黄金卿の章―― 鉄血戦線 其の①

「気色の悪い野郎だ。それと何処となく魂魄機甲兵アニマゾーグに似ているな。まさか改良機か?」


「――え?ザッシュさん、この化物のこと知ってるんですか?」


 アリスが短銃に銃弾を補充しながら、ザッシュに尋ねる。


「ああ。魂魄機甲兵アニマゾーグ――かつて崩戦時に使われていた半生体兵機にコイツはよく似ている。お前のいうところの旧文明の遺産ってヤツだ。ただし悪い方のな。だが、これで証明されたな。この先に奴は必ずいる……!」


              ◇『――鮫刃陀』◇

 


 言い終わるや否やザッシュは右腕を対複数専用の型『鮫刃陀』へと変えていく。生憎こいつらに構っている暇はない。短期決戦で処理してやる。


「おい、アリス。奴にゃ銃は効かん、コイツを使え」


ザッシュはアリスへ向けて、黒い菱形の物質を放り投げた。アリスは少し挙動不審になりながらなんとかそれをキャッチした。


「……へ?何ですか、これ」


「そいつは『破薬瓶バイアル』と言って、機械類に当たると破裂し電磁パルスを発生させる装置だ。もしものことを考えて持ってきたが、まさか役に立つとはな。ま、簡単に言うとだ――」


 ザッシュはそこで言葉を切り、目の前で回転式鋸を唸らしている、化物――ジュタイラーへ向かって黒い菱形の物体――破薬瓶をぶん投げた。

 薬瓶は綺麗な放物線を描き、化物にぶつかると、一瞬の閃光の後、その機体に電流を張り巡らせ、一瞬動きを鈍らせる。すかさず、ザッシュはそれに向かって必殺の一撃を叩きこむ――が、装甲は金剛石の如く堅牢で剣は鈍い音を空しく立てて弾かれた。


「――チッ。相変わらず厄介な装甲だぜ。びくともしねぇ! ご覧の通りこいつは強硬だ。だからなアリス、お前にはオレのサポートを頼みたい……できるか?」


「ふっふっふ、遂にザッシュさんがわたしを頼る時がやってきたわけですね。いいでしょう、モチのロンです。大船に乗ったつもりでこのアリスちゃんに任せてください!」


「……なんか、めちゃくちゃ不安な予感がしてきたが、まぁいいだろう。いいか分かってると思うが――無茶はするなよ?」


「ナハハ。そんなもので。このジュタイラーを止めれれるとでも思っているのかね?なんと愚かなことか。まぁいい。どのみちキミ等はここで終わるのだ、ナハハハハハ――」


 ザッシュ達がほのぼのとした会話を広げていると、いつの間にか安全圏へと退避していたデップが、両手を掲げて高笑いを始めた。嫌悪感にも似た耐え難い感情がザッシュの身を包んだ。


「チッ、気色の悪い笑い方しやがって。そうやっていつまでも高見の見物していられると思うなよ。コイツを片づけたら、次はてめぇだ」


 ザッシュはデップに対し、左手で自身の首を斬るジェスチャーを行った。所謂挑発行為であったが、この戦闘に対する時間稼ぎも兼ねていた。


(――さてと、どうするかな)


ザッシュは冷静に戦況を分析する。顎に手を置き考えに耽るのは傭兵時代からの癖だった。


(この程度なら『過去』にいくらでも乗り越えている。一つ問題があるとしたら今の状況に置かれているのがオレ一人ではないということだ。アリスあいつも決してやわじゃねぇことは知っているが、この状況はちと分が悪い。まぁだからこその短期決戦だ。劣勢になる前に決着カタを付ける)


「できれば使いたかなかったが……どうやら『アレ』をやるしかなさそうだぜ」


ザッシュは視線を自身の右腕に移すと、小声で「やれやれ」と一人悪態を付き、溜息を零した。

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