なく発射する燃料だけがあれば良いということだ。

 

 

 

 

  ちなみに異能の入手方法は大きく分けて二つある。

  一つはモドキのように神から直接授けてもらうこと。


  もう一つは神が協定を結ぶ際に地上に置いていった権能をダンジョンと呼ばれる魔物や天使が蠢く魔窟を攻略して入手すること。

  ダンジョンはいわば権能を与える人間をふるい落す門番のような役割だ。

  ミゲルは当然後者である。

  ちなみに魔王や勇者は神が直接権能を与えて選ぶ場合もあるが、神が与えずとも自らダンジョンを攻略して異能を手に入れた強者を選ぶ場合もあるそうだ。

 

 


  現在の星浄教会の教皇も前回の大戦にてそうして選ばれ勝ち残った勇者だという。

  つまり、現在は法神の支配する世界というわけだ。

  そういえば法神も邪神もこの世界を支配しない虚無期間、大戦中は世界にどんな影響があるんだろうか?

  今度またモザイクに会ったら聞いてみることにしましょうかね。

 

  「これで全部か?」

  オイラは目の前で四肢を潰され虫の息であるミゲルに問いかける。

 

  「こ、これでわ、私の知っていることは全てでございます。」

  ミゲルの端整な顔は涙と鼻水でグシャグシャであり見る影もない。

  下着もどうやら生温かいもので濡れているようだ。


  「そうか。ありがとさんよ。じゃあっ、オイラはこれから最寄りの街に向かうとしますかね。」

 

  オイラがそう言って立ち上がるとミゲルの顔がパァッと晴れる。


  「で、ではわ、私は?」

 

  「ん、あーもちろん殺しますよっと。」


  「へっ?」

 

  「いや、へっ?て。当たり前だろ。オイラは一度忠告はした。それを聞かずに仕掛けてきたのはオタクらだ。」

 

  「で、でも。」

  それにあの地下牢で学んだことの一つにもある。

  禍根を残さないようにするためには皆殺しにするか全員生きて返すかだ。中途半端に情けなんかかけるから禍根が残る。

  オイラが本気だということに気づいたのだろう。

 


  「ひぃーー、ど、どうか命だけは。そ、そうだ貴様も我ら星浄教会の一員にならないか。富も名声も欲しいままにできるぞ。」

  ミゲルはガクガクブルブルと震え涙ながらに命乞いを始めた。

 

 

  「あいにく富や名声には興味がないもんでね。それにオタクらも人を殺しにくるのなら逆に殺される覚悟くらいしてるだろ。見たところ村も壊滅させたようだし殺されるには十分な理由だろ。大丈夫苦しまないように一瞬で楽にしてやるから。」

  オイラはミゲルに向かって掌を突き出す。


  「きっ、きしゃま。こんなことしてタダで済むと思ってるのか。必ずや我が星浄教会が復讐にくるぞ。や、やめ…いぎゃぁぁぁぁ。」

 

  オイラはこれ以上は聞くこともないと判断し、異能を発動させる。

  ミゲルは頭がまるで腐った果物のようにグシャッと潰れた。

 


  異能の扱いにも大分慣れたな。

  あそこまで必死の命乞いを無視してたくさんの人間を殺したわけだが罪悪感などこれっぽっちも無かった。

  そんなものあの地下牢にてとっくに霧散している。

 

  さて、すでに事切れたミゲルだったものから興味を後ろに移し振り返る。

  背後にはオイラが首を消し飛ばしたドラゴンの死体が横たわっている。

  一体は仕留めたがもう一体は戦う前に逃げちまった。

  それが街を襲ったりしたら大変だが。まっ、どうにかなるでしょう。

 

  それにしても…どうしようか?これ。

  ドラゴンの素材は高価だというし 、そのまま捨て置くのも勿体無いしな。

  皮や爪は剥ぎ取るとして肉はどうしましょう。

 

  オイラはミゲルの遺品から回復薬ポーションを取り出して自分の体にかけながら考えた。

  それにしてもミゲルが持っていたポーションの効能はすごいな。

  ヒリヒリと爛れた火傷や赤く腫れ上がった打撲の傷がみるみる内に癒えていった。

  流石に古傷となった拷問の痕は消えないが比較的新しいものは軒並み治った。


  傷が治るとその痛みで誤魔化していた食欲が湧いてる。

  何年振りだろうか。腹が減るなんて。

  痛みによる激痛で叫んだため喉は頻繁に乾いていたが食欲はそれどころではなかった。

  それにしても腹が減ったなぁ。

  この感覚はとても久しぶりだ。嬉しいな。

  なんか食うもんないかな。

  どうせならとびっきり美味いもんがいい。

  美味いもん…

  オイラの視線は自然とドラゴンへと向く。

 

  そういえばドラゴンの肉は滅多に取れないため希少だがとても美味いと聞いたことがある。

  ドラゴンを見てしばし熟考する。


  「よしっ、食うか。」

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