第5話 彼女と温泉旅行①

「この前は大変だったね」


「ほんとそれな。もうくたくただよ」


俺たちは心のお父さんの誤解をとき、交際を認めてもらえることに成功したのだ。


「今週末空いてるー?」


「空いてるけどどうした?」


「私ら家族で温泉旅行に行くんだけど、空牙くんもどうかなって」


「え、俺も行っていいの?」


「うん!お父さんが誘えってしつこいの」


すっかり気にいられてしまったようだ。あの日以来、心のお父さんは良くしてくれている。二人で食事に行ったこともある。


「そっかぁ。じゃあ、行こっかな」


「土曜の朝七時に家に迎えに行くねー」


「わかった。それじゃまた明日」


「楽しみにしててね。ばいばーい」


電話を終えたので、寝るためにベットに横になった。ふと天井を見上げると、心の顔が重い浮かぶ。


「大好き」


心の声を聞くだけで安心する。電話を毎日したいが、恥ずかしくて言えない。毎日溢れそうなこの思いをどう伝えたらいいのだろう。





――ピーンポーン


「おっはよー!空牙くん起きてるー?」


チャイムの音と同時に、心の声が聞こえできた。起きてるも何も、楽しみすぎて寝てない。


「起きてるよー!すぐ行くから待ってて」


すぐに準備を済まし、車に乗った。


「おはよう。空牙くん」


「あら、すごいクマね」


「あ、おはようございます。ちょっと寝れなくて……」


頭をさすって軽くながす。楽しみすぎて寝れませんでした。なんて言えるわけないだろう。


「空牙くんおはよう」


こここに座ってと、指をさしていた。


「あぁ、ゆめか。おはよう」


俺の席は後部座席の真ん中のようだ。なんだか嫌な予感がした。気にせず座ったが、やはり俺の予感は当たっていたようだ。ゆめと心に挟まれる形になってしまった。おまけに二人とも俺の腕に引っ付いてきた。車が揺れる度、柔らかいものが腕に押し付けられる。


