結論から言って、京と兼の勝負は京の圧勝だった。喧嘩番長の名は伊達でないのである。

 完全伸び切った兼を前に、京は無傷でつまらなそうにしゃがみ込んだ。

「あっけねぇな」

「流石っす兄貴!!」

 キラキラと瞳を輝かせて言う虎徹に、京は立ち上がり、肩を竦める。

「まぁ、お前の怪我の礼には十分だろ。帰るぞ」

「はいっす!」

 と、そのまま何も気にせず出ていこうとしたところ。

「あ、あの!!」

 今時とても珍しいどでかいモヒカンヘアーをしたヤンキーが声を張り上げた。

「あ?」

 まだ何かあるのかと言う気持ちを込めて、京は不機嫌そうに振り返る。それにびくつきながらも、モヒカンは足を肩幅まで開き,腕を後ろで組んで空気を吸い込んだ。

「今のトップにはほとほと困ってたんです!倒してくれて、あざっした!!!」

 モヒカンを始めに、他の面々も同じようにして一斉にお礼を述べるのを見て、京は小さく笑い、片手を軽く上げた。

「おう」

「「「「「かっけぇ…」」」」」

 颯爽と虎徹を引き連れてその場を出ていく京に、ヤンキーたちは惚れ惚れとこぼすのだった。



「いい奴らでしたね!」

「ああ」

 やはり、ああいう連中は根っからのクズに利用されやすいのだ。それは少し気の毒に思う。だが、この世界は力が全てなことを、京は知っている。

 自分はたまたま元から喧嘩が強かったからよかったものの、あまり強くなかったら兼のようなクズの傘下に入れられていたかもしれない。

「俺は恵まれてるな」

 ポツリとつぶやいた京に、虎徹はパチクリと目を瞬かせる。

「…だったら、俺のほうがその倍恵まれてますね!」

 それに、今度は京が目を瞬かせる。そして、柔らかく笑った。

「サンキュ」

「!!」

 激レアな京の笑顔に、虎徹は顔を真っ赤にさせた。




 虎徹を家まで送り届け、京はふと、初めて虎徹と出会った場所へと足を向けた。

 彼の家の近くにある寂れたコンビニである。

 茜色に染まり始めた空を見上げて、遠い記憶を呼び起こす。


※ここから回想


 どら焼きを食べれず、仕方がないのでコンビニスイーツで我慢しようと思って足を向けた京は、なにやら言い争っている声を聞いてその足を止めた。

 少し奥まったところで、くりくり坊主のランドセルを背負った生意気そうな小学生が、柄の悪い不良に絡まれていた。

「………」

 京はそれに、不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、舌打ちをした。

 彼は、ああ言う輩が大嫌いだった。

「おーい、てめぇ小学生のくせしてコンビニなんて使ってんじゃねぇよ」

「そうだそうだ。お前なんかそこらへんの公園で泥団子でも食ってればいいんだよ」

 よくわからないイチャモンをつけてくる不良たちを、小学生は睨みつける。それに、不良の一人が顔を顰めてその胸ぐらをつかんだ。

「なんだよその顔、文句あんのかぁ?」

「……お前らこそ、こんなところで俺なんかに構って、暇なのかよ!」

「あぁん??」

「このクソガキ…っ!」

 拳を振り下ろそうとした、その時。

 音もなく後ろにやってきていた京が、その腕を容赦なく捻り上げた。

「いったぁ!!」

「なんだテメェ!」

 もう一人の不良が焦った様子でパンチをしてくる。それを腕を捻り上げた不良を盾にしてかわす。ぐぇっ、というカエルが潰れたような声が聞こえて、一人の不良がダウンした。

 もう一人も回し蹴りを一撃し、落とす。

 倒れた男二人をガン無視して、京はポカンと口を開けて座り込んでいた小学生を見下ろして、手を出した。

「…立てるか」

 語尾に疑問符をつけるのを忘れてしまった。なんだかバツが悪くて、京はそっと手を引っ込めようとした。が、その手を小学生ががっちりと掴んだ。そりゃあもう遠慮なく。

 それにびっくりして、京は目を軽く丸くした。

「…兄貴…」

「は?」

「兄貴と呼ばせてください!!!兄貴!」

 いや、もうすでに呼んでいるだろうというツッコミは、どこかに消えた。

 これが、京にとってのはじめての舎弟の誕生であった。


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