第7話 砂浜

 翌朝、レンは寮の自室のベッドで目を覚ました。

 彼女が瞳を開けると、目の前にストロベリーブロンドの髪も持つ美しい顔立ちをした女性が眠っている姿が瞳に映る。

 その女性はレンの腕に抱かれて眠るセラだ。


 レンは右手でセラの綺麗な髪を掬い上げる。その髪を愛おし気に優しく撫でてからレンはベッドから抜け出す。

 するとレンとセラの一糸纏わぬ姿が露になるが、レンは直ぐ様掛け布団をセラに掛け直す。


 レンは一糸纏わぬ姿のままストレッチを始める。


「んっ」


 暫くストレッチをしているとセラの吐息が聞こえて来る。

 レンがセラの方へ顔を向けると、どうやらセラも目を覚ましたようだ。


「おはよう。セラ」


 セラは上半身を起こし、豊満な胸を露になるのも構わず両腕を上げ身体を伸ばしている。

 そんなセラにレンは定番の朝の挨拶をする。


「んっ。おはよう。レン」


 セラもベッドから降り、レンの傍に寄って、共にストレッチを始める。もちろん、ぶつからない間隔を保っている。


 先にストレッチを終えたレンは着替えを済ませ、セラに声を掛ける。


「先に行ってるよ」

「えぇ」


 この寮に入寮してからルーティンになっているので、この言葉だけでお互いに意味を通じ合わせている。


 レンは部屋を出ていく前に、セラの元に歩み寄り、セラの顎に手を添え自分の唇をセラの唇に重ねる。


 唇を離したレンにセラが言葉を掛ける。


「私も直ぐ行くわ」


 その慈愛の籠った笑みを受けて、レンは洗顔道具を手に持って部屋を後にした。


 部屋を出たレンは顔を洗った後に、食堂に赴きコーヒーを淹れた。

 そのコーヒーカップを片手に、寮の数ヵ所に設置されている共有スペースまで移動して、テーブルにカップを置き、自身はソファに腰掛けた。

 右手でカップを掴み、口に含んで人心地つく。


 暫しそうしていると、亜梨紗と千尋が近寄って来た。


「ねぇねぇレンちゃんっ! 今レンちゃんの部屋からセラちゃんが出てきたんだけど、どういうこと!?」


 朝から元気な亜梨紗である。


「どうって、一緒にいたからさ」


 レンがそう答えている間に、千尋は向かえのソファに腰掛けていた。


「一緒って、・・・一緒に寝てたって事?」

「そうだよ」

「レンちゃんとセラちゃんって、ほんと仲良しなんだねぇ~」

「そうだね。仲良しだね」


 そんな会話をしていると、千尋のジーっとした視線がレンに突き刺さる。


「仲良しって、どれくらい?」


 その千尋から揶揄うような問い掛けをされる。


「ん? すごく? とても? 相思相愛? 当てはまる言葉ならいくらでもあるけど」


 とレンは答える。

 その言葉を聞いて、千尋は溜め息を吐き呟く。


「それはお熱い事で」


 そんな話をしていると、セラもカップを片手にこちらに歩み寄ってくる。彼女のカップには紅茶が入っている。


 セラも合流して四人で会話に花を咲かせた。


 コーヒーを飲み終えた所で、レンはセラに声を掛ける。


「セラ、そろそろ行こうか」

「えぇ」


 そう言って二人は立ち上がる。


「どこ行くの?」


 そんな二人に亜梨紗が問い掛けた。


「折角海が側にあるからね。朝食の前に砂浜を走ってくるよ」

「えぇ~ いぃな~ 私も行くっ! 千尋ちゃんも行くよね!?」

「ん。行く」

「そうか。なら私達も支度してくるから、玄関に集合ね」

「はーいっ!」

「ん」


 そうして各自部屋に戻って、支度を済ませに行った。


◇ ◇ ◇


「お待たせ」


 レンとセラが玄関の近くにあるソファに腰掛けて待っていると、千尋も合流した。

 そのまま三人で亜梨紗を待っていると、数人の人物を引き連れてやって来た。


「ごめーん。お待たせっ。みんなも行くって!」


 亜梨紗に連れられてやって来たのは、何と残りの野球部員全員であった。


主将キャプテンに伝えたら、どうせならみんなで行こうって」


 現在この寮では、涼が寮監を務めている。

 正式に寮監を雇うつもりらしいが、都合がつかず現在は寮監がいない状態だった。

 なので、理事長兼学園長であるレンの伯母の指示で、一時的に主将である涼が寮監を任されているのだ。


 寮監に外出の報告は欠かせないので、亜梨紗が涼に伝えてくれたのである。

 そしたら、折角だから皆で行こうと涼が決めたのだ。


「砂浜を走るのは体力を付けるだけじゃなく、足腰を鍛えるのにももってこいだからな」

「それが目的だからね」


 そうして、全員で砂浜に向かうのであった。


◇ ◇ ◇


 砂浜には無数の死体が転がっていた。

 いや、訂正しよう。死んではいないので、正確には死体ではないだろう。


「はぁはぁ。きっ、きっついっ」


 亜梨紗は砂浜に大の字になって呼吸を乱していた。


「あぁ。き、きついな」


 涼は砂浜に座り込んでいる。


 先輩の意地なのか二、三年生は寝転がらずに、腰を落とし座り込んでいる。

 ただ一人飛鳥は座り込まずに、比較的平気そうにして立っているが。


 一年組は、亜梨紗と慧が寝転がっており、千尋と澪の二人は砂浜に座り込んで呼吸を整えようとしている。

 一方、レンとセラ、そして純の三人は、余力を残しているかの様に立っていた。


「四人は平気そうね」


 そんな立っている四人に向かって、春香が声を掛けた。


「いや、結構きついですけどね」


 飛鳥は苦笑気味に春香にそう答える。


「ボクシングはもっと体力的にきついですから、これくらいならまだ大丈夫です」


 純は結構余裕そうだ。


「私達は普段から鍛えているからね」

「慣れよ。皆も続けていればそのうち慣れるわ」


 アメリカにいる頃から砂浜ダッシュをしていたレンとセラの二人はまだまだ問題ないようだ。


「涼。呼吸を整えたら、そろそろ戻ろう」


 そんなレンは涼にそう告げる。


「そうだな。学校に遅刻する訳には行かないからな」


 そうして、各々呼吸を整えた後に寮へと戻る事になった。


「折角だから走って戻ろう」

「そ、そうだな」


 事も無げに走って戻ろうと言うレンに、何とか平静を保って返事をした涼は褒められて良いだろう。


 走って寮に戻った面々は、シャワーで汗を流し、食堂で朝食をかっ込んでから、各々自分のクラスの教室に向かったのであった。


 ちなみに、砂浜ダッシュは恒例行事となり、鎌倉学館野球部の名物として、代々受け継がれて行くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る