黄金卿の章―― 火薔薇の女 其の②

「さぁてと、そろそろ本題に入ってもいいかしら?」


閑話休題。ようやく落ち着きを取り戻し、四人掛けテーブルに備え付けられた椅子に腰かけた二人に対し、同じく腰を下ろしたイザラは神妙な面持ちで問いかける。


「話す前に二つ確認しておきたいことがあるわ。一つ目はあなた達の目的。二つ目はその動機についてよ」


この問いに対し、ザッシュは金属質の右腕を意味ありげに軽く叩き、静かに口を開いた。


「オレは――この都にかつてオレから『右腕』を奪った男が潜伏しているという情報を手に入れた。そいつをぶっ飛ばし、右腕を取り返すのがオレの目的だ」


「えーと。わたしは只の付き添いでーす」


ザッシュが胸の内を語った後、軽い口調でアリスが挟んだ。


「なるほどね。それで黄金卿エルドリッジ――ゾーレスの居場所を突き止めたいということね」


「……!? どうして、その名を?」


 動揺して、勢いよく立ち上がったザッシュを尻目に、イザラはザッシュに顔を合わせるとバツが悪そうに手を合わせた。


「……ごめんなさいね。実はあなた達の会話、こっそり盗み聞きしていたのよ。何か上手そうな話していたし、興味本位でね」


 そう言うと、先ほどのブローチをもう一度取り出し、一言『流声ストリーム』と唱えた。

 すると、ブローチは緑色に発光し、蓄音機の如く音声を流し始めた。それはまさしく先ほど2階の一室でザッシュとアリスが話していた内容そのものだった。


「こいつは……たまげたぜ。音声通信機ってところか?」


ザッシュは興味深そうに音声を垂れ流すそれを見つめた。奇しくもそれはかつて彼が軍にいた頃愛用していた軍用無線機に酷使していた。


「ええ。でもこれはアタシの特別製。盗聴器としても使えるようになっているわ。って言っても、認可証エンブレムを持っている人にしかできないから、同業者限定だけどね」


「だってよ、アリス。精々気を付けるんだな」


 ザッシュはしきりに髪飾りを気にするアリスを見つめると愉快気に口元を歪めた


「あー!バカにしてるでしょ!……大丈夫ですよ。そもそもわたし、今日初めてこの機能に気付きましたもん。音声通信機ですって!すごいですね!」


 そんなザッシュの視線にアリスは憤慨すると、興奮気味にザッシュに捲し立てる。発言にアホの子全開みを感じるのは、気のせいだと信じたい。



「……コホン、話が逸れてしまったわね。あなた達の目的は分かったわ。それで、レイニー・ゾーンで言っていたデップ――あの男と黄金卿――えと、ゾーレスだったかしら――がどう結びつくの?とてもあのクズがその恩寵を受けているとは思えないのだけれど」


「……さぁな。オレも街のゴロツキに聞いただけだから確かなことは分からねぇ。だが、そのデップとかいう奴が裏で関係しているのは間違いないだろう。じゃなきゃオレ達に対してわざわざ刺客なんざ送らねえよ」


 イザラが口にした漠然とした疑問に、ザッシュは瞑目して答える。一連の出来事は全て繋がっている。彼には確信はないが何処かそんな予感がしていた。

 一方、ザッシュの返答に対し、イザラは一瞬考え込んだ様な難しい表情をするも、やがて一人納得したように2回頷き、口を開いた。


「なるほど、筋は通っているわね。分かったわ。アタシの知っていることを教えましょう。少しズレるけれど、アタシと目標は共通しているようだしね」


「そういや、聞き忘れていたんだが、あんたの目的って――」


 ザッシュが続きを紡ごうとした時、イザラの双眸に赤い炎が灯ったのを彼は見逃さなかった。


「そんなもの決まっているじゃない。お宝よお宝。丁度良かったわ。あなた達が黄金卿エルドリッジを倒してくれるなら、色々と手間が省けるもの。はぁぁぁ!彼はどんなお宝を隠し持ってるのかしら。はーんわくわくするわぁ」


(全く、どうしてオレの周りにはロクな女しか集まってこねぇんだ)


 恍惚とした表情で頬を両手で抑えるイザラを尻目にザッシュは額を押さえながら心中で一人毒づくのだった。

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