黄金卿の章―― 鉄血戦線 其の③

「ウフフ。許してねアリスちゃん。でも仕方ないの命令だから」

「……ごめんなさい、ザッシュさん。下手売っちゃいました」


 首だけを動かし視線を後ろに向けると、イザラがアリスに刃を突きつけている光景が目に映った。

 そのまま機械的な動作でザッシュは上を見上げた。確認すべきことがあった。デップの手には鷹の羽のブローチが収まっている。――イザラのものだ。


「――クソが。全て想定道理ってことかよ」


 最初から仕組まれていた。ザッシュがそう気づいた時にはもう手遅れだった。


「ナハハ。おバカな鼠達が我が主マスターを嗅ぎ廻っているとのことだったので。アタクシ、鼠取りを用意しまして。するとどうでしょう?まんまと罠に嵌ってくれたわけです。いやぁ愚かですねぇ……愚か愚か、ナハハハハッ!——フゥ……よくも我が愛機ジュタイラーを破壊してくれましたね。万死に値するぞ、この塵滓が!」


 デップが額を片手で覆いながら一しきり高笑いした後、冷酷な音色でザッシュを睨みつけた。ザッシュはその瞳に臆することなく質問を投げかける。


「……おいピエロ野郎、一つだけ答えろ。てめぇの主、支配者ロードは何処にいる?」


「うん? おやおや。キミィ、どうやら自分の立場というものがよく分かっていないみたいですねぇ――そんなの答える訳ないだろうが!」



 デップが指をパチンと鳴らすと、イザラは手から炎を纏った鞭を出現させた。


「――そいつは……まさか……!?」


「ほほう。このイデアを知っているのですか?まぁ知っていてもおかしくはないでしょうがね。流石は彼の時代を生き延びただけのことはある……さて戯言はここまでだ。さぁ、イザラ君。彼を黙らせなさい」


「ザッシュさん、悪く思わないで頂戴ね。これも全部あの男の差し金なのよ」


イザラは不敵に笑い、鞭の如く靡く炎が彼の体を縛り上げた。肉を焙る音が辺りに響く。


「……ハハハ。効かねぇな」


ザッシュは乾いた笑みを浮かべる。


「ナハハハ。いいですねぇ。さてさていつまでその強がりが続くのか、気になるところではありますが、生憎時間が押していましてねぇ。とりあえず、キミには此処でくたばってもらう所存でございます、はい」


 デップはそう言うと懐から黒い水晶玉の様な物質をと取り出した。それを見た瞬間、ザッシュは驚愕した。それはこの時代に存在してはいけない代物だった。ザッシュは恐怖とも怒りとも似使わない歪な表情を浮かべ、声を荒げた。


「――魂魄爆弾スピリダス……だと!? てめぇ、それがどれだけヤバいブツなのか理解しているのか!?」


「おや?これがなんだか分かるのですか? いや問うまでもないですね。ナフフ……なるほどそうか、キミはご存知な訳だ」


 歪な含み笑いを洩らしつつ、デップは瞑目する。そしてその手に持った黒水晶を高々と掲げた。


「うーん、此処ももう駄目ですかねぇ。残念ですよ。ワタクシとしてはもう少しキミをいたぶりたかったんですがね」


――黒水晶は砕けた。瞬間、建物を漆黒の闇が覆う。辺りには甲高い不快音だけが響き渡る。


『ナハハ。ではこの素敵なお嬢さんはアタクシが頂いていきますよ。また逢えるといいですねぇ。……まぁ、生きていたらの話ですがね……ナハハハハ!』


「てめぇ……待ち……やがれ……ッ!」


 ザッシュの怒声は気にも留めずデップは指を鳴らす。すると彼の周りの空間がグニャリと歪み――転移門ポータルが開いた。そして、その先へ進むとまるで最初からそこに存在していなかったかのように忽然と姿を消した。イザラは去り際にザッシュに耳元で何かを囁いた後、アリスを人質にしたままデップに続いた。



 そして一瞬の静寂の後、ドス黒い色をした爆炎と共にマシーンリバーは崩壊した。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る