「幻の名店」グルメレポート!

「今日は幻の名店として、テレビやユーチューバーの間で大人気の○○ラーメンさんに参りました!」



 男が見ている画面の中では、大食いがウリの女性ユーチューバーが挨拶している。チャンネル登録数は10万人を超えている。そこそこ有名らしい。店内には厨房とカウンターがあり、長居しづらそうな丸椅子がいくつかおいてある。


「今日は私の撮影のために、ちょっと早めに店を開けていただいてます!なので今は私の貸し切りです(笑)いつも長蛇の列ができてる名店なので、レアな光景ですね~」


 画面の女性は愛想よく笑う。


「それではさっそく!おすすめのラーメンをお願いします!」


 しばらくすると、ラーメンが出てきた。


「おいしそうですね!早速いただきます!」


 画面の女性は麺をすすって、その味を表現する。


「おいしい!麺はちょっと固めでコシがあります!スープに浮かぶ脂身はしょっぱめで、濃いめのラーメンが好きな人にはたまらないと思います!!」


 その後も彼女はレポートをつづけた。レポートは適格で、男はその食べっぷりにお腹いっぱいになった。彼女は礼儀も正しく、食べ方もきれいだった。


 そして食べ終わると


「ごちそうさまでした!おいしかったです!それでは、チャンネル登録と高評価をお願いします♡」と言って動画は終わった。男はこの動画が気に入り、チャンネル登録と高評価をした。



 それから、オススメ動画や関連動画に彼女の食レポの動画が上がってきた。他の食レポを行うユーチューバーの動画も見るようになった。どのユーチューバーも「幻の名店」についてのレポートを行っていた。それぞれのコメント欄にも「行ってきました!おいしかった!」「まさに幻の名店!」などと書き込みがなされていた。批判するコメントは一つも見つからなかった。



 男のスマホに届き続ける沢山の「幻の名店」への称賛を見て、男はその店のラーメンが、自分で足を運んで確かめるまでもなく、うまいということを信じて疑わなくなった。



 動画内で紹介されているその店の住所がデタラメなことも、好意的なコメントを打っているのが専門業者であることも、真実を告げるコメントは全部削除されていることにも、男は気づかなかった。



 男は死ぬまで、この「幻の名店」がこの世に存在しないことに気づかないだろう。でもそれはどうでもいいことだった。

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