【番外編】 クズ野郎とマリー

ふと目が覚めると、全く知らないところにいた。

そこにあるものはみなうすぼんやりとしたオーラを纏った玉だった。


『おいおい、こいつぁ一体、どうなってんだぁ?ん!?』


声を出したら声ならぬ声が出た。

その時に思い出した。ああ、そうか、オイラは・・・


『死んだんだったなぁ。』

『あら、あなたも死んだんですねぇ~。私と同じじゃないですか?』


となりの玉がオイラに話しかけてきた。

一瞬怖く感じたが、自分自身にも手足がないことを感じて、魂か何かの状態なのだろうと思った。


空からは太陽がギラギラ笑いかけていやがった。


――――――――

懐かしい夢を見た。

失ってしまったものとの出会いを。

いや、まだ居るんだがな。如何せん、今までの日常を思っちまう。


「葉巻でも買っておけばよかったかぁ?いんや、アイツが帰ってきたときに煙たがるかもしれねぇからな、HAHA」


ついつい独り言が出てしまう。


どこぞの特務が可能性を探し出したらしい。ほんの僅かな奇跡。それを感謝しなきゃな。


「アンタらは神様かもしれねぇな。」


携帯に映るその2人の顔に、頼りねぇなと思ったのは内緒だ。


――――――――


オイラとマリーが組んだのは単純に同期だったからってのがデカかった。

そうデカかっただけなんだ。

気付いたら、互いになくてはならない存在になっていた。と、言っても恋愛感情はねェ。どちらかと言えば、娘とか家族愛?そんな感じだった。

だからこそ奪われたのに、腹が立ってしょうがない。

相手にも。自分にも。


止めればよかった。

アイツにもっとちゃんと忠告していればよかったかもしれない。

なんでオイラはそんなに詰めが甘いんだ?年甲斐もなく、そんな自分に憤る。

いや、逆か。それだけ無為に生きてきたってぇ感じがしてしょうがない。


オイラが怪我したりしたときにゃ、しこたま怒ってくるやつがなんでそんな危ないことをしたんだ?そんな奴だからこそか。もう今となっては薄れ始めている、細部まで思い出せない自分の記憶が恨めしい。

どんなことでも、思い出に。なんかしらに変換してしまうとする、人の機能に腹が立つ。


「今戻ったぞ~女将。」

「お、アレックスはん、どうしてそんなに表情が死んではるん?」


やっぱり女将は鋭い。

正直苦手だ。笑顔の仮面でだませないから。


「なんてことねぇよ。気にするなぁ。」

「なんてことないってことないやろ。絶対なんかあるやん。あんさん騙せると思うてはるん?」


「……いや、なんでもないんだ。気にしないでくれよォ。頼む。」

「わかったわぁ……」


なんだかんだ、女将はわかっているんだな。こういう時の対応をわかってくれてる。

本当に……本当に……


ふと、頬に熱いものが流れてた。


「必ず、後で言うから。」

「分かった、待っとるで。」


「あぁ、待っててくれ。」



なぁ何処にいるんだ。

今のオイラはアンタに顔向けできてるか?

それは、オイラにとってアンタは重要な存在だった。

アンタにとってオイラは需要な存在だったか?


夜には似合わない光が、オイラには見えていたよ。

アンタが居るだけで。それだけでな。

アンタは決して太陽ではなかったよ。

でもなぁ?アンタは夜に道に迷ってたオイラに手を差し伸べてくれたんだよ。

それは確かに・・・光だったんだ。



――――――――


「なぁアンタ、どうしてオイラに付きまとうんだぁ?他に良いやつはいっぱいいただろう?オイラみたいなオジサンになぁに求めてんだい?」


ふと聞きたくなった。

講習のあともずっとオイラに構ってくるアンタに、オイラは特に出来ることもなければ、あげられるものもない。その上部署も違う。

オイラは首狩りの徒、アンタは事後処理。

やることも内容も全く違うのになんで?ってな。


「理由がいるんですかぁ?」

「はぁ?」

「あ、理由を付けるなら。毎日楽しく話せるお友達だからですかね?」

「いやぁ、オイラに聞かれても困るんだがなぁ。」


あまりにも、しっかりとした善意を受けて少したじろいだ。


「うーん、そうですね。私たちの世代で死神になる人少なかったじゃないですか。女性が特にいない年で。」

「そうだなぁ。それが?」

「少し心細かった中、下心なしに接してくれたのがあなただったから、じゃダメですかね?」

「ぷっ!HAHAHAHAHA!まじかぁ!?そいつぁ傑作だぁ!高々そんな理由で関わってこようとはなぁ!」

「む~、なんですか!?だめなんですかぁ!?」

「いーひっひっひ!あー腹がいてぇよ!最高だなアンタ!いいぜ、信頼してやろう!」


この時、嘘だって分かってはいた。だからこそ、大げさに笑ってやることにした。オイラは噓つき、それでいておちょくることが大好き。だからこそ、人一倍嘘を感じやすい。それでも、優しい嘘だからこそ良いだろうと思った。


「なぁ、マリー。」

「やっと名前で呼んでくれましたね?アレックス。なんですか?」

「コンビにならねぇか?」

「いいですねぇ。そうしましょ!」

「おっ?なんだ?言うの分かってたってぇ顔してやがらぁ。」

「えぇ、その通りですよ。だって相性がいいじゃないですか。」

「そりゃあ、噓つき同士ってことかい?」

「ええ、そう・・・ってわけないでしょう!?」

「HAHAHAHA!こりゃあ読めてなかったみたいだなぁ!」


ああ、なんて愛おしい。

アンタはオイラに人の心を教えてくれたのかもしれねぇ。

嘘ばっかついて生きてきたオイラに。



――――――――

部長たちが二人揃って現れた。


「お?アレックスじゃないか・・・あぁそうか。悪いな。」

「いや、良いんだよ。シン君。これはオイラの「そうやって抱え込むんじゃねぇよ。」ちょ?何するんだぁ!?」


俵のように担ぎ上げられてしまった。


「何って?今から食いまくるぞ。」

「おじさ~ん、夕食食べきれるの~?」

「うっ・・・小雨には黙っておいt「何を言うてはりますん?」ヒェ」

「まぁ分からへんわけでもあらへんけど・・・ほどほどにしいや?」

「ふはっ」

「おい!アレックス!何笑ってんだ!?」

「おじさんでしょ。」「シンさんのことどすえ。」「シン君のことだろぉ?」

「お前ら!いい加減にしろー!!!」

「ちょっと!揺らすんじゃねぇってバカ野郎!」

「部長に向かってバカやろうって何だこの野郎!」




――――――――


そんなこんなで多少の気は紛らわせられたが、多少でしかねぇ。

なぁ、道しるべを無くしたオイラはどうやって歩けばいいんだ?


――――――――

これは特務の後輩たちに出会う前日の話。

オイラは何度も助けられてるって感じちまうなぁ・・・

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