「ちょっと、離れてよ」


心の両親に聞こえないように、こっそり伝えた。


「ゆめはともかく、私も辞めないとダメ?」


心は子供がおもちゃを縋るようなキラキラした目で見てくる。あぁ、愛おしい。でも、ここで折れる訳にはいかない。


「今はダメ。着いたらたくさんできるから」


「むぅ、手を繋ぐので我慢するから着いたらたくさん頭撫でてね」


「わかったわかった。ほら、ゆめちゃんも離れて」


「ぐーぐー」


「寝ている振りをしても無駄だぞ?」


「あちゃー、ばれちゃいましたか」


「早く離れて……」


「ふふふ、大きな声出したらバレてしまうから小声なんですよね?」


よからぬ笑みをしていた。ゆめは俺の太ももに手を当てて揉み始めた。その手はどんどん俺の息子に向かっていった。


「ばか、やめろ……」


「早く抵抗しないと……触っちゃうよ?」


「ゆめやめなさい。空牙くんは私のなんだから!」


助かった。心が止めてくれないと危ないところだった。


「――っ」


右腕に生温い感覚とゾクゾク感がした。ゆめが俺の腕を舐めていた。舌のうねり具合と吐息が混ざって、すごく気持ちが良かった。


「右腕はゆめのもの。マーキング」


ゆめは変なことを言いながら、甘噛みしてきた。少し痛いが、なんとも言えない感じがすごく良かった。


「ゆめちゃんほんとにダメだから……」


「空牙くんは私のだから。私もマーキングする」


「……ちょ、心まで」


心も変なことを言って俺の指を舐め始めた。俺は理性を保っているのでいっぱいだった。すぐ前には心の両親がいる。俺は変態なのか余計に興奮してきた。

ついに二人は耳をハミハミしてきた。頼むから早くついてくれ。


「着いたわよ」


どうやら神様は俺に味方してくれたようだ。最初からこれだとこの先が思いやられる。


「わー、ひろーい!」


「早く温泉入りたーい」


見たところこの温泉は混浴らしい。この二人とは絶対に時間を被らないようにしないといけない。


「その前に、部屋に荷物を持っていくぞー」


「そうだね。空牙くんは部屋どうするの?」


「え?俺一人じゃないの?」


「空牙くんは心と二人部屋をとってあるわ」


心のお母さんはにやにやしていた。顔からは『頑張りなさい!でも、避妊はしなさいよ』と読み取れた。


「えー、ずるいずるいずるい!私も空牙くんと同じ部屋がいい!」


「だめよ、ゆめ!私と空牙くんは二人きりがいいの」


「……そうなの空牙くん?」


「まぁ、そりゃ……」


「くぅー!じゃあその代わり一緒にお風呂入ろ?」


「それとこれは別でしょ!私だって一緒に入りたいんだからね!」


「お姉ちゃんは一緒に寝れるじゃん。私は寝る時おばさんとおじさんに囲まれるんだからね!」


「ゆめ、ちょっと来なさい」


「痛い痛い痛い!ごめんなさーい」


恐ろしい。心のお母さんのぐりぐりが炸裂していた。すごく痛いのが見ただけで伝わってくる。俺は絶対に心のお母さんだけは怒らすことだけはしないと誓った。


「じゃあ、ゆめちゃんまた後で」


「空牙くん待っててね。ゆめもすぐ行くから」


「あんたは絶対に来ないでよね」


なんだかんだ言って仲良しのようだ。会話はトゲトゲしているが、別れる時はお互い手を振りあっていた。


「さて、お風呂入ろうかな」


「俺はあとから入るよ」


「え、なんで一緒に入ろうよ」


「なんだか、ゆめが待ち伏せしているような気がして……」


「そういう事か。じゃあ仕方ないね。また後で」


どうしたものか。することがないので、散歩にでも行ってみよう。『一分あればあなたの未来が分かる』何だこのお店。俺は少し気になったので、入ることにした。


「いらっしゃいませ」


入ってみると、笑顔のおばさんが深くフードを被り、手には水晶ではなくムチを持っていた。ここは熟女好きが集まるSMプレイをするところなんじゃないのか。本当に大丈夫なんだろうか。


「こんにちは。未来がわかるって本当ですか?」


「えぇ、本当ですよ。そこに座ってください」


俺は全然オカルトを信じていない。オカルトは人が適当に言っているただの戯言だ。でも、なんだか少し気になるんだよね。


「はぁー。きぇー。うりやぁぁぁぁぁぁあ」


意味のわからない叫び声を上げて、ムチを叩きつけだした。俺は一体何を見ているんだ。

おぉー、すごいな。俺は拍手をしていた。なんとおばさんは一分間ムチを叩き続けたのだ。


「ぜぇ、ぜぇ。未来がわかりましたよ」


「教えて貰えませんか?」


「教えてもいいが、その前にお金を出してください」


「いくらですか?」


「一万円です」


一万円!?これはぼったくりすぎだろう。一分間ムチを叩き続けただけで一万円。そんな商売がこの世に存在するのか。

俺は一万円払うことにした。理由は簡単だ。これを機にオカルトはインチキだということを証明したかったからだ。


「どうぞ」


「うむ。よしでは伝えよう。お前さんは大事な人がいるだろう?近いうちに、その人の命に関わる重大なことが起きるぞ」


「え……それは本当なんですか?」


「あぁ、本当だ。お前さんに恨みを持っていたり、その人が憎まれているような心当たりはないか?」


そんなことあったっけ。もしかしてあの三人組のことか?あれからずっとなんともないのだが警戒しておく必要がある。何人恨みを買っているのか聞いておこう。


「おばさん。俺たちに恨みを持っている人数は分かりますか?」


「うむ。私には3見えたぞ」


間違いない。あいつらで確定だ。


――プルルルル


心からのようだ。俺はなんだか悪い予感がした。


「おばさんありがとうございました。電話来たので失礼します」


「またのお越しをお待ちしております」


「もしもし心か」


「あ、空牙くん」


「どうかしたのか」


「あのね。ちょ、まって。きゃーー」


「もしもし。おーい心。心!」


電話が切れているようだ。ここは県外だぞ……まさか旅行にまで着いてきたってことか。このままじゃ心が危ない。


「待ってろよ心、すぐ行くからな」


俺はその場から全力で駆け出した。


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