第5話 ポジションと投球練習

「それではこのまま、ポジションを決めてしまいましょうか」


 体力テストの結果の話をしていると早織がポジション決めをしようと言った。


「二、三年生は人数不足でい様々なポジションを併用していましたから、これからは本来のポジションを中心に練習していきましょう。もちろん複数のポジションをこなせた方がチームとして助かりますから、他のポジションの練習をしても構いませんよ」


 レン達一年が入部するまでは人数不足だったため、様々なポジションを併用していたのだ。

 だか、今年からは一応人数は足りているので、本職に専念できる。


「ではまず、三年生から順に整理していきましょうか」


 早織はそう言って、涼と春香に視線を向ける。


「岡田さんは三塁手サードが本職でしたね」

「はい」

「これからも三塁手を中心にやっていきますか?」


 早織は涼に問いかける。

 涼は少し悩んだ素振りを見せた後に答えた。


「はい。三塁手をやります。ですが、これまで通り他のポジションも練習しておきます」


 どうやら涼は、三塁手他に、一塁手ファースト左翼手レフト右翼手ライトもやっていたそうだ。

 ちなみに、表記は得意な順だ。


「そうですか、わかりました。では、宮野さんはどうしますか?」


 続いて春香に問いかける。


「もちろん投手ピッチャーをやります。」

「他のポジションはどうしますか?」

「今まで通りやります。その方がチームに貢献出来そうですから」


 春香は迷う素振りもなく、すぐに答えた。


 春香は本職の投手の他に、左翼手、右翼手、一塁手、三塁手をやっていたみたいだ。


「では、次は二年生ですね」


 そうして早織は二年生に視線を向ける。


「先生」


 すると、飛鳥が二年生を代表する様に挙手をした。


「はい。何ですか椎名さん」


 飛鳥は早織の促しを受けて、口を開く。


「もちろん本来のポジションを中心にやりますが、私達も今まで通りやります」

「そうですか。他の二年生も同じですか?」


 早織は二年生を見回して問いかける。

 すると、二年生は皆一様に頷いた。


「「「「はい」」」」


 飛鳥の本職は二塁手セカンドで、遊撃手ショート、三塁手、中堅手センターもやっていた。

 

 そして恵李華の本職も二塁手らしいが、彼女は遊撃手、中堅手、三塁手、左翼手、右翼手、一塁手、捕手キャッチャーと投手以外の全てのポジションをやっていたそう。とても器用だ。


 静は外野専門で、外野の全て出来る。


 真希の本職は投手で、左翼手、右翼手、一塁手をやっていた。


 攸樹は一塁手が本職で、左翼手と三塁手をやっていたみたいだ。


「わかりました。では、二、三年生は今まで通りやっていきましょう」


 複数ポジションこなせるのは武器になるので、これは二、三年生達に努力の証しだ。


「では最後に一年生は、岡田さんから聞きましたが、可児さん以外は自己紹介の時に仰っていた志望ポジションで構いませんか? もちろん他のポジションもチャレンジしても構いませんよ」


 早織はレン達一年組を見回す。


「「はい!」」


 すると、亜梨紗と慧がすかさず返事を返した。


「「私も」」


 それに追従するように、千尋と澪も答える。


「加藤さんと市ノ瀬さんは投手で、守宮さんは捕手、進藤さんは遊撃手ですね。ヴィルケヴィシュテさんとニスカヴァーラさんも構いませんか?」


 皆は次々に決まっていって、早織はレン達に視線を向ける。

 レンとセラは数瞬目を合わせた後に、問題ないと答える。


「構わないよ」

「構わないわ」


 レン達の答えに早織は頷いた後に、思い出したよにレンに話しかける。


「ヴィルケヴィシュテさん、あなたは投手もやっていたんですよね?」

「あぁ、やっていたよ」

「でも、投手も兼任してください。投手は何人いても困ることはないですから」


 確かに限られた人数しかベンチに入れない中で、投手の負担を考えると投手も出来た方が応用が利く。


「了解したよ」


 そして早織は最後に純に視線を向けた。


「可児さんはこれから考えていきましょう。ですが初心者なので、まずは外野からですかね」

「わかりました」


 初心者なので色々挑戦してみて、どのポジションをやりたいのか、どのポジションが向いてるの試してみるのが一番だ。


「それでは、明日あすから本格的に始動しますのでそのつもりでいてくださいね」


◇ ◇ ◇


 翌日、レン達鎌倉学館野球部は本格的に始動した。


 レンは今、亜梨紗、千尋、澪、恵李華の五人で屋外ブルペンにいる。

 そして現在は亜梨紗が恵李華を相手に、澪が千尋を相手に投球練習をしている。


 レンは亜梨紗のピッチングをスピードガン片手に見学する。


 亜梨紗のオーバースローからの直球の急速は今のところ最速一一四キロ。

 決して速くはないが、球種が多い。

 正直どれも変化量も少なく決め玉になる様な球じゃないが、バッターは的を絞り難いかもしれない。


 球種はフォーシーム、ツーシーム、スライダー、カットボール、カーブ、スローカーブ、フォーク、チェンジアップ、シンカー、シュートを投げている。


 その亜梨紗の隣では澪が投球練習をしている。


 彼女の左投げのサイドスローからボールが投げ込まれる。

 今日の最速は一三二キロだ。


 球種はフォーシーム、スラーブ、スライドパーム、チェンジアップ、スクリューを投げている。


 彼女の変化球はどれも変化量があり、鋭い変化をしている。

 U―一五日本代表だった片鱗をみせていると言えるだろう。


 千尋は千尋で、澪の鋭い変化球を初見でボールを逸らす事なく完璧に捕球している。


 そうして暫く見学していると、レンの番がやってきた。


 亜梨紗と恵李華は打撃バッティング練習に向かい、澪はレンの投球練習を見守っている。


「まずは、軽めに投げるよ」


 レンは立ち上がっている千尋のミット目掛けて軽めにボールを放る。


「肩温まったから、座って」


 そのまま何球か投げ込んだ後、レンは千尋を座らせてオーバースローで投げ込む。


 すると投げ込まれたフォーシームは一三七キロを出した。


(速い。何より重い)


 レンの投球を受けていた千尋にはそう感じられた。


「次、スライダー」


 レンは千尋に宣言してからスライダーを放る。すると鋭いスライダーが千尋のミットに吸い込まれる。

 そのまま暫くスライダーを投げ込み続ける。


「次、ナックルカーブ」


 少し驚く表情を浮かべる千尋に構わず投げ込む。


 落差のあるレンのナックルカーブを千尋は初見で難なくしっかり捕球する。


(投げやすいな)


 千尋のキャッチング技術の高さに投げ易さを感じるレンは意気揚々と次々投球していく。


「次、スプリット」


 フォーシームとあまり球速が変わらないスプリットがどんどん投げ込まれる。

 レンのスプリットはフォーシームより少しだけ遅い球速で、打者の手元で鋭く落ちる。


 これも千尋は完璧に捕球し続ける。


「ラスト、サークルチェンジ」


 緩急のあるサークルチェンジを投球する。


(フォーシームやスプリットと織り交ぜれば、かなり使えるかな)


 千尋はレンのサークルチェンジを受けながら、配球をシミュレーションする。


 そのまま一先ず満足するまで投球練習を続けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